日本女子大学の未来へ向けた家政学部の改組について
2025.12.04
日本女子大学は、2021年の創立120周年を機に、継続的な大学改革を行なってきました。その一環として、2023年度からは学部・学科再編に本格的に着手し、2028年度の「ファッションデザイン学部(仮称)」および「人間科学部(仮称)」の開設構想をもって、創立以来およそ4万人の卒業生を輩出してきた「家政学部」としての学生募集を終了。これにより、専門性を高めた9学部16学科体制に移行します。その背景や今後への取り組みについて、篠原聡子学長からお伝えします。
伝統ある「家政学部」を改組し、より専門性の高い独立した学問領域へ「株分け」
「家政学部」は、日本女子大学の前身・日本女子大学校の創立とともに、1901年に開設された伝統ある学部です。創立者である成瀬仁蔵は、創立当初から自然科学を重視し、「家政学部」では「家政学」の構成要素である「衣」「食」「住」を中心に、文系・理系双方の側面から、人間と生活を科学的に探求してきました。そして、これまでに各界で活躍する先駆的な女性人材を多数輩出し、女子高等教育の発展に寄与してきました。
現在取り組んでいる「学部・学科再編」は、その伝統を守り、発展する過程において、今まで「家政学部」という大きな鉢の中に内包されていた多様な学科を、個々の学部という新たな「鉢」に「株分け」し、専門性を更に高めることで、より大きく育てていくことを目的としています。
「株分け」のスタートは、1992年に「家政理学科」を私立女子大学として唯一の「理学部」へと学部化したことに始まります。その後、「住居学科」が「建築デザイン学部」として独立し、「食物学科」は「食科学部」となりました。さらに2027年度には「家政経済学科」が「経済学部(仮称)」、2028年度には「被服学科」が「ファッションデザイン学部(仮称)」、「児童学科」が「人間社会学部心理学科」とともに「人間科学部(仮称)」となり、120年以上続いた「家政学部」は幕を降ろす予定です。
これは、各学問領域が時代のニーズに応じて専門性を高めてきた一方で、従来の「家政学」という枠組みではその学びを十分に包摂できなくなってきたこと、さらに本学の「家政学部」が化学・生物・物理・数学・情報・工学など多様な理系分野を内包していることから、それぞれが独立した学問領域としてさらなる発展が期待できることに基づくものです。
また、本学で実践されている各学科の専門的な学びが、「家政学部」という枠組みの中にあることで、本来の学びの特徴が正確に伝わっていないという側面もありました。例えば、本学の「食物学科」は生活者の視点から食を「科学的」に深く読み解く学びが特徴ですが、「家政学部」の中にあることで文系の学びと誤解され、学びの特徴が限定的にしか伝わっていないというジレンマがありました。その他の領域もそれぞれ同様に、「株分け」をして独立することで、各領域が時代のニーズに応じて専門性を高め、それぞれが独立した学問領域としてさらに発展・深化することを目指しています。
9学部16学科が1つのキャンパスに集う。学びの相乗効果に期待
日本女子大学は女子総合大学における「家政学部」の発展的改組をもとに、2028年度には人文社会・理工・文理融合の3領域、9学部16学科体制が実現する構想です。
このように他分野に渡る学部に在籍する学生が、アクセスのよい都心部にある1つのキャンパスに集まっている点も、本学の強みの1つです。
2021年に東京都文京区の目白と神奈川県川崎市の西生田に分かれていたキャンパスを統合し、文理問わず全学部学科・大学院の学生がグランドオープンした目白の森のキャンパスで学び始め5年目を迎えました。
その効果は徐々に広がりつつあり、2024年度は優秀な卒業論文を学科の垣根を越えて合同の発表会形式で行ったり、学部横断型の授業を設けたり、クロスサイエンスという文理横断的な共同究の活性化の後押しにもなっています。
学びの多様性の広がりや、そこから生まれる相乗効果など、みんなが一緒にいる利点を生かし、学問領域を超えて横串を指すようなプラットフォームづくりを促進していきたいと考えています。
女子大だからこそ「女性であることから自由になれる空間」という存在価値
女子大学は今、大きな逆風にさらされています。しかし一方で、日本のジェンダーギャップ指数は依然として高く、性別役割意識が女性活躍に与える影響の現状を目にすることも少なくありません。
その点、大学・大学院という限られた時間であっても、社会に出る前の最後の教育機関として、女子大だからこそできるジェンダーバイアスから完全に引き離された稀有な環境の中でのびのびと自分の専門性を育む経験は、非常に有用だと考えています。学生は自ら問いを立て、その問いに対して自分なりの結論を導き出していきます。本学では少人数教育の利点を生かし、卒業論文(研究・制作)を必修とすることで、教員が学生1人ひとりの個性や理解度に寄り添いながら並走し、学生の成長プロセスを支えています。実際に、本学の学生の満足度は高く、「のびのびと学べる」「自分の専門分野に専念することができる」と評価されています。つまり、女子大は「女性であることから自由になれる空間」なのだと思います。
女性であることで何かを強いられることも、逆に何かを許されることもない
私は現役の教員でもありますが、共学の大学と共同研究をすると、未だに共学の学生側のリーダーはほぼ男性。一方、本学から出るリーダーは当然すべて女性です。しかも、共学の学生を指導する際に感じるのが、共学では最初に男性・女性というゾーニングができ、女性のAさん、男性のBさんといった見方になりがちです。女子大学では、そういった最初のゾーニングがないぶん、個々人に対する解像度が上がると感じます。Aさんはこういうキャラクター、Bさんはこんな考え、と性別と関係なくお互いを見ることができるようになるのです。その分、学びたいことを学び、作りたいものを創造することができるという、学びの環境としての自由さにつながります。
何を行うにも自分が当事者である、自分が動かないといけないと思える環境に身を置くことの大切さが、日本女子大学が社会の第一線で活躍する人を多く輩出してきたことにもつながると考えています。
空間的・時間的ボーダレス化で学びを強化
今後は、学びにおける「空間」と「時間」のボーダレス化にますます注力していきます。
全学部がワンキャンパスで学ぶことにより、学生たちが文系・理系の枠にとらわれない多様な視点を意識することは、まさに「空間」を越えた学びです。学部横断型の授業やプロジェクト型授業・課外活動などを通じて異なる学部・学科の学生同士がディスカッションしたり、同じ課題に取り組んだりすることで、専門を生かした横のつながりや、自分の専門だけがすべてではなくことを体感できる。そうした総合大学ならではの多様な学生同士の学びや交流の場を、今後もさらに拡げていきたいと考えています。
さらに、都心にキャンパスを構えるからこそ実現できる他大学との活動や共同研究なども積極的に行なっていますし、語学教育や海外の大学との協定を通じた交換留学、海外への長期・短期留学プログラム、ゼミなどにおける国際交流など、国際化社会で不可欠なグローバル人材育成にも注力しています。
また、日本女子大学は1901年の創立時から女性の「生涯教育」の理念を展開し、1909年に『女子大学講義』を発刊して通信制教育をスタートさせ、遠隔地にいても学ぶことができる「空間」のボーダレス化にいち早く取り組んできました。そして現在に至るまで、多くの女性に学ぶ場を拡げてきた先駆者として、通信教育やリカレント教育にも力を入れ、今や人生100年時代に際しても、年齢に関係なく生涯を通じた学びとして「時間」のボーダレス化にも社会に対して先駆的に応えてきました。
2026年4月には、女性のキャリア形成を包括的に教育・支援するために、在学生を対象とした「キャリア支援課」と、卒業生を含む社会人を対象とした「リカレント教育課程」の機能を統括した、「J W Uキャリアライフセンター」を開設する予定です。
これにより、在学生から社会人まで、女性の多様なキャリア形成を一貫して支援し、生涯学修の中核として、「時間」を越えた学びやキャリア支援を強化していきます。
これからも、変化を力に革新を先駆ける女子総合大学として、引き続き日本女子大学でしか得られない学びに磨きをかけ、魅力ある大学づくりを目指していきます。
