チョコレートを使った官能評価研究で学会優秀発表賞を受賞

2025.06.02

【学生インタビュー】家政学研究科食物・栄養学専攻2年 松尾栞奈さん

2024年11月9日(土)に開催された「日本官能評価学会2024年大会」において、家政学研究科食物・栄養学専攻1年(当時)の松尾栞奈(まつおかんな)さんと平井智美(ひらいともみ)助教(当時)、飯田文子(いいだふみこ)教授が発表した「3種の味覚溶液の混合作用に関する官能評価について」が、学会優秀発表賞を受賞しました。
現在は同専攻の2年として、さらなる研究に取り組む松尾さんに受賞研究の内容や日本女子大学での学生生活について伺いました。

甘味・苦味・渋味を評価し
チョコレートの味を探求する

——このたびはご受賞おめでとうございます。まずは、発表された「3種の味覚溶液の混合作用に関する官能評価について」の研究内容について教えてください。

ありがとうございます。
チョコレートの嗜好には甘味・苦味・渋味といった味の混合作用が影響していると指摘されていますが、これらの味覚の混合に関する研究はこれまであまり行われてきませんでした。そこで私は、チョコレートの甘味・苦味・渋味に相当する味覚溶液(甘味:スクロース、苦味:カフェイン、渋味:テオブロミン)を調製し、その混合作用を調べることで「味」そのものを探求したいと考えました。
具体的にはカカオ分70%チョコレートに合わせた濃度の混合溶液を作り、単体の溶液を基準値として、混合溶液では味の強度がどう変化するかを官能評価(食品の味や香りなどを人の五感を用いて評価する手法。今回の研究では溶液を口に含んで評価)で調査しました。
たとえば甘味の場合は、まず甘味のみの溶液を評価の基準とし、苦味や渋味を加えた3つの混合パターン(甘味+苦味、甘味+渋味、甘味+苦味+渋味)では甘味の強度がどう変化するかを比較しました。苦味と渋味に関しても同様の方法で評価しています。
さらに応用として、カカオ分70%チョコレート濃度を基準として、60%と80%での甘味・苦味・渋味の強度も比較しました。
今回は同じ研究室の学生17名に協力していただき、各自2回ずつ計34回のパネル評価を行い、データを集計しました。

官能評価を行う松尾さん
官能評価を行う松尾さん
——その結果、どのようなことが明らかになったのでしょうか?

チョコレートにおいては甘味と苦味、甘味と渋味は混合すると、それぞれの味の強度が弱まることが明らかになりました。また、渋味には苦味を強める作用があることが示唆される結果となりました。さらにカカオ分の濃度の違いによっても味の強度に差が生じることが分かりました。
今回取り上げた渋味は「曖昧な味覚」とされていて、先行研究も少ないです。今後は渋味の評価方法の検討や、チョコレートにおける香りと味覚の関係を明らかにすることで、渋味という味をより深く理解し、チョコレート以外の食品開発にも生かせるような結果が出せればいいなと思っています。

——研究の今後も楽しみです。そもそも、味覚溶液を使ってこのような研究を行なおうと考えたのはなぜですか?

学部生の時にはチョココーティングアイスバーに関する研究を行っていたのですが、大学院進学にあたってその研究は後輩に引き継いだため、新たな研究テーマを探す必要がありました。チョコレートに関する知見を深めたいとは考えていたのですが、すでに多くの研究が進んでいる分野でもあったため、「大学院という、長期間じっくり研究に取り組める環境だからこそ、根本の『味』に着目しよう」と考えました。
実際のチョコレートで官能評価を行うと、含まれる油分によるコーティングで苦味や渋味が緩和されてしまいます。また、香りの影響も大きいです。そこで、根本の「味」だけを評価するために、それ以外の影響を受けない味覚溶液を使った研究を行いました。

官能評価結果を調査票に記していく
官能評価結果を調査票に記していく

官能評価を極め
「おいしさ」の正体に迫りたい

——過去の受賞者を見ても錚々たる大手食品メーカーの研究者が多いです。その中で受賞されたお気持ちを聞かせてください。

そうですね。まさか私が賞をいただけるとは思っていなかったので、本当に驚きました。ただ、まだまだ解明すべき課題も多いので「これからも研究をがんばりなさい」という激励の意味も込めて賞をいただけたのかなと感じています。50分間のポスター発表では、途切れることなく多くの方々に足を止めていただき、さまざまな質問やアドバイスをいただくことができました。今後の研究方針を考えるうえでも、とても良い機会になりましたし、今年度の学会でもさらなる成果を発表できるよう、研究を続けていきます。

——松尾さんの将来の目標についても教えてください。

食品や食材の根本にある「味」や「香り」を解明することで、曖昧とされる「おいしさ」の正体に迫れるのではないかと考えています。「どうしておいしいのか?」という問いに対して、明確な理由を示せるような研究を行っていきたいです。官能評価はその手段としてとても有効だと感じているので、今後もこの手法を極め、社会に出てからも食品開発などに携わり、「おいしさ」の解明に取り組みたいです。

日本官能評価学会でのポスター発表の様子
日本官能評価学会でのポスター発表の様子
——最後に、日本女子大学での学生生活の印象を教えてください。

私は高校1年生の時に日本女子大学のパンフレットを見て、大好きなチョコレートの研究が行われていることを知り、興味を持ちました。また、調理学や食品学、食品包装学など、食に関して多角的な視点で幅広く学べる点にも魅力を感じ、家政学部食物学科(現 食科学部食科学科)を志望しました。当時から、現在所属している飯田先生の研究室に入りたいと考えていました。
私は理系寄りではなく、数学で受験したので、入学後に化学を基礎から学び直す必要があり、大学1年生のときはとくに大変でしたが、分からないところがあればすぐに先生に質問できる環境が整っていたので、がんばることができました。
学科の同級生は明るく活発でありながら非常にまじめな子が多い印象です。実験や実習も多く、コミュニケーションを取り合いながら切磋琢磨して、お互いに高め合える環境があります。みんな「食べることが大好き」という共通点があるので、いつも食べ物の話をしていた思い出があります(笑)。大学院に進学せず社会で活躍している友人も多いですが、今でも仲が良く、連絡を取り合っています。

——少人数だからこそ築ける絆もありそうですね。改めて、この度はご受賞おめでとうございました!