国際女性DAY記念講演 宝酒造インターナショナル株式会社有馬るねさん

2024.04.18

世界をフィールドに活躍する日本女子大学卒業生が語る

日本女子大学では、毎年3月8日の「国際女性DAY」に合わせて、女性をエンカレッジする事を目的とした記念講演を企画しています。2024年は、翌年に控えた食科学部の開設(仮称・構想中)を記念し、新学部の母体となる家政学部食物学科の卒業生で、カルビー株式会社を経て現在は宝酒造インターナショナル株式会社でグローバルに活躍されている有馬るねさんに、座右の銘である“Choose adventure whenever it’s possible(可能なかぎり冒険を選ぼう)”をテーマに、そのご経験についてお話しいただきました。この講演は、3月9日(土)にキャリア支援課と国際交流課が共催し、本学在学生、教職員、本学進学予定者も含めて90名が参加しました。

冒険に富んだ人生を選んだから今がある

私の人生は冒険の連続でした。そこにはリスクや迷い、不安が常に付きまとっていましたが、冒険を選んできたおかげで今も充実した楽しい仕事人生を送ることができていると感じます。大学時代の私は、アルバイトで貯めたお金でイギリスとフランスを訪れ、仕事でも海外へ行けたらいいな……と夢を見ている学生でした。

入社して実感した食品メーカーで働く魅力とは?

1998年に家政学部食物学科食物学専攻を卒業し、カルビー株式会社へ入社しました。入社後は研究開発部へ配属され、広島風お好み焼き味のポテトチップスの開発を担当しました。東京で生まれ育った私には馴染みのない味でしたが、広島県出身の同僚へのヒアリングや広島風お好み焼き屋巡りを通して味の特徴を探し求め、商品開発を進めました。苦労して開発した商品が、やっと店頭に並んだ日の感動は今でも忘れられず、食品製造業で働き続ける原動力になっています。自分が手掛けた商品が何百万もの人の手に届けられることは、食品メーカーで仕事をする醍醐味でもあります。

忘れられない海外への思い

しかし、充実した毎日を送る一方で、私の心から海外で仕事をするという夢が消えることはありませんでした。悶々と悩む日々を過ごしていたある時、タイの子会社での研究開発のチャンスが訪れました。言葉の壁や女性の海外派遣に前例がないこと、達成感があるその当時の仕事を失うことに対して二の足を踏みましたが、入社して4年間なかったチャンスがまたいつ巡って来るかわからない!と考え、思い切って手を挙げました。

タイへの冒険で掴んだ成長

実際にタイの子会社で働いてみると、行く前に抱えていた不安は杞憂だったということがわかりました。午前中にタイ語の学校へ行き、午後は仕事でタイ語を使い、勉強と実践を重ねることで3か月後には自分が仕事の範囲で使うのに困らないくらいタイ語が習得できたことは、大きな自信につながりました。さらに、製造開発を担う一員として経営会議にも参画させてもらえたことで、会社が物を作って売り、利益を得て投資を行い、また新しい商品を作るサイクルや、お金が回っていく仕組みを知ることができました。

マネジメントに近づくための冒険

こうした経験から、いつか海外子会社の社長になり、現地の人と力を併せて良い会社を作っていきたいという思いが芽生え、マネジメントに近い仕事にシフトしたいと考えるようになりました。こうして、日本のマーケティング部で海外のプロジェクトを担う人材の公募を機に、タイを離れることに決めました。マーケティング部では、自分の強みである製造開発の知識やプロジェクトを遂行するための外国語などを仕事の軸としながら、足りないマーケティングの知識をビジネススクールなどに通い習得していきました。4年間でじゃがりこなどの商品を中国やシンガポールなどで販売するプロジェクトリーダーを担った後、念願だった海外事業部へ異動し、ヨーロッパ担当として子会社の立ち上げを担いました。ヨーロッパ中をリサーチし、会社を作る場所から売る商品、ビジネスプランを立て、2年後にイギリスとスペインに子会社を立ち上げました。キャリアも海外事業部の課長、部長とステップアップをし、兼務で子会社の非常勤取締役として、経営に本格的に参画できるようになりました。

冒険を続けるために必要な学び

しかし、少しずつステップアップしていくと同時に、必要な知識を蓄えることも不可欠でした。自分でビジネススクールに行き、今度は経営や会計、財務、人事などについても学びました。また、ポジションが上がるにつれ英語の要求レベルが上がっていき、自分の実現したいことができなくなる危機感を感じました。30代はずっと英語の勉強をしており、グラフの通りTOEICの点数(オレンジ線)が上がるにつれて、英語を話す際の緊張レベル(青線)も低くなっていきました。英語に限らず、ビジネスにおいて同じようなシーンというのは必ず訪れるので、場数を踏めばある程度緊張しなくてすむ術を覚え、今も緊張感を減らしています。

有馬さんのTOEICの点数の伸びと英語を話す緊張レベルの経年変化のグラフ
有馬さんのTOEICの点数の伸びと英語を話す緊張レベルの経年変化のグラフ

さらなる冒険、タイ子会社の社長へ

従業員500名、日本人3名のタイの子会社の社長になってほしいという打診を受け、タイに約10年ぶりに渡りました。部下との関わり方やリーダーとしての振る舞いについて、悩み失敗もしながら時間をかけ模索しました。さまざまな方法を試し、状況に応じてリーダーシップスタイルを変えることを身に着けました。また、強引に引っ張るようなリーダーシップスタイルは取らず、オーケストラのように順番に一人ひとりの持ち場を見ながらハーモニーを作っていく共感型・調和型のリーダーシップが自分に向いており、キャラクターを無理に変える必要はなく、自分らしいリーダーになればよいということを知りました。英語とタイ語が話せることは最大の強みであり、自分の支えとなりました。昔自分が必死で勉強したことを、経営トップとして最大限活かすことができた瞬間でした。

和食を世界へ拡げる冒険へ

現在は、宝酒造インターナショナルグループで、海外にある日本食のレストランなどへ日本食材の販売をする商社のような仕事をしています。日本食の文化を世界に広めることで、日本食とセットで、海外トップシェアを誇る宝酒造の日本酒の需要をさらに拡大することが目的です。食材を輸出する場合、国ごとに食の嗜好や規制、使える食品添加物の種類も異なり、各国の規制に合わせたカスタマイズが必要です。大学で学んだ食の知識はもちろん、前職で培った商品開発の技術が活きる仕事で充実した日々を過ごしています。

Create Your own adventure

今日は私の冒険の話をしましたが、みなさんはこれから自分の道を切り開いていくことになると思います。大切なことは、自分がやりたい気持ちを諦めずに持ち続けることです。そしてどんな時でも、心の中から消し去らないでください。今はだめでも10年後には成し遂げられるかもしれません。チャンスが訪れたと時に、手を伸ばせなくなってしまわないように、情熱を持ち続けてほしいと思います。

特別記念講演では、「挑戦することへ恐怖を感じるとき、どのように自分を奮い立たせていますか?」という学生からの質問に対して、「挑戦する時、すべてが未知のように見えますが、実はその一部には自分がすでに成功してきた経験があるものです。例えば私の場合でいえば、マーケティング部への異動は大きな挑戦でした。しかし私が以前タイで培ったコミュニケーション能力や製造開発の知識が、その時の拠り所になりました。自分がこれまで培ってきた経験や能力を信じることで、新しい挑戦に立ち向かう勇気が持て、自分を奮い立たせることができるのだと思います」と話されました。

最後に、食科学部(仮称)学部長予定の中島教授より、来年の4月に新学部食科学部(仮称)が開設予定であり、有馬さんのように海外で活躍される卒業の輩出に力を注ぎたいと話されました。

プロフィール
有馬るね ありまるね

1998 年日本女子大学家政学部食物学科食物学専攻を卒業後、カルビー株式会社入社。研究開発部門からキャリアをスタートし、欧州での会社および製造工場の立ち上げに従事。その後、タイ現地法人であるカルビータナワット社の President 兼 CEO に就任。現在は、宝酒造インターナショナル株式会社において、海外食材卸部の上級専門部⾧として、日本の食材を広く世界に発信する業務において活躍。