国際女性DAY記念講演 株式会社ムラン家 ムラン彩加さん
2025.04.23
日本女子大学では、毎年3月8日の「国際女性DAY」に合わせて、女性をエンカレッジすることを目的とした記念講演を行っています。2025年は、文学部史学科を卒業後、株式会社ユニクロへ入社し、現在は株式会社ムラン家を経営しフランスと日本を拠点に活躍されるムラン彩加さんに特別講演をいただきました。
特別講演では「世界で活躍する女性のキャリアとライフバランス ─ 世界への挑戦と葛藤のリアル ─」をテーマに、フランス駐在時の経験や、働く女性、母としてのライフバランスについてお話いただきました。
講演には、本学在学生、教職員、本学進学予定者も含めておよそ60名が参加しました。

ムラン彩加さんが語る「世界で活躍する女性のキャリアとライフバランス ─ 世界への挑戦と葛藤のリアル ─」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本日は、大学時代、ユニクロ時代、起業と移住、現在(子育てとのバランス)の4つのテーマに分けてお話しさせていただければと思います。
フランス語と文化に魅せられて──大学生活から始まった夢の軌跡
大学生の私は学問一筋というタイプではありませんでしたが、大学生活の思い出は本当に楽しかったという記憶しかありません。文学部史学科で学びながら、フランス人が経営するチーズとワインのお店でアルバイトをしました。更に本学のフランス研修に大学2年生の夏に参加し、この経験をきっかけにフランス語を本格的に学びたいと考え、フランスのモンペリエへ1年間の留学をしました。留学中は、現地の人々との交流を通じて実践的にフランス語を学び、同時にフランスの文化にも深く触れることができました。この経験がその後の人生に大きな影響を与えることになります。帰国後は「次は絶対に仕事でフランスへ戻ってこよう!」という思いを胸に、就職活動では日本とフランスの懸け橋になれるような企業で働きたいと考え、当時フランスのブランドをグループ会社に持ち、現地へも出店していた株式会社ユニクロに2011年に入社しました。

ユニクロでの挑戦と成長
入社後は、半年間の研修を経て店長へ昇格しました。新大阪店に配属され、店舗運営の実務を経験しました。その後、半年に1度開催される世界中の店長が集まる店長会議で、「フランスで仕事がしたい!」と手を挙げ、フランス語でその想いをぶつけたところ、柳井社長から「ぜひ行ってください!」と言っていただいて、本当にフランスへ赴任できることになりました。パリ・オペラ店の店長として、異なる文化の中での店舗運営やスタッフ教育に取り組みました。当時、留学を経て友人との会話レベルのフランス語は話せましたが、300人いる現地スタッフに店舗の方針を伝えたり、教育指導を行ったりする語学力は別のものです。そのため、はじめはコミュニケーションの面でとても苦労しました。言っていることが伝わらない、逆に相手が言っていることが分からない中で、リーダーとして責任を持つというのは大きな葛藤でした。

フランス人と日本人では仕事に対するアプローチが大きく異なります。例えば、日本では時間通りに出社し、笑顔で接客をするのが当たり前ですが、フランスでは当たり前ではありません。例えば、「なぜ笑顔で接客しなければならないのか?」と質問されることもあります。このような場合、一つひとつの仕事やその背景をしっかり説明し、納得してもらうことが大切だと学びました。また、評価の重要性も学びました。フランスでは、できたかどうかを細かく評価することが求められます。そのため、しっかり個人を評価することが必要だと知りました。文化の違いを理解し、それを尊重しながらも自分のやり方を貫く。この経験は、私にとって大きな学びとなりました。
人生の転機と新たな挑戦──フランスと日本をつなぐ起業家としての歩み
2016年に現地でフランス人の夫と結婚し、30歳を迎え次のキャリアや人生の方向性を考えるにあたり、2017年の夏にフランスへの赴任から5年を経て日本に帰国し、銀座店の店長として働き始めました。結婚して1年が経ち、子供が欲しいと思うタイミングが訪れ、
家族で話し合う中で子供を自然の中で育てたいという共通の考えに至り、それを実現するためには移住することが最適だという結論に達しました。こうして、ユニクロでのキャリアを続けるのが難しくなり、ユニクロを退職し軽井沢への移住を決断したわけです。当時はまだリモートワークが普及していなかったこともあり、自分の経験を生かし、日本とフランスの懸け橋になれる仕事をするために、自分で起業することを決めました。

最初は、フランスのメーカーからシードルというリンゴのお酒を輸入して卸売りをはじめ、さらにクレドレというフランスの調味料を取り扱ったり、太陽光を利用したアウトドアグッズの販売をしたりしました。その後、コンサルティング事業や、フランスの洋菓子店の日本進出の支援も行いました。

また、日本の食品や伝統工芸品をフランスに輸出する事業も始めました。パリにあるアンテナショップで日本の食材や工芸品を紹介するという仕事です。このような形で、今日本とフランスの架け橋となるような仕事をしています。
家族との時間と仕事の両立──限られた時間の中で模索する人生のバランス
現在、私は小学生の娘と3歳の息子を育てながら仕事をしています。毎日の生活は忙しく、朝から家族の朝ごはんを用意し、身支度を手伝い、幼稚園へ送迎をした後、午前10時から仕事を始めます。しかし、息子の幼稚園が終わる午後3時には迎えに行き、その後習い事に連れて行くことになります。このように、仕事ができる時間は非常に限られているのが現状です。それでも、家事や仕事をこなす合間には、家族との時間を大切にしています。
子育てと仕事の両立は本当に大変です。とくに、時間が限られている中で、仕事に集中したい気持ちと、家族と過ごす時間を大切にしたいという気持ちの間で葛藤しています。子供たちと過ごす時間は、ただ一緒にいるだけでなく、遊んだり、おいしいご飯を作ったり、思い出に残る瞬間をできるだけ作りたいという強い気持ちがあります。
出張で家を空けるときには、両親やベビーシッターのサポートに頼ることもありますが、サポートを受けること自体が簡単ではなく、もちろん費用もかかります。働き続けるためには、家族のサポートが不可欠ですが、その調整にも苦労が伴います。

フランスでは、育児休暇や男女問わず休暇を取りやすい環境が整っており、子育てと仕事の両立が支援されています。フランス人は親のキャリアを追求することが、結果的に子供にとっても良い影響を与えると考えているようです。しかし、日本ではまだまだ親が中心となって子育てをする考え方が根強く残っており、キャリアと子育てとのバランスを取ることが難しいという現実があります。
私は家族と幸せに暮らすことを最優先に考え、その上で自分のやりたいことを大切にして、楽しんで仕事をすることが家族の幸福に繋がると信じています。短期的には難しさを感じることもありますが、長期的な視点で仕事と家庭のバランスを取ることが、最終的には人生の充実につながると感じています。家族との時間を大切にしながら、仕事にも全力を尽くすために、今後も家族と幸せに暮らす人生を歩んでいきたいと思います。
講演参加者からの感想(一部抜粋)
私自身も史学科の学生で、日本の伝統や文化、歴史を世界に伝える事業をしたいと思っていたので、ムランさんの世界での活躍を知ることができ貴重な経験でした。(本学学生)
私は、今年の夏から1年間イタリアに留学に行く予定です。日本にはない価値観や文化に触れて自分自身を見つめ直す時間にしたいと考えています。ムランさんのお話を聞いて、自分にも海外での暮らしを生かした何かができるのでないかと、留学がとても楽しみになりました。(本学学生)
子育てとキャリアの両立に対する葛藤や、母として、働く社会人としての深い考えを学べました。(本学学生)
店長になってからフランス支店に異動になる際やユニクロを退社して起業するまでの行動力に驚きました。これから始まる大学生活に参考にしたいです。(本学進学予定者)
ムランさんの経験談は、海外での挑戦を考える人にとっての貴重な指針となると同時に、ライフバランスに挑む女性たちへのエールとなりました。
プロフィール
ムラン彩加 むらんあやか
2011年文学部史学科を卒業後、株式会社ユニクロに入社。新大阪店店長に就任し、入社後2年目にフランスに駐在。パリ・オペラ店店長を務めたほか、パリの新店舗オープンを成功させるなど、数々のキャリアを積みながら活躍をされてきました。現在は、株式会社ムラン家を起業。フランスメーカーの輸入卸販売業、輸出事業、コンサルティング業を営む。