トピックス

卒業生

「好き」な気持ちを成長の糧に

東京ステーションギャラリー学芸室長
文学部国文学科卒業
田中晴子さん

学園ニュース VOL.261

桜が開花し始め、過ごしやすい季節になった3月中旬、東京駅丸の内中央口に直結する東京ステーションギャラリーで、本学卒業生 田中晴子さんのお話を伺いました。「学芸員は雑芸員」とおっしゃっていた田中さん。業務の一つ一つの内容やこれまで携わった企画展のことを、時間いっぱい丁寧にお話してくださり、学芸員という仕事に対する誇りと大きな愛を感じました。

「好き」を仕事にしたくて

大学生のころから「博物館学芸員になりたい!」というより、子どものころから好きだった美術が学べて、関連する職業への就職に役立つかもしれないと考え、博物館学芸員課程を履修していました。印象的だった課題は、自分が訪れた展覧会を客観的にまとめるレポートです。その中で初めて、自分の意見を書く感想文と、客観的に捉えて書くレポートは違うのだということを学びました。
自分の好きなことを生かせる仕事がしたいと思いながら就職活動を始めたころ、百貨店美術館の学芸員に興味を持ち始めました。博物館学芸員の職につくのは難しいと言われていましたが、幸運にも東武百貨店が美術館を開館するための準備をしている時期と重なり、学芸員として東武美術館で働くことになりました。
実は東武百貨店でも美術館学芸員の志望者数は多く、美術史専攻者と比べ国文学を学ぶ私は不利で、社内公募までに差を縮めたく思いました。まず上野の公募展に自分の作品を入選させて経歴をつけ、次に美術展や博物館見学の記録表を作って行った結果を記入し続けました。公募の申請用紙には、105件分の記録用紙のファイルと「百貨店における美術展のあり方」と題したレポートを添えて提出し、評価されたのです。

ギャラリー入口はJR東京駅丸の内北口改札の並び(写真は撮影当時)
ギャラリー入口はJR東京駅丸の内北口改札の並び(写真は撮影当時)

憧れの学芸員になって

近代日本美術分野と浮世絵担当として学芸員のキャリアをスタートさせましたが、スペイン絵画展を担当したり、お寺の調査に参加などしました。図録や会場解説のための執筆、展示作業、借用依頼や会議など日々違う仕事に飽きず、未熟な面は周囲の人が助け、育ててくれました。附属校園の教育は「書くこと」「表現すること」「伝えること」を重視した授業で、そのような学びも就職してから役に立ちました。
東武美術館閉館後、運良く東京ステーションギャラリーで募集がありました。現在開催する企画の予定は数年先まで決まっており、一人でいくつもの仕事を並行する大変さは、今も変わりません。仕事は「仕える事」で大変です。でもやり甲斐があり、充実していて楽しくもあるのです。

  • 歴史ある東京駅の面影を伝える展示の数々
    歴史ある東京駅の面影を伝える展示の数々

コミュニケーションを大切に

学生時代は「甘えていい期間」だと思います。若いころの失敗は許されると考えて、分からないことはコミュニケーションの一環なのでどんどん尋ねていい。はじめからすべてを出来る「レベルの高い自分」でなくて当たり前です。助けを求めれば差し延べてくれる大人に恵まれた環境です。モチベーションを維持しながら、諦めずに前向きに努力を続けていけば、理想の自分の姿が見えてくるのではないでしょうか。

プロフィール

田中 晴子(たなか はるこ)さん
附属豊明幼稚園から本学に学び、1991(平成3)年3月文学部国文学科(現日本文学科)卒業。同年4月東武百貨店に就職、9月の社内公募を経て、10月に株式会社東武美術館開設準備室の学芸員として出向。2001(平成13)年3月東武美術館閉館。同年4月より東日本鉄道文化財団に就職、東京ステーションギャラリーの学芸員となる。2006(平成18)年~2012(平成24)年東京駅復原工事に伴う休館期間は、新美術館設備、新収蔵作品のための調査や検討、財団施設を利用した企画展開催に携わる。2016年4月から現職。美術館では、5月19日(土)から「夢二繚乱」を開催、竹久夢二の自伝小説『出帆』挿絵原画134点をはじめ、楽譜や絵本、絵葉書、装幀本等が展示される。
HP http://www.ejrcf.or.jp/gallery/

インタビューを終えて

私と同い年の息子さんがいらっしゃるという田中さん。「お母さんと話すみたいな感じだよね」と、私たち現役の学生に向けたあたたかいアドバイスをたくさんくださいました。就職活動という人生の大きな節目を迎えるにあたり、前向きな気持ちより不安な感情を強く抱いていた私ですが、田中さんのように、自分と向き合い、努力を重ねれば、自分に合う仕事への道が築かれていくのではないかなと感じました。

●取材・文・学生記者
家政学部家政経済学科3年 佐々木茜