隈研吾先生が語る「建築プロジェクトの進め方」
2026.02.06
2025年12月10日(木)、建築デザイン学部の特別招聘教授である隈研吾(くまけんご)先生による特別イベント「隈研吾の茶室デザインと『粒子のダンス』ダイジェスト上映」が開催されました。
本イベントは、2024年12月に隈先生が審査委員長を務めて実施した「千人茶会茶室アイデアコンペティション」のスピンオフ企画として実施されたもので、隈先生がこれまでに手がけてきた茶室デザインについての講演が行われました。またイベント前半では、2025年に完成した隈先生のドキュメンタリー映画『粒子のダンス』のダイジェスト版を上映。監督を務めた岡博大(おかひろもと)氏を迎え、作品についてのお話も伺いました。
15年をかけて隈先生の足跡をたどった「粒子のダンス」
岡監督と隈先生の出会いは、岡監督が大学生の頃にさかのぼります。岡監督の在学する大学の特別招聘教授として着任していた隈先生の授業を受講し、「人生を変えるような影響を受けた」と感じたそうです。
大学卒業後、新聞記者を経てNPO法人湘南遊映坐を設立。2010年から足かけ15年をかけて、自主制作映画『粒子のダンス』を初監督として完成させました。映画には、世界16か国・80以上の建築プロジェクトが登場します。今回は本イベントのために、約30分のダイジェスト版が上映されました。
岡監督は、作品について次のように語ります。「この映画には、分かりやすいストーリーがあるわけではありません。私が15年間、隈先生に寄り添うようにして記録を残してきました。インタビューは一切行わず、透明人間のように振る舞いながら、先生の日常を撮影しています。また、建築そのものを感じてほしいという思いから、建築がある国名や作品名などのテロップもあえて入れていません。建築の専門誌では『竣工時のきれいな状態』だけが紹介されることも多いですが、私は建築のプロセスや、完成後にどのように使われているのかまでを映像に残したいと考えました。隈先生は、その土地の文化や歴史、職人さんを大切にしながらデザインに取り組む建築家です。地道に足を運び、ときには地元のお祭りに参加し、交流を重ねながら建築をつくっていく。その大切さを私自身も学びました」
設計は“やり取り”が重要
イベント後半では隈先生が登壇し、自身が手がけた茶室の紹介を交えながら、「アイデアを形にする方法」や「プロジェクトの進め方」について語りました。
「茶室は、実際に茶会を経験した人でないと、なかなか設計できません。本を読めば作法は分かりますが、それだけでは良いアイデアは生まれない。私をお茶の世界に導いてくれたのは篠原学長でした」
そう話す隈先生は、構造家でもある建築デザイン学科の江尻憲泰(えじりのりひろ)教授と数多くのプロジェクトに取り組んできたことにも触れ、その協働のあり方について紹介しました。
「設計は“やり取り”です。各専門家に『うまく聞ける』ということは、多くの場合、すでに答えに近づいている状態だと思います。僕らの設計手法は、厳密には違いますが、“プロンプトエンジニアリング”に近い感覚があります。構造面では江尻先生ともよく話し合いますが、『うまく聞く』『うまく相手を誘導する』という考え方を大切にしながら、設計を進めています。また、『無理だ』と思うアイデアでも、しばらくみんなで考えていると答えが見つかることがある。それが建築の不思議なところです。『無理』の中にも濃淡があって、僕は、『無理だよね』と言いながらも、10%くらいは可能性がありそうだと感じていることが結構あります」
さらに、公共建築ではないプロジェクトにおいては「継続性」が重要だと続けます。
「小さなパビリオン・プロジェクトの面白さは、実験的な取り組みができる点です。その結果を、次の実験に応用できる。1つの建築でできることには限りがありますが、『意外とおもしろかった』という発見を次に生かせば、発展した形が生まれます。1つのプロジェクトには、必ずうまくいった点と失敗した点があります。その両方を次につなげられるかどうかが、建築ではとても大切です」
学生との質疑応答
イベントの最後には隈先生への質疑応答の時間も設けられました。
学生:先生のひらめきは、どのあたりから生まれるのでしょうか?
隈先生:日常の中で、なぜかずっと頭に残っているものってありますよね。たとえば工事現場のポリタンク。あれは昔からすごい技術だと思っていました。水はその場で捨てられるし、重さも自由に調整できる。同じことをコンクリートでやろうとすると、廃棄も移動も大変です。そう考えると、水はとても不思議な材料ですよね。
あるとき、水を使って建築をつくり、さらに流すことで冷暖房の機能も持たせられるのでは、と気づきました。そうして生まれたのが「Water Branch」です。こうした思いつきは、歩いたり、旅行をしたりしながら、日常の世界を観察していると、ふと浮かんでくるものです。誰にでも、好きなものやこだわりのあるものがあると思います。それを温め続けられるかどうかが、とても大切だと思います。
学生:大きなプロジェクトをいくつも並行して進めていると思いますが、タスク管理はどのようにされていますか?
隈先生:特別なことはしていません。僕が大切にしているのは、できるだけフラットな組織であることです。日本は垂直構造の組織が多く、社長と一般社員が話す機会はあまりありませんよね。それは少しもったいないと思っています。
10分や15分でもいいので、実際に手を動かしている担当者と、少人数で話す。そのミーティングを一日中繰り返しています。まとめると、話しやすい人数でのミーティングを重ねることが、私のタスク管理方法です。進捗管理はコンピュータで行っているので、「人間」と「コンピュータ」という2つのシステムを並行して動かすことが大事だと考えています。
学生:紹介していただいた茶室でも古くから使われている竹や和紙など採用したり、新しいマグネットやポリタンクなども活用したり、「古くからあるもの」と「新しいもの」を横断して考えられていると思うのですが、どうやって区別したり組み合わせたりしているのでしょうか?
隈先生:とくに区別をしないことが重要です。竹もそうですが、それぞれに伝統性もあるし、未来性もあります。「この素材にどんな可能性があるか」という視点で見ると、古くからあるものも新しいものにも同じようにチャンスが見えてきます。人も同じです。この人と何ができるか、と考えることが大切。そのほうが可能性は広がっていくと思います。
