海外研修に向けて一歩を踏み出す!協定大学ウェルズリー・カレッジと英語で学んだ2日間
2025.08.04

国際文化学部では、1年次に実施される海外研修「スタディ・アブロード・プログラム(SAP)」に向け、異文化理解や語学力の向上を目的とした学びを展開しています。
今回はその一環として、7月2日(水)~3日(木)の2日間にわたり本学の協定大学ウェルズリー・カレッジ英文学科Yoon Sun Lee (ユンサン・リー)教授を招いたアメリカ文学作品に関する全編英語の特別講義と、同教授による大学紹介イベント「ウェルズリー・カレッジフェア」の2つのプログラムを実施しました。
アメリカの文化や大学の学びにふれる貴重な機会となりました。
留学準備演習の授業では、アメリカで暮らす日系移民の人々の生活や心の葛藤について学んできました。特に、日本で生まれ育った親世代(一世)と、アメリカで生まれた子ども世代(二世)のあいだに生まれる文化や言葉の違いによるギャップ、そして、家族の中に残る家父長的な価値観に揺れる姿に注目しました。
こうしたテーマをとおして、学生たちは、日系アメリカ人が直面してきた社会的な構造や感情のゆれ動きを、ヒサエ・ヤマモトの文学作品を手がかりに読み解いてきました。その集大成として行われたのが、7月2日(水)に開催したLee教授を迎えた講義です。授業は全編英語で行われ、学生たちは文学作品をもとに、英語での議論や質疑応答にも積極的に取り組みました。

文学作品に込められた「隠されたプロット」を読み解く
今回の授業では、これまでの授業で学生たちが読み解いてきたヒサエ・ヤマモトの短編小説「十七文字」 “Seventeen Syllables”と「ヨネコの地震」“Yoneko’s Earthquake”を題材に、ウェルズリー・カレッジのLee教授が全編英語で解説を行いました。
冒頭では、16世紀の画家ピーテル・ブリューゲルによる《イカロスの墜落のある風景》が紹介されました。ギリシャ神話のイカロスとダイダロスをモチーフにしたこの絵画は、農民たちが日常を過ごす静かな風景の片隅で、イカロスが海に墜ちていく様子を控えめに描いています。Lee教授はこの絵画になぞらえ、「ヒサエ・ヤマモトの作品でも、物語の中では目立たない場所にこそ重要な意味が込められている」と語りました。
“Seventeen Syllables”では、学生たちが家族関係や文化的背景について積み重ねてきた理解をもとに、登場人物の言動の背景を英語で議論。「なぜ主人公一家は他の野菜や果物ではなくトマト農場を営んでいるのか?」という素朴ながら本質的な問いが学生から上がると、Lee教授は当時の日系人移民の農業との関わりについて、歴史的文脈を交えて解説しました。

続いて扱われた“Yoneko’s Earthquake”では、特に母と娘の間に流れる微妙な感情の機微に焦点が当てられました。Lee教授は、作品中の象徴的な描写や行間に込められた思いを一つひとつ丁寧に読み解き、表面的な理解では捉えきれない深層に目を向けるよう促しました。「どんな些細な質問や感想でも構いませんよ」という教授の柔らかな声掛けに背中を押され、学生からは「自分の解釈では理解が追いつかなかったが、新しい視点をもらえた」といった感想も聞かれました。
両作品の講義後には、マウント・ホリヨーク・カレッジからのインターン生も交えたグループディスカッションが行われ、学生たちは英語で質問を投げかけたり、それぞれの意見を共有し合ったりしながら、異なる視点や価値観に触れ、作品理解をさらに深めていきました。授業後、個別にLee教授に質問する学生の姿も。
文学を通じて異文化を読み解く力が着実に育まれていることが感じられる学びの時間となりました。

ウェルズリー・カレッジフェア
7月3日(木)、 Lee教授に参加いただき、大学と留学の魅力を伝えるウェルズリー・カレッジフェアが国際交流課主催で行われました。アメリカ留学に興味を持つ学生を対象に「ウェルズリーってどんな大学?」「アメリカの大学って、どんな雰囲気?」などの疑問に応えるとともに、アメリカの大学や留学生活を具体的にイメージしていただくためのイベントです。
まずは、Lee教授よりウェルズリー・カレッジとキャンパスライフの紹介をしていただきました。一部のアジェンダをお届けします。
カレッジ周辺の環境やキャンパスライフ
ウェルズリー・カレッジの2024年秋 入学生の総数は2,300名で、留学中の学生は165人。アジア系の学生は25.7%を占めます。
カレッジのあるボストンでは、近年あまり雪が降らなくなったそうです。たまに降ると学生寮で暮らす学生たちは食堂からトレイを持ち出して、そのトレイに座って坂を滑り降りて楽しんでいるそうです。ウェルズリーには非常に多くの学生団体があり、多くは異なる文化を祝うことをテーマにしていて、ダンスや音楽、文化交流を目的とした団体もあるとのこと。そのほか「ホワイトヘッド天文台」という観測所があり、そこでは学生たちは19世紀に作られたとても古い望遠鏡も利用できる、というエピソードをさまざまな写真とともに披露しました。
また、ウェルズリー・カレッジのキャンパスはその広さと美しさが魅力です。まるで公園のようで、500エーカー(約200万㎡)の敷地を誇るそうです。設計者はフレデリック・ロー・オルムステッドという非常に有名な造園家で、ニューヨークのセントラルパークも手がけた方です。
Lee教授による、専門分野と所属学科の学びの紹介
ウェルズリー・カレッジでのLee教授の専門分野は以下の通りです。
・18・19世紀の英国文学
・英国ロマン主義文学
・アジア系アメリカ人文学
・小説理論
・物語と文学理論
Lee教授の所属学科は、The Department of English and Creative Writing(英語文学・創作ライティング学科)で、授業のスタンスや特徴を以下のように話しました。
・文学の学びは創造的かつ批判的であるべきだと考えている
・批評的な授業ではシェイクスピアからハーレム・ルネサンス、SFに至るまで幅広いトピックを扱う
・創作ライティングの授業には、詩、ノンフィクション、児童文学、映画・テレビ・ゲームのための執筆などがある
・すべての授業を通じて、文学言語に対する深く、複雑で、情熱的な反応を育てる
このように、ウェルズリー・カレッジの授業は「ディスカッションに基づいた授業」「協働と問題解決を促す」ことで、それぞれの学生が個人として力をつけられることを目指しているそうです。
そしてLee教授は、学生生活の特徴としてこのような点を挙げました。
· 学生は一生懸命勉強するが、楽しむことも忘れない
· 学生は自分自身の独自のアイデンティティを学ぶために来る
· 学生はお互いに励まし合い、支え合う
· 学生はキャンパス内で共に生活し、深く長く続く友情を築く
Lee教授のプレゼンテーションを通じて、ウェルズリー・カレッジは、学びと成長を大切にしながら、互いを支え合う温かく多様なコミュニティであり、学生同士の絆や自己探求の機会が豊富な場所であることが分かりました。
Lee教授のプレゼンテーション後には、英語での質問コーナーを行いました。学生1人ひとりの質問に向き合って、笑顔で丁寧に答えるLee教授の姿で、教室は明るく和やかな空気に包まれました。
参加した学生の感想
・留学に興味があって参加しました。実際に先生のお話を聞けて、ウェルズリー・カレッジの学生の様子や、留学に行くメリット、女子大学の良いところを知ることができて良かったです。
海外に行った経験がないので、語学力に不安がありましたが、純粋に留学が楽しそうと思えたのと、興味のあるキャビンアテンダントや英語科教員に英語力や留学経験を生かしていきたいと思えました。(英文学科 1年)
・漠然と留学に憧れを持っていて今回参加しました。話を聞いて具体的なイメージが湧いて、より行きたいと思えました。このイベントでは全員が英語でコミュニケーションをとるため、とても刺激を受けました。もっと頑張りたいと思えました。(英文学科 1年)

今回のイベントは、留学へのイメージを具体化するだけでなく、英語力向上へのモチベーションアップにも寄与するイベントとなりました。
Lee教授の感想
—— ゲストスピーカーとして参加してみていかがでしたか?
本当に素晴らしい経験でした!
田中先生がクラス構成を丁寧に準備してくださり、学生や授業について必要な情報も事前に共有していただきました。初回の訪問時には、学生 2 名がキャンパスまで案内してくれました。日本女子大学の学生はとても魅力的で、講義中は熱心に耳を傾けてくれましたし、少人数ディスカッションでは意欲的に発言してくれました。別セッションで実施したウェルズリー・カレッジの紹介も予想以上に多くの学生が参加し、全員が質問してくれたのが印象的でした。
ボストン・プログラムの事前授業の一部としてリベラルアーツ教育をテーマにした授業もありましたが、講師として大変やりがいがありました。教職員・学生の皆さんとの交流はどれも楽しく、有意義で、学長・副学長にお会いできたことも光栄でした。
美しいキャンパスと素晴らしい建築を目にできたこと、そして心温まるおもてなしに深く感謝しています。
—— 特に女子大学であるウェルズリー・カレッジで学ぶ価値は、本学の学生にとってどのような点にあると思いますか?
同じ女子大学でも、ウェルズリー・カレッジには多方面において非常に多様な学生が集まっています。人種・民族・経済的背景の多様性に加え、ジェンダー・アイデンティティやジェンダー表現の面でも幅広い学生が在籍しています。「女性」という概念の捉え方が異なるさまざまな人と出会い、対話する機会は、学生にとって貴重で刺激的な体験になるでしょう。また、ウェルズリーの教員は授業内外で学生一人ひとりにきめ細かなサポートを行うことで知られており、それも大きな魅力だと思います。
—— 本学の学生にウェルズリー・カレッジで体験してほしいことは?
日本女子大学の学生には異なるバックグラウンドやアイデンティティを持ち、世界を多様な視点で見るウェルズリー・カレッジの学生と交流してほしいです。そして、ウェルズリー・カレッジの授業が提供する深い知的探究を楽しみ、教授陣との距離の近さを体感しながら、ぜひ美しいキャンパスライフを満喫してもらえればと思います。
教室の学びを越えて、現地での学びへ
文学を通じて社会や文化を読み解き、英語で自分の考えを伝える力を養う——。
国際文化学科では「越境」をテーマに、教室やキャンパスの枠を超えた「脱教室・脱キャンパス型」の学びを展開しています。
まもなく学生たちはキャンパスを飛び出し、現地でのリアルな学びへと向かいます。