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JWU女子高等教育センター新旧センター所長対談

JWU女子高等教育センター(以下、「センター」という)が2019年6月1日に設置されて一年ほどが経過しました。初代センター所長として教育改革を進めた石川孝重教授と、次期所長に任命された長谷川治久教授が、センターのこれまでとこれからについて語り合いました。

2019年度の取り組みについて

長谷川(以下敬称略)
JWU女子高等教育センターは、「本学の建学の精神、教育理念を実現するため、学生の視点に立った継続的な教育改革を教職協働で進め、本学における教育の質の向上に寄与すること」を目的として2019年6月1日に設置されました。石川先生がそのご退職の年に、栄えある初代所長としてその任に当たられたわけですが、まずはこの一年弱を振り返ってのご感想、センターでの象徴的な取り組みについて教えてください。

石川
本学はどちらかというと学科の独自性を重視してきた大学です。それは各学科の専門性を高めるという意味で重要ですが、教育の質保証について大学として取り組むためには、学科の枠を超えて全学的な視点で考える組織・体制が必要でした。センターはそのために設置されたと理解しています。
こうした現状を踏まえ、今年度は緊急度の高い案件—教育改革を組織的に推進するためのFD・SD、学修成果の可視化に関する検討などに重点を置き、センター委員、センターの事務局であるIR推進室を中心に、教職協働で取り組んできました。
FDセミナーでは、教育改革に熱心な他大学の学長をお招きし、先進的な事例やいま特に重視されている教学マネジメント、IRなどについてご講演いただきました。
学修成果の可視化は難しい課題ですが、アセスメント・テスト活用方法の検討、ルーブリック評価の試行など、プロジェクトチームを作って教職協働で検討しました。

長谷川
1年弱の間で非常に多くのことに取り組まれたのだと感じます。これまで我々が行ってきた教育内容を「公表する」「見つめ直す」ことが必要であり、その2つの端緒をセンターが開いた、ということは大きな功績だと思います。
「教学マネジメント」というと、ともすれば「管理」「窮屈」というイメージに繋がりやすく、教員から「手間だけ増えて何のために」という意見が出されがちです。もっと自然体に、現在本学が行っていることをもっと活かせるような仕組みが作れると良いと思っています。

石川
教員には「何のために行っているのか」を繰り返し説明することが必要です。この「繰り返し」はとても大切です。啓発活動を繰り返す、諦めずに続けることが重要だと思います。世の中に100%は存在しないので、0%と100%の間、50%以上を目指すつもりで啓発活動を続ける必要があるでしょう。

全学的な視点で考えること

初代センター長 石川孝重教授
長谷川
本学は、どちらかというと学科主体であるという趣旨のご発言がありました。責任をもって専門を見るという点でそれは長所になりますが、ヨコの繋がりを活かす時にはどうでしょうか。今後センターを運営していくにあたって、どのような点に留意し、注力していくべきとお考えですか?

石川
初代センター所長としての役割の一つは、全学的な視点で考えるための「レールを敷くこと」であったと思います。学科中心の体制は、研究成果を挙げる点では非常に良かった。しかし、大学として全学的な基盤教育の在り方を考えるには、センターのような全学的組織が必要です。
本学は4つの科学系統を擁する総合大学です。この強みを基盤教育にも活かし、専門とは別に共通の能力をもって、学生に社会で活躍して欲しいと思います。

長谷川
文理融合教育、総合大学としての強みは、どのようにすれば引き出して行けるのでしょうか?

石川
2021年4月に人間社会学部が目白の地に移転することにより、4つの科学系統がワンキャンパスに集います。キャンパスが離れていると機能しにくかったことも、物理的距離が埋まることで総合力を発揮しやすくなるはずです。
具体的には、各学科のカリキュラムの中に学部・学科横断的な内容を分かりやすく取り込むこと、学生が主体的に履修できるような環境を整えていくことが必要だと思います。
今や専門性だけを追求しても、社会で通用しなくなっている。基盤教育も充実させる必要があると思います。

長谷川
基盤教育はもちろん大切です。しかし、他方では専門科目とのジレンマもあります。これまでとは異なる基盤教育が必要なのだと思いますが、石川先生のお考えはいかがでしょうか?

石川
本学のカリキュラムは多様化していますが、現在の学生のニーズとはマッチしなくなっている可能性があります。もう少し学生に分かりやすいカリキュラムを組むという視点で見直すことが必要でしょう。全学的な視点で検討を行い、日本女子大学らしい特長ある基盤教育ができると良いと思います。

本学らしい教職協働、そして社会と大学の関係とは

2020年4月からセンター長に着任した長谷川治久教授
長谷川
キャンパス統合に向けて教職員が一丸となって準備を進めています。教員と職員の連携という点において、センターが担う役割はどのようなものでしょうか?

石川
教職協働と言われて久しいですが、本学ではもっと教員と職員が一緒になって学生を育てていくべきだと思います。教育・研究などあらゆるものに「運営」という視点は必要で、教員が教育・研究に専念するためには、職員がこれまでより積極的に「運営」に関与していくべきだと思います。

長谷川
社会と大学の関係は今後どうあるべきでしょうか?

石川
社会なくして大学は存在せず、社会ニーズに応えられない学問は存在し得ない。今後はより一層、社会ニーズにいかに応えるか、大学の所有する知見をいかに社会に還元するかを考えなければならないと思います。大学は社会との繋がりにおいて、地域から評価される存在でなくてはいけない。

長谷川
お話を伺い、センターの位置付けやセンターが目指すべきものについて腹に落ちました。社会の中にきちんと位置付けられる大学であること。そのためには、我々自身が大学の良さを知っておく必要がある。知っているからこそ社会にアピールでき、それを知るためにIRやアセスメントがあるのだと思います。

次期センター所長へのメッセージ

石川
皆それぞれ考えがありますので、次期所長に「センターをどのように運営すべきか」について私自身の見解を押し付けたりはしません。一つメッセージを伝えするとすれば、「社会のニーズに応えていくことが存在意義である」という私自身のモットーを贈ります。

長谷川
ありがとうございます。本日キーワードとなった「全学的視点」「基盤教育」「教職協働」に対する石川先生のお考えをセンターの魂として受け継ぎ、次期所長としてセンターを担っていきたいと思います。
本学の良さを教職員が理解するための営みとしてのIR、アセスメントなど、これらをうまくプロデュースできる組織を目指したいと思います。

石川先生
成瀬先生は未来を見据えて本学を創設しました。我々が歩んできた10年とこれからの10年は全く違うでしょう。未来を見て、考えて動いてください。

長谷川
学内では既に石川先生ロスが広がっています。36年間、本当にお疲れ様でございました。また、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

プロフィール

(経歴は2020年3月31日時点)
石川孝重(いしかわ たかしげ)教授
住居学科教授。工学博士。生涯学習総合センター初代所長、学部長などを歴任し、2019年度6月よりJWU女子高等教育センター所長。
2019年度末をもって定年退職。
専門は建築構造、災害科学・防災、環境振動、建築社会学、教育工学。

長谷川治久(はせがわ はるひさ)教授
数物科学科教授。博士(情報科学)。メディアセンター所長、副学長。2020年よりJWU女子高等教育センター所長。
専門は通信ネットワーク工学、情報通信システムとその応用。