板橋区中央図書館でのわらべ歌収集プロジェクトが完了
2026.04.23
2023年2月にスタートした、板橋区立中央図書館、イタリアのボローニャ市立サラボルサ児童図書館および日本女子大学社会連携教育センターによる連携事業「わらべ歌収集プロジェクト『POLPA(ポルパ)板橋』」は、2025年11月に開催された第7回ワークショップをもって、その活動を終えました。録音に協力してくれた子ども達は延べ50名、収集したデータは63種にのぼり、そのうち59曲がサラボルサ児童図書館のデジタルアーカイブに収録されています。
今回は、立ち上げ期から本プロジェクトに携わってきた家政学部児童学科の根津知佳子(ねづちかこ)教授に、これまでの取り組みを振り返ってお話を伺いました。
※POLPA:「P(POESIA/詩)」「O(ORALE/口伝えの)」「L(LUDICA/遊戯的)」「P(PUERILE/子どもの)」「A(AUTENTICA/本物の、正真正銘の)」の頭文字からなる造語。サラボルサ児童図書館が展開する「わらべ歌収集プロジェクト」の理念を表しています。
※ここでは、連携事業で共有した「わらべ歌」の表記を用います。
日伊の協働から広がる、わらべ歌を未来へつなぐ取り組み
——「わらべ歌収集プロジェクト『POLPA板橋』」が始まったきっかけを改めて教えてください。
2014年に日本女子大学と板橋区教育委員会とが「学術研究の発展と教育施策の充実のため、相互の協力により包括的な事業連携を実施する」協定を締結した関係で、本学と板橋区立中央図書館は、2019年頃から連携を進めており、当初は児童学科の他の教員が読み聞かせ講座などを担当していました。一方、私の専門は音楽教育なので、「図書館と音楽をどう結びつけるか」という点でなかなかイメージできず、取り組み方を決めあぐねていました。そのような中、以前から交流があった板橋区立中央図書館とサラボルサ児童図書館が2022年3月に姉妹提携を締結したことをきっかけに、サラボルサ図書館で行われている「わらべ歌収集プロジェクト」を板橋区立中央図書館でも実施することになりました。そして、その責任者として私に声がかかりました。
これまで私の研究では、フィールドで子どもたちの歌を録音し、それを楽譜に起こして記録する方法を取っていました。しかし本プロジェクトでは、「活動の質感や子どもの声色など、楽譜化する過程で削ぎ落とされてしまうものがある」という考えのもと、誰でもどこでもアクセスできる音声データとして保存することを重視しています。その発想は目から鱗で、本プロジェクトへの参画はとても新鮮な経験でした。
—— わらべ歌を収集するうえで、特に大変だったことは何でしょうか。
はじめての取り組みだったので、大変なことはたくさんありました(笑)。まず必要だったのが、「わらべ歌」の定義です。私たち研究者と子どもたちとでは、わらべ歌に対する認識・イメージが異なり、子どもたちにとっては身体を使う遊びは必ずしも「わらべ歌」だと認識されていなかったのです。
そこで板橋区立中央図書館の方々とも議論を重ね、本プロジェクトにおける「わらべ歌」を、「日本語を母語とする子ども達によって口伝えに歌い継がれてきた遊び歌」と規定しました。それにあわせて、わらべ歌を収集するイベント名を「歌って遊ぼう わらべ歌!」(※1,2回目は『みんなで歌おう!わらべ歌』)とし、小学生を対象に参加者を募りました。
もう1つ苦労したのは、当日までイベントに参加する子どもたちの学年が分からないこと、さらに天候によってわらべ歌の収録場所が左右されることです。学年ごとに親しんでいるわらべ歌は異なりますし、屋内(図書館ホール)か屋外(図書館前のみんなの広場)かでもできる遊びは変わります。そのため、毎回複数のパターンを想定しながら実施する内容を準備し、ドキドキしながら当日を迎えていました。
2014年に日本女子大学と板橋区教育委員会とが「学術研究の発展と教育施策の充実のため、相互の協力により包括的な事業連携を実施する」協定を締結した関係で、本学と板橋区立中央図書館は、2019年頃から連携を進めており、当初は児童学科の他の教員が読み聞かせ講座などを担当していました。一方、私の専門は音楽教育なので、「図書館と音楽をどう結びつけるか」という点でなかなかイメージできず、取り組み方を決めあぐねていました。そのような中、以前から交流があった板橋区立中央図書館とサラボルサ児童図書館が2022年3月に姉妹提携を締結したことをきっかけに、サラボルサ図書館で行われている「わらべ歌収集プロジェクト」を板橋区立中央図書館でも実施することになりました。そして、その責任者として私に声がかかりました。
これまで私の研究では、フィールドで子どもたちの歌を録音し、それを楽譜に起こして記録する方法を取っていました。しかし本プロジェクトでは、「活動の質感や子どもの声色など、楽譜化する過程で削ぎ落とされてしまうものがある」という考えのもと、誰でもどこでもアクセスできる音声データとして保存することを重視しています。その発想は目から鱗で、本プロジェクトへの参画はとても新鮮な経験でした。
—— わらべ歌を収集するうえで、特に大変だったことは何でしょうか。
はじめての取り組みだったので、大変なことはたくさんありました(笑)。まず必要だったのが、「わらべ歌」の定義です。私たち研究者と子どもたちとでは、わらべ歌に対する認識・イメージが異なり、子どもたちにとっては身体を使う遊びは必ずしも「わらべ歌」だと認識されていなかったのです。
そこで板橋区立中央図書館の方々とも議論を重ね、本プロジェクトにおける「わらべ歌」を、「日本語を母語とする子ども達によって口伝えに歌い継がれてきた遊び歌」と規定しました。それにあわせて、わらべ歌を収集するイベント名を「歌って遊ぼう わらべ歌!」(※1,2回目は『みんなで歌おう!わらべ歌』)とし、小学生を対象に参加者を募りました。
もう1つ苦労したのは、当日までイベントに参加する子どもたちの学年が分からないこと、さらに天候によってわらべ歌の収録場所が左右されることです。学年ごとに親しんでいるわらべ歌は異なりますし、屋内(図書館ホール)か屋外(図書館前のみんなの広場)かでもできる遊びは変わります。そのため、毎回複数のパターンを想定しながら実施する内容を準備し、ドキドキしながら当日を迎えていました。
—— プロジェクトの進捗報告で、サラボルサ児童図書館も訪問されたそうですが、日本のわらべ歌に対する反応はいかがでしたか。
特に、絵描き歌(『さんちゃんが』『へのへのもへじ』など)は、日本独自の文化ではないかと、とても関心を持っていただきました。なかでも特に驚かれていたのが、『グー・チョキ・パーで何つくろう』です。この元の歌は『鐘がなる』『フレールジャック』という、世界中で親しまれている輪唱曲です。もちろん、イタリアでも日本式のじゃんけんは知られていますが、三つの手の形をさまざまな物に見立てて遊ぶという発想が新鮮だったようです。
サラボルサ児童図書館では、POLPAプロジェクトを担当する「クワント・バスタ」(音楽や演劇を中心とした教育活動を行うNPO)による、子育て支援としての音楽活動や読み聞かせ活動も見学しました。図書館には、子育てに悩みを抱える家庭や、イタリアに移住したばかりで友だちの少ない親子など、さまざまな背景をもつ人々が集まっています。クワント・バスタの活動は、親子関係の形成を支えるだけでなく、言葉と知識を結びつける発達支援の役割も果たしており、とても印象的でした。昨年秋には、オンラインでの児童学科の公開研究会にもご協力いただき、実際に日本に来ていただく計画も進めています。
特に、絵描き歌(『さんちゃんが』『へのへのもへじ』など)は、日本独自の文化ではないかと、とても関心を持っていただきました。なかでも特に驚かれていたのが、『グー・チョキ・パーで何つくろう』です。この元の歌は『鐘がなる』『フレールジャック』という、世界中で親しまれている輪唱曲です。もちろん、イタリアでも日本式のじゃんけんは知られていますが、三つの手の形をさまざまな物に見立てて遊ぶという発想が新鮮だったようです。
サラボルサ児童図書館では、POLPAプロジェクトを担当する「クワント・バスタ」(音楽や演劇を中心とした教育活動を行うNPO)による、子育て支援としての音楽活動や読み聞かせ活動も見学しました。図書館には、子育てに悩みを抱える家庭や、イタリアに移住したばかりで友だちの少ない親子など、さまざまな背景をもつ人々が集まっています。クワント・バスタの活動は、親子関係の形成を支えるだけでなく、言葉と知識を結びつける発達支援の役割も果たしており、とても印象的でした。昨年秋には、オンラインでの児童学科の公開研究会にもご協力いただき、実際に日本に来ていただく計画も進めています。
—— 3年にわたる全7回の収集活動で、特に印象に残っていることはありますか。
とりわけ印象に残っている子が1人います。その子は初回から参加してくれていたのですが、当初はなかなかみんなの輪に入ることができませんでした。それが最終回となる7回目には、まるでスタッフの一員のように、初参加の子どもたちの面倒を見てくれるまでに成長していたのです。年に数回顔を合わせる程度ではありましたが、子どもの成長をそばで感じ、それをこの連携事業に携わってきたスタッフ間で共有できたことは、私たちにとって大切な思い出になりました。
また、YouTubeなどの動画コンテンツの普及や、教科書においてわらべ歌が取り上げられていることなど、わらべ歌を取り巻く環境の変化も今回の活動を通して実感しました。短くて音構造がシンプルなわらべ歌は、繰り返し歌われ伝承されていきます。一方、現代の子どもたちにとって聞きなじみのない内容のものは、自然にアレンジされていく傾向があります。たとえば『いろはに金平糖』は、現在では『ガチャガチャとまれ』として歌われることが多くなっています。『かごめかごめ』でも「かもめ、かもめ」「つるとカラスがすべった」という歌声がありました。このような変化について、イベントに同伴した保護者たちもみなさん驚かれていました。
とりわけ印象に残っている子が1人います。その子は初回から参加してくれていたのですが、当初はなかなかみんなの輪に入ることができませんでした。それが最終回となる7回目には、まるでスタッフの一員のように、初参加の子どもたちの面倒を見てくれるまでに成長していたのです。年に数回顔を合わせる程度ではありましたが、子どもの成長をそばで感じ、それをこの連携事業に携わってきたスタッフ間で共有できたことは、私たちにとって大切な思い出になりました。
また、YouTubeなどの動画コンテンツの普及や、教科書においてわらべ歌が取り上げられていることなど、わらべ歌を取り巻く環境の変化も今回の活動を通して実感しました。短くて音構造がシンプルなわらべ歌は、繰り返し歌われ伝承されていきます。一方、現代の子どもたちにとって聞きなじみのない内容のものは、自然にアレンジされていく傾向があります。たとえば『いろはに金平糖』は、現在では『ガチャガチャとまれ』として歌われることが多くなっています。『かごめかごめ』でも「かもめ、かもめ」「つるとカラスがすべった」という歌声がありました。このような変化について、イベントに同伴した保護者たちもみなさん驚かれていました。
—— 2025年度末をもってプロジェクトは完了したとのことですが、今後の展望はありますか。
本来は2023年度末までの予定でしたが、2年間延長し、現代の子ども達が、生活の中で歌っているわらべ歌については、ある程度収集できたのではないかと感じています。3年間を通じてサラボルサ児童図書館との関係性を築くことができたので、今後はひな祭りや七夕といった行事をきっかけに、日本とイタリアの子どもたちの文化交流会なども実現できればと考えています。
また個人的にも、クワント・バスタとの出会いもあり、絵本と音楽の結びつきについて改めて見つめ直す良い機会となりました。今回の取り組みは、個人研究では到底実現できない規模と内容でした。板橋区立中央図書館、サラボルサ児童図書館をはじめ、本学の社会教育連携センターなど、関係するすべての皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。
※日本女子大学は、「家政学部児童学科」を前身とした「人間発達学科(仮称)」と「人間社会学部心理学科」を前身とした「心理学科(仮 称)」からなる「人間科学部(仮称)」を2028 年 4 月に開設を予定(構想中)しています。
本来は2023年度末までの予定でしたが、2年間延長し、現代の子ども達が、生活の中で歌っているわらべ歌については、ある程度収集できたのではないかと感じています。3年間を通じてサラボルサ児童図書館との関係性を築くことができたので、今後はひな祭りや七夕といった行事をきっかけに、日本とイタリアの子どもたちの文化交流会なども実現できればと考えています。
また個人的にも、クワント・バスタとの出会いもあり、絵本と音楽の結びつきについて改めて見つめ直す良い機会となりました。今回の取り組みは、個人研究では到底実現できない規模と内容でした。板橋区立中央図書館、サラボルサ児童図書館をはじめ、本学の社会教育連携センターなど、関係するすべての皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。
※日本女子大学は、「家政学部児童学科」を前身とした「人間発達学科(仮称)」と「人間社会学部心理学科」を前身とした「心理学科(仮 称)」からなる「人間科学部(仮称)」を2028 年 4 月に開設を予定(構想中)しています。
プロフィール
根津 知佳子 ねづ ちかこ
東京学芸大学,教育学部 D類(特別教科教員養成課程)音楽専攻ピアノ選修卒業、同大学教育学研究科音楽教育専攻修了。修士(教育学)。三重大学教育学部を経て2017年より日本女子大学家政学部児童学科教授として教鞭を執る。専門は音楽教育学、芸術療法(音楽療法)。生涯を通して「音楽的自己」がどのように形成されていくのか、その人らしい表現ができる「音楽的場」とはどのような構造なのかを研究する。
研究テーマ
感性、創造的音楽活動、ミュージッキング、わらべ歌
主な研究
- 「創造的音楽活動と学校改革ー特別支援学級のオーケストレーションー」山住勝広編著『拡張的学習と教育イノベーション : 活動理論との対話』第6章 pp.149-185 ミネルヴァ書房 2022年9月
- 「わらべうたにおける表現と生活世界の往還」『活動理論研究』第9号 pp.33-42 2024年6月
- 「子どもの音楽の場の変容」『児童学研究』第50号 pp.98-103 2026年3月
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