ヤマザキマリ先生による特別講義 「ルネサンス美術と異端の画家たち」

2025.04.03

【授業紹介】国際文化学部「西洋近現代美術史」

国際文化学部の2024年度後期授業「西洋近現代美術史」(担当:河本真理教授)内の、2024年11月6日(水)および2025年1月8日(水)回で、同学部の特別招聘教授であるヤマザキマリ先生による特別講義が行われました。
「西洋近現代美術史」は、印象派以降の西洋近現代美術を、その時代における社会の幅広いコンテクストの中で論じる授業で、年代順に概観していきます。ヤマザキ先生の回では、西洋近現代美術を理解するために必要なルネサンス美術を中心にお話しいただきました。
ヤマザキ先生は『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』『妄想美術館』『リ・アルティジャーニ:ルネサンス画家職人伝』などのご著書でもルネサンス美術について語られています。

新時代を作った
異端者たち

ルネサンス美術は14世紀にイタリアのフィレンツェを中心に興りました。「ルネサンスとは、崇拝のアイコンとしての宗教画が中心であったそれまでの美術が、ポピュリズム的な要素を持ったエンターテイメントに変わっていった運動です」とヤマザキマリ先生は話します。
その運動を牽引したのは、定義された絵画のルールや既成概念に縛られず、新たな一歩を踏み出した「異端・変人」の画家たちでした。
ヤマザキ先生も影響を受けたというのが、13世紀後半から14世紀前半にかけて活躍し、ルネサンス絵画の先駆者として知られるジョット。「ジョットの絵の特徴として眉間のシワがあります。それまでは崇拝のアイコンとして絵画は在りましたが、『絵画の中の人物も、自分たちと同じ人間なんだ』と世間が認識するきっかけを作りました。自然描写や構図の捉え方にも、それまでにはない新しさがあります」(ヤマザキ先生)。その後、ジョットの絵画に触発され、さまざまな画家が新たな絵画表現を開拓し、ルネサンスの活動は次第に大きなうねりとなっていきます。その中で「異端中の異端」とヤマザキ先生が紹介するのが、パオロ・ウッチェロ。「彼も初期ルネサンスの代表画家のひとりですが、彼の作品《聖母子像》のキリストをぜひ見てほしいです。こんな微笑みのキリストを描いた人は、後にも先にも彼だけです。彼は遠近法オタク。遠近法に固執し続け、絵と数学を融合させて一点透視図法を生み出しました」(ヤマザキ先生)。
授業で紹介されたルネサンス初期の画家たちの活動が、ミケランジェロ・ブオナローティ、ラファエロ・サンティそしてレオナルド・ダ・ヴィンチという近現代美術にも大きな影響を与える、ルネサンス期における三大巨匠の誕生につながっていきます。
「特筆した才能や他の人にはない発想を持った人は、どのような時代のどのような場所でも妬みの対象となり、『異端』というレッテルが貼られてしまいます。それでも社会がその人たちを押し潰してしまうのではなく、受け入れ、生かせることが大切です。島国である日本は同調性が強く、“空気を読む”ことが求められる社会であるため、大陸の各国に比べると『異端』が活躍しにくかったのですが、今後は変わっていかなければならないでしょう」(ヤマザキ先生)。

2回目の授業では、リアクションペーパーとして寄せられた学生たちからの質問にも、時間の限り答えていだきました。
単身17歳で渡伊してフィレンツェの国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で学んだエピソードや『テルマエ・ロマエ』で描いた古代ローマ人と日本人の共通点について、ヤマザキ先生の漫画・作画のスタイルやおすすめの美術館など、尽きない話題と先生の軽快な語り口で全2回、計200分の特別講義はあっという間に過ぎていきました。

国際文化学部では、芸術文化からポップカルチャーに至るまで多彩な表象文化の理解を深め、得た学びを社会へ向けて発信することで、「越境力」を培っていきます。
「越境力」とは、物心両面の境界を越えてそこにある現実に触れ、既成概念を打ち破っていく力です。今回、ヤマザキ先生に教えていただいたルネサンス美術を創っていった異端の画家たちとも、どこか通ずるところがあるのかもしれません。