国際女性デー記念講演 ユニセフ(国連児童基金)杢尾雪絵氏
2023.04.07
「国際社会で活躍できる人材になるために」
2023年3月8日(水)、「国際的な機関で働くOGに聞く」の第3弾として、国際女性デー記念講演がオンライン開催されました。今回は、日本女子大学附属高等学校、日本女子大学家政学部住居学科の卒業生で、現在はユニセフ(UNICEF:国連児童基金)ジュネーブ民間支援企画調整局副局長として活躍されている杢尾雪絵(もくお ゆきえ)さんに、スイスよりご講演いただきました。この講演は、キャリア支援課と国際交流課が共催し、本学在学生、教職員、本学進学予定者も含めて57名が参加しました。
世界の子どもたちが置かれている状況
皆さんはユニセフ、国連児童基金という機関のことを聞いたことがあるでしょうか? ユニセフは、子どもの権利を実現するために活動する機関です。「子どもたちが可哀想だから助けないといけない」という慈悲の気持ちではなく、「子どもの権利を守る」ための活動をしています。国連で採択されている子どもの権利条約は、196カ国で批准されています。生きていく、病気になったら医療サービスを受ける、学校に行って教育を受ける、これらはすべて子どもの権利です。子どもたちはどこの国で生まれても、同じ権利を持って生まれてきており、その権利を守るための仕事がユニセフの活動です。ユニセフでは世界190カ国で活動する「現場主義」を貫き、多様性とインクルージョンにコミットし、子どもの権利を推進する使命を担っています。
今、世界の子どもたちがどのような状況にあるかと言うと、紛争や暴力で苦しんでいる子どもが世界にはたくさんいます。ウクライナでは一年前から大きな戦争になってしまいました。ロシアとの紛争は2014年から始まっていましたが、普通に暮らしていた子どもたちが、ある日突然戦争によって被害を受けてしまう。またパンデミック(新型コロナウイルス感染拡大)の間は、全世界では15億人の子どもたちが通う学校が休校になりました。日本でも子どもたちへの影響がが大きかったのではないでしょうか?
そんな中、感染症を防ぐ一番の対処法は手洗いでしたが、世界の学校の43%には石鹸で手洗いできる設備がありません。さらには気候変動、台風やサイクロンなどでも、子どもたちが被害を受けています。また、世界各地で水害や干ばつが起きており、子どもたちの暮らす状況は悪化してきています。実はその一方で、日本でも子どもたちの権利が脅かされているのではないでしょうか。いじめ暴力、差別や性的搾取、そして貧困の格差が広がっています。
日本で経験した女性差別が、海外に出るきっかけとなる
皆さんの中にはすでに海外で働くということを志望し、準備をされている方もいらっしゃるかもしれません。私は、大学在学中、自身が海外で働くということは全く想像していませんでした。
日本女子大学附属高校に通っていましたが、その時は漠然と、仕事で自立できる道を探したいと思っていました。住居学科を選んだのも、技術を身につけて、建築の仕事ができればいいと思っていたからです。
大学卒業後、建築事務所に勤務し、都市計画関係の仕事に就きました。その仕事をずっと続けたいと志望していましたが、そこで女性差別を経験しました。当時、対外的な仕事をすることが多かったので、「あの若い女性では困る」と言われたり、私より経験の浅い男性が優遇されたりと、女性であるというだけで不平等や差別を感じました。私が青年海外協力隊に参加したのは、自分の技術を磨き、語学力もつけて日本に戻ってくれば、もっと認められるのではないかと思ったからです。英会話も海外のことも知らないままでしたが、2年間海外で活動することで、ある意味箔をつけたいと考えたのです。
私の勤務地は、南国のフィジーでした。海が美しく、空が青くて椰子の実がなり、白い砂浜の国というイメージがありますね。しかし私が赴任した年に初めてのクーデターがあり、人種間の抗争が起こっていました。貧困格差、地域と都市の格差、そうした社会構造を目の当たりにし、同じように生まれてくる子どもたちが、どうして差別を受けているのか、という疑問を持ちました。そして、国際開発人道支援のあり方を知り、改めてこの道に進むのが良いのではないかと考えるようになりました。30歳でフィジーから帰国し、国連ボランティアも経験し、そして米国の大学に留学しました。
30歳は、当然もう自立して色々な仕事をしている年齢というふうに思われるかもしれません。国連機関で働いている私たちは大学を卒業後、民間企業、政府関係機関、NGOで人道支援や国際開発の実務経験を積み、その経験をもとに国連機関に入ります。国連機関は、即戦力を求めているので、OJTはほとんどありません。将来は国際機関で働きたいと思っている皆さんは、今すぐ国連機関に入ろうというのではなく、この先10年間ぐらい何を経験したらいいのかを考えていただきたいと思います。
キャリアは、結婚や出産後もキャッチアップできる
今日は国際女性デーですから、女性として働く、キャリアを確立するのはどういうことなのかについても触れたいと思います。私は晩婚で高齢出産をし、14歳になる娘がいます。30歳で米国の大学に留学をし、ユニセフに入った時はすでに30代の半ば近く、私の30代はキャリアを中心に考えていました。40代となり家庭を築くことができたのは非常にラッキーだったと思いますが、女性として仕事か家庭かどちらかを選択しなければいけない、ということはありません。国連で働いている仲間も、同じように家庭と仕事を両立して生活をしています。
20代の学生の皆さんにはピンとこないかもしれませんが、30代というのは自分の仕事に脂がのって、大きく成長できるときです。そんなときに、私はこれから結婚して出産をするのか?といった疑問が出てきます。子どもを持ったとしても、30代だとまだ子どもが小さく、このまま仕事を続けていくのかどうかという壁が、女性にはあると思います。
そんなとき、自分でコミットすることによって、両立していくことは可能です。今、人生100年時代と言われていますが、例えば国連の定年退職の年齢は65歳なので、もし35歳で出産をした場合、その先まだ30年間もキャリアを積める期間があります。私の30代の後輩たちにも、充分時間があるから、1年間でも休職して子どもを妊娠、出産し、自分なりの時間を取ってからキャリアに戻ってきても大丈夫ですよ、と話をしています。今、このプロジェクトを優先しないと、この先のキャリアに繋がらないという考えではなく、私にはこの先何10年も時間があるから、いくらでもキャッチアップできるという余裕が持てる考え方が、とても大切です。もちろん、結婚しないという選択をする人、子どもが欲しくてもできなかったという人もいます。こうしないといけないということではなく、個人個人の選択が尊重されるべきです。
講座参加者からの感想(一部抜粋)
・就職に直面し、自身のキャリア構築について迷走するなかで、今日の杢尾さんのお話は今まさに自分が求めていた言葉でした。これから本格的に就職活動を進め、自分の人生を生きていくなかで、今日抱いた熱い気持ちを思い出して邁進していけたらと思います。(本学学生)
・杢尾さんが将来の展望をお話になった時、「世界を変えたい」と仰っていました。私も高校生の時、大学進学すらも悩んでいて、将来の夢が全くない状態でしたが、「世界を変えたい」という思いが漠然とありました。杢尾さんのお話を聞いて、まだ具体的なものはないのですが、改めて考え直していこうと思いました。(本学学生)
・女性のキャリアついてのお話がとても印象に残りました。難しい世の中だよな、と思っていたので、片方しか取れないことはないという言葉を聞いて、前向きな気持ちになれました。一日一日今あることに積極的に、人との関わりを大事に過ごしていきたいなと思えました。(本学進学予定者)
・学生時代に国際協力の現場で働くことを目指していた身として、とても興味深いお話ばかりでした。人生100年時代、自分のキャリアをここでもう一度見直す貴重なお話でした。(本学職員)