独学で保育士になって約10年。小規模保育所の課題に挑む
2025.06.06

2024年5月11日(土)~12日(日)、一般社団法人日本保育学会(以下、日本保育学会)第77回大会がオンラインで開催され、本学家政学研究科児童学専攻を2025年3月に修了し、現在学術研究員である永島さくら(ながしまさくら)さんの発表「小規模保育所における連携の実態と課題(1)—連携体制づくりの観点から—」が「研究奨励賞(大会発表部門)」に輝きました。受賞の通知が届いた2025年3月半ば、永島さんに今回の受賞と今後の展望について伺いました。
保育・幼児教育分野 最大の学会で受賞
「まだ信じられません」
今回、日本保育学会より研究奨励賞をいただけたことは、まだ信じられない思いです。受賞に関するメールに気づいたのは電車の中でした。思わず声を上げてしまい、その後、何かの間違いではないかと、10分間ほどメールを読み返しながら呆然としていました。
日本保育学会は約5,000人の保育実践者と研究者が所属する、保育・幼児教育分野で最も規模が大きく歴史ある学会です。「研究奨励賞(大会発表部門)」は、第77回大会における146題の口頭発表の中からわずか1題、私の研究のみが選ばれました。
受賞のご連絡をいただくまで、私の研究は世間から必要とされていないのではないかと不安に感じることが多かったです。発表当日の質疑応答でもフロアから質問が出ず、さらにオンライン開催だったこともあり、手応えを感じられなかったためです。この度、多くの素晴らしい発表の中で名誉ある賞をいただけたことは、大変光栄であると同時に、自身の研究をより深めていきたいという思いを新たにしました。

誰も取り組んでいない
「小規模保育所」の研究
私はこれまで保育士として約10年間働いており、そのうち7年ほどは小規模保育所に勤務してきました。小規模保育所とは0~2歳児を対象とした定員6~19人の少人数の保育所であり、3歳になるタイミングで他の幼稚園や保育所などに移行する必要があります。しかし、移行に関する取り組みは自治体によって差があることが明らかとなっており、小規模保育所から移行先の教育・保育施設へ園児の情報が共有されないケースも少なくありません。子どもたちが新たな環境に円滑に移行するためには、その過程での連携が非常に重要であり、そこに自治体ごとの差があってはならないと私は考えています。
小規模保育施設に関する調査や研究は盛んに行われているとは言えず、今大会においても小規模保育施設をテーマとした研究は私の発表のみだったと思います。
研究の成果として、埼玉県越谷市が全国に先駆けた連携体制を構築していることが明らかとなりました。他の自治体や国での制度化を進めていくためにも、今回の受賞を機に多くの方が本研究へ関心を持っていただければ嬉しいです。

「ピアノ」を仕事にしたい
芸術系大学から保育士へ
保育士になるためには国家資格が必要ですが、私は独学で取得しました。もともと私は保育分野ではなく、高校の音楽科を卒業後、芸術学部がある大学へ進学しピアノを学んでいました。進路転換のきっかけは大学でプロのピアニストになる難しさに直面したこと。そこで「ピアノを生かせる仕事をしたい」と進路を考えた結果、大学の4年次に保育士試験を受験しました。独学で試験に臨んだ私にとって1回で全ての科目に合格することは難しく、また、当時の保育士試験は年1回の実施だったため、資格を取得するまで3年間を要しました。
保育士として働き始めて、ピアノを生かせる機会は思っていた以上に多くありました。例えば、「リトミック」という音楽教育法があり、私が弾くピアノの速さを子どもたちが聞き分け、リズムに合わせて身体を動かすことで感性や表現力、集中力などを養っています。
また、保育士が活躍できる場は保育所に限らず、学童保育や児童館、発達障害がある子どもを支援する療育施設など、多岐にわたります。実際に現場で働く中で、保育士の需要の高さを実感しました。
一方で、「保育士はブラック」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、現在は認可保育所で働く保育士に対して「保育士処遇改善加算」が適用され給与補助が出るなど、待遇の改善も進んでいます。保育士はライフステージの変化に応じて柔軟に働き続けられる、安定した職業だと感じています。
大学院での研究生活
2年間はあっという間でした
保育士としてのキャリアはさまざまで、年数を重ねていく中で保育所の所長を目指したり、パート勤務に切り替えたりする方も多いですが、私は小規模保育所の課題について研究したいと思って、日本女子大学大学院への進学を決意しました。
大学院進学後は、午前中に授業を受け、午後は保育所で働き、日曜日はピアノ講師を続ける日々でした。論文執筆は移動などのスキマ時間を活用し、振り返るとあっという間の2年間でした。
特に印象的だったのは、請川滋大(うけがわ しげひろ)教授のゼミです。請川教授は学生それぞれの興味・関心を尊重してくださったため、ゼミ生とのディスカッションは活発に行われて、視野を広げることができました。また、学んだ知識をそのまま午後の保育の現場で生かせたことも日々の充実感につながりました。
大学院修了後は、学術研究員として本学に所属し研究を深めながら、保育士を養成する専門学校で教壇に立つ予定です。また、これまで働いてきた保育所でリトミック講師も務めます。保育の現場と接点を持ち続けることで、研究にも教育にも生かしていきたいと考えています。
高校生へ
まずは一歩を踏み出してみて
大学選びやその先の進路を迷っている方もいるかもしれませんが、私が芸術系大学から保育士を目指したように、人生の中で目指すものが変わってもいいと思います。まずは自分の興味のあるところに飛び込んで、好きな学びにどっぷり浸かってみるのはいかがでしょうか。
また「児童学科」への進学を考えている方の中には、卒業後は子どもに関する仕事にしか就けないというイメージがあるかもしれません。ですが、実際の卒業生は幅広い分野で活躍しています。保育について学ぶ中で新たな自分に出会うこともあるかもしれません。皆さんがそれぞれの目指すものに向かって、大きな一歩を踏み出すことを応援しています。

修士論文指導教員 請川教授より
小規模保育施設で働いていた永島さんが私の研究室を訪れたのは、大学院を受験する数か月前だったかと記憶しています。その時から、大学院で学びたいという熱い気持ちを持った人でした。研究テーマについての相談があり、自身の勤める小規模保育施設の保育について研究するのが良いということをアドバイスしたところ、大学院入学後、先行研究の少ない中でそれらの研究・調査を丹念に進めてくれました。今回、日本保育学会で研究奨励賞(研究発表部門)をいただくことができたのも、そういった努力が認められた結果として喜んでいます。今後、修士論文の成果をブラッシュアップして、学会誌に投稿するなどしてさらに多くの人に永島さんの研究成果を目にしてもらいたいです。
