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研究

『ジャパン・ダイエット』で健康な暮らしを

日本女子大学 家政学部 食物学科
管理栄養士専攻
家政学部長
丸山千寿子教授

研究分野

臨床栄養学、栄養教育論

よりよい生活を創造するために

笑い話みたいですが、家政学部は家政婦さんを連想させるという人って結構多いんですよ。もっとも、家に関わるという意味では少なからず共通する部分もあるわけですが・・・。社会全体の中で人々が住まう場をいかに整えていくか、そのためになにをすればいいのか。それらを創造していくのが家政学部です。1901年の開校時から続いており、創立者の成瀬仁蔵がアメリカ留学中に見た女子教育の在り方が基盤になっています。

日本における当時の女性は、社会を担う子どもを産み、育て、家を守るべき存在でした。では、社会とはなにかと言えば、家という小さなコミュニティが成長し、集合した形とも言えます。その意味で女性の役割は極めて大きく、それゆえまずは女性の教育にこそ光が当てられるべきではないか。そういう信念が成瀬にはあり、この学部の発展を支えてきたのです。

家政学部の内容は多岐に渡ります。子どもの心身の発達を科学し、保育士や教員の養成に関わる「児童学科」、生きていくために欠かせない食を学び、食事療法などを通して医療にも携わる「食物学科」、時代に即した衣生活やより快適な被服を文化的・科学的に創造する「被服学科」、住まいやすく、健康的で、積極的な交流が図れる住空間をデザインする「住居学科」。そして人々が生活していく上でどのような問題があり、なにが必要なのか、それらを経済・経営・消費といった面から分析し、発信する「家政経済学科」。現在、この5学科から成り立っているのが当学部です。

食と栄養がもたらす健康な暮らし

私は食物学科で教鞭を取り、栄養や食生活から動脈硬化を予防・治療するための研究に取り組んでいます。そもそも日本人は世界一、動脈硬化になりにくいと言われていました。それは魚や大豆、麦飯、海藻といった食物を自然にバランスよく取っていたからなのですが、日本人の生活に元々なかった洋食文化がいつしか主流になったでしょう? 多かれ少なかれ影響が出てくるのは当然です。

それを食事療法によって、いかに改善していくか。そのために私は『ジャパン・ダイエット』という名称を提言しました。その元で検証を繰り返し、少しでも多くのデータを積み重ねていくことが使命のひとつだと感じています。

薬と違って即効性がなく、時間もコストも掛かり、しかも医療行為ですから必ず医師に共同研究者になってもらう必要があります。それゆえ効率とは無縁ですが、苦しんでいる患者さんと密に関わり、結果が出れば例外なく「ありがとう」と感謝される。それがなによりの歓びですね。

検証のための客観的なデータを出すには学生が積極的に共同研究者として関わっています。その経験は彼女たちにとっても糧になっていることでしょう。人が相手ということは課題に対して三択や五択の中に答えはなく、もしかしたら正解なんてないかもしれません。それでも山のようにある選択肢の中から最適な解を導き出すという行為は、人生においても永遠の課題。その基礎が養われるという意味でも本学科の存在意義は大きいものだと考えています。

30歳になった時のイメージを持つこと

本学を目指す皆さんには、ひとりの人間としてどう生きていくか。そのためになにをすべきか。そういったことを考えられる人になって頂きたいですね。もっとも、それだと漠然としているので、例えば30歳になった時になにをしていたいか、あるいはどうなっていたいか。それをイメージしながらベストな道を見つけ出してください。

家政学部で学んだことは、暮らしのありとあらゆる部分に関わり、その真価が問われるのはむしろ卒業してから。人は生涯をかけて向上し、発展していくものですが、学力やスキルはもちろん、人々と関わっていく上で欠かせないコミュニケーション能力を本学で高めてもらえるといいですね。

プロフィール

丸山千寿子(まるやま ちずこ)教授
家政学部長。日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒。医学博士。脂質異常症や高血圧、肥満などに起因する動脈硬化性疾患の予防・治療のために、新しい栄養療法の開発と治療効果を高める教育法の開発研究を行っている。日本動脈硬化学会の理事。主な著書に『栄養教育論』、『ビジュアル栄養療法』、『1型糖尿病の治療マニュアル』などがある。

研究ワード

栄養教育、臨床栄養学、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化症

主な論文

・Japan diet intake changes serum phospholipid fatty acid compositions in middle-aged men: A pilot study.
・Effects of a Japan diet intake program on metabolic parameters in middle-aged men: A pilot study.
・Effects of consumption of main and side dishes with white rice on postprandial glucose, insulin, glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1 responses in healthy Japanese men.

学術研究データベース