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新型コロナウイルスが明らかにした日本社会の不平等
研究分野
労働経済学

NHKクローズアップ現代+に出演して
2020年6月9日(火)に放映されたNHKのクローズアップ現代+「“新たな日常”取り残される女性たち」に出演しました。
メールなどで事前に打ち合わせはしていたのですが、番組で放映されるVTRを実際に見たのは当日でした。実際に仕事を失った人が語る経験談は文字で読むのとは違う力があるのだと感じました。
番組で最初に聞かれたのは、リーマンショックでは男性派遣労働者が大きな影響を受けたのに対して今回は女性なのはなぜかという質問でした。就業機会がサービス部門にシフトしていて、サービス部門では男性よりも女性に多くの就業機会を提供しているからなのですが、そう答えながら、脳裏に若かりし頃のアメリカ留学時代のことが蘇りました。
社会経済の変化から見える女性の無償労働への負担増加
当時はアメリカの女性の社会進出が進んだ時期で、大学では男女の不平等を是正するためのアファーマティブアクションが実施され、男性が多い専攻分野を選択する女性を応援する雰囲気がありました。その後この動きはヨーロッパ大陸に広がるのですが、その背後には経済の構造変化があり、経済のサービス化が大きく関わっていることが次第にわかってくるのです。
女性が結婚後も働くとなると(既婚)女性の家事や育児の負担をどうしたらいいのかということが社会問題になってきて、社会も性別役割分業から男女平等社会への転換が求められるようになります。この価値転換はどの社会でも難しいのです。家事や育児などの労働が女性に偏っているのは世界共通の現象で、学校の授業がオンラインになり、夫も在宅で家にいるようになると女性は2重負担を強いられ、労働時間を短縮したり、仕事をやめたりしなければならない場合もあります。
番組でも、夫婦共働きで幼い子供のいる家庭で夫婦ともにテレワークをしている家庭の日常が紹介されました。学校に子供を送りに行くのも、帰ってからの宿題を見るのも食事を作るのも全てお母さんで、結局お母さんが仕事に取りかかることができたのは夜の11:00でした。なぜそんなことが起きるのかというと、夫の会社で頻繁にオンライン会議が開催されるからなのです。つまり、会社の働かせ方において、働くものが行なっている無償労働は職場で可視化されていないのです。つまり日本は今サービス経済化が進んだ先進国が抱える共通の問題に直面しているというわけです。
しかし、日本特有の問題もあります。それは非正規労働者の問題です。男性よりも女性の方がパート就労しやすいという点は世界共通ですが、その処遇は極めて低いというのは日本の特徴です。雇用保障もなく、賃金は最低賃金に準拠し、その最低賃金は先進国の中で最低です。
圧迫される女性の非正規労働者と今後の課題
今回のコロナ禍では、正社員の3割が影響を受けたのに対して、非正規労働者では過半数を超えています。その中には、母子世帯や未婚で老親の世話をしている世帯など、非正規労働の収入で生活をしている人も少なくありません。他方、非正規労働者は夫に扶養されている既婚女性がほとんどという前提で、何かあったときのセーフティーネットが十分に整備されてこなかったのです。コロナ禍が明らかにしたのは、女性の貧困対策とセーフティーネットの拡充が今緊急の課題になっているということなのです。
プロフィール
大沢真知子(おおさわ まちこ)教授
南イリノイ大学経済学研究科博士課程修了、経済学博士
コロンビア大学社会科学研究センター助手、シカゴ大学ヒューレットフェロー、ミシガン大学ディアボーン校助教授、日本労働協会(現日本労働研究・研修機構)研究員、亜細亜大学経済学部助教授・教授を経て1996年より現職
研究キーワード
労働経済
主な著書など
『経済変化と女子労働—日米の比較研究』日本経済評論社、1994
『新しい家族のための経済学』中公新書、1998
『働き方の未来—非典型労働の日米欧比較』日本労働研究機構、2003
『ワークライフバランス社会へ』岩波書店、2006
『ワークライフシナジー』岩波書店、2008
『ワーキングプアの本質』岩波書店、2010
『女性はなぜ活躍できないのか』東洋経済新報社、201)
『21世紀の女性と仕事』左右社、2018
『なぜ女性の管理職は少ないのか』青弓社、2019