多様なアプローチで建築を学び、人の暮らしを豊かにデザインする

2026.04.03

【新学部長インタビュー】建築デザイン学部 学部長 片山伸也教授(研究分野:建築歴史・意匠、都市史、文化的景観)

都市と建築の歴史をひも解き、よりよい社会を考える

私は、都市と建築の歴史、中でも文化的景観の研究をしています。社会の「当たり前」に対して、「本当にそうなのか?」と常に歴史を通して問い続ける学問領域で、13~15世紀、中世から近世にかけてのイタリアの都市がおもな研究対象です。

たとえば現代の日本は、私有地と公有地の境界がはっきりしています。私有地では個人の自由が尊重されている一方で、公有地は民間人の利用が大きく制限されています。その線引きも、時代や場所が違えば「当たり前」ではなくなります。

イタリアの都市を例に取ると、公共空間である広場に椅子が置かれたり、カフェのテラス席がせり出していたりと、市民の生活が「はみだす」光景が見られます。屋根付きの回廊「ポルティコ」も、公と私の中間領域的な空間で、通りに面した建物の1階部分を誰もが通行できる公共空間として提供する建築形式です。イタリアではまずコミュニティが重視され、そこに帰属する存在としての個人にその範囲内での自由が許されています。地域の一員としての市民の意識が強いので、具体的にルール化されていなくても、社会の中で「お互いにコミュニティをよいものにしていこう」という感覚が共有されているんですね。イタリアにはそうした「都市の文化」が息づいています。

地方であってもコミュニティが薄まってしまった今の日本では、イタリアのような都市づくりは難しいかもしれません。しかし、先ほどご紹介した「ポルティコ」によく似た空間は日本にもあります。それは、日本海側の豪雪地帯で見られる「雁木造(がんぎづくり)」です。道路側へ深く突き出たひさしの下を公共の通路として、雪深い季節でも地域の人々が外を歩けるようにする、雪国ならではの知恵です。歴史をひも解くと、日本にもかつては、自分の敷地をパブリックに提供するような、公私のあいまいさがあったのです。既成概念や常識というものを一旦疑って昔のことを想像し、その世界の視点に立ってみると、より豊かな社会をつくるヒントがあるんじゃないか——。このように歴史を扱うことは、現代の課題を考える「ブレインストーミング」になると思っています。

学生との研究では、イタリアの都市だけでなく、日本の歴史的な街並みが残っている都市の研究も行っています。そうした地域において、現代的な生活のために新たな建築の要素として何が出現しているかを調査し、街並みを残していくことと、ある程度の変化を許容することのバランスをどう取るかについて考えています。

政府から重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されている地域は、町屋のような建物が密集していることが多いのですが、そこで問題になるのがエアコンの室外機です。これを歴史的なモチーフである格子で隠す手法もよく見られるのですが、それは本来そこにはなかったものですよね。「ほかの地域でよく見るから」と安易に格子だらけにするのではなく、修景という考え方の中で、何が本当にふさわしいのかを慎重に考えて判断する。そうした「デザイナーとしての建築家」の視点が大切です。

生活者目線でとらえる、人と人との関係性の中にある建築

この学部のルーツは1948年に本学に設立された「生活芸術科」にあり、家政学部住居学科を経て、2024年に建築デザイン学部が創設されました。80年近い歴史の中で私たちが守り続けてきたのは、「生活者目線」です。建築は、人と人の関係性の中にあるもの。家族から都市のコミュニティまで、多様な人のつながりをどうデザインするかを考えるときの武器になります。建築を通して人と人との関係をより豊かに、円滑にする。それがこの学部の基本的なポリシーです。

先ほども触れたように、建築は広い意味で空間をデザインすることです。そのためには実体験を繰り返し、空間の中で人がどう動き、認知し合うかを想像しなければなりません。書道も、自分の手を使って筆を動かすことの積み重ねで上達していきますよね。本学部では、建築を実際に見て、歩き、触れる、トレーニングとしての実体験を大切にしています。それを積み上げることで、自分のイメージの世界と実際の空間を自由に行き来できるようになり、建築を学ぶ人間の職能として身についていくのです。

実際にフィールドワークを重視しているゼミは多く、学部化に伴って従来以上に実践的なカリキュラムを増やしているところです。早い段階からさまざまな演習・実習を通して自分にフィットしたテーマにたどり着ければ、より充実した研究が可能になるはずです。また、国際的に活躍する建築家である妹島和世氏、隈研吾氏、東利恵氏を特別招聘教授とし、講演会やワークショップを開催。学生に大きな刺激を与えていただいています。

加えて近年では、本学と学生交流協定を結ぶ海外の大学からの留学生や、海外留学にチャレンジする学生が増加しています。他学部・他学科をはじめ、学部の外側との接点を増やし、シナプスが結合していくように、建築デザイン学部の学びの裾野を広げていきたいと考えています。

あるゆる知を統合した「ものづくり」をめざして、探究を深める

建築デザインはとても裾野が広い学問で、「関わりのないものはない」と言っても過言ではありません。学生の興味の幅も広く、インテリアや建築のデザインはもとより、住生活やコミュニティまでさまざまです。一方で、あらゆる学問や知識を統合する領域でもあり、建築を学ぶ人は「さまざまな専門分野を統合してものをつくり上げる」という意識を持っています。その目標が一致しているからこそ、たとえ意見が違っても建設的な議論を交わせるのが、建築に携わることの魅力の1つです。

ですから「建築デザイン学部に興味はあるけれど、学びたい領域が具体的に決まっていない」という方も心配はいりません。建築に関わらないものはありませんし、当学部では1年次から多様な分野を学べるカリキュラムを用意していますから、自分の興味に近く、ずっと突き詰めていけるテーマが必ず見つかります。3年次になって「私がやりたかったのはこれだ!」という専門分野との出会いを果たした先輩もたくさんいます。大学院(建築デザイン研究科)に進んで、より専門性の高い研究を深める道も用意されています。

建築デザイン学部の学生に期待したいのは、良い意味で「ばか」になることです。たとえば私が担当している「形とデザイン」という授業では、課題文をもとに造形をしてもらいますが、そこに書かれていないことは全て学生に自由に考えてもらっています。また、なにかに熱中する人も「〇〇ばか」と言いますよね。既成の概念にとらわれず、建築というフィールドで「ばか」になって発想を豊かに広げていける方は大歓迎です。ぜひ本学部で共に学びましょう。

プロフィール
片山 伸也教授 かたやま しんや

建築デザイン学部長

1992年、東京藝術大学美術学部建築科卒業。その後フィレンツェ大学建築学部へ留学し、1996年、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。曽根幸一・環境設計研究所での勤務を経て、同博士後期課程を満期退学。2003年より東京藝術大学美術学部で助手、2006年からは日本女子大学家政学部住居学科に着任。専任講師、准教授を経て、2023年から教授に。学部・学科再編に伴い、2024年から建築デザイン学部建築デザイン学科教授として教鞭を執る。

■研究キーワード

都市景観 西洋建築史 都市形成史

■主な著書・論文

『中世後期シエナにおける都市美の表象』中央公論美術出版 2013
「重要伝統的建造物群保存地区木曾平沢における主屋の建築類型とその分布」
「ローマ教皇による都市改造に関する研究─ジュリア通りの敷設と街区形成」
「14-16世紀のイタリアにおける都市空間の変容」
「13・14世紀の都市条例に見る都市整備--中世後期シエナの都市景観に関する研究」