お互いの強みを掛け合わせ「U30復興デザインコンペ2025」で優秀賞を受賞

2026.03.30

【学生インタビュー】洪水災害で循環する都市を提案

2025年12月7日(日)、愛媛大学を会場に「U30復興デザインコンペ2025」の公開二次(最終)審査が行われ、家政学部住居学科4年の田中杏佳(たなかきょうか)さんと樋口瑞香(ひぐちみずか)さんによる作品「奔流の記憶を編む都市」が優秀賞を受賞しました。ともに大学院 建築デザイン研究科へ進学予定のお二人に、本コンペや今後の研究についてお話を伺いました。

災害復興に興味を持った2人がお互いの得意分野を生かして作品を制作

——この度は優秀賞のご受賞、おめでとうございます。今回の作品「奔流の記憶を編む都市」はお二人の共作ですが、まずはコンペに挑戦しようと思ったきっかけからお聞かせください。

樋口さん:今回、初めて2人でコンペに挑戦しましたが、きっかけは4年次最初の設計課題「百年後の都市を考える」でした。百年後となると、どの地域でも何らかの災害が発生している可能性が高く、災害と都市の関係について考えるようになりました。

田中さん:その課題に取り組む中で、「いずれ発生する災害を建築に取り込み、『災害前』→『災害時』→『復興後』が1つのサイクルとして循環する都市」というアイデアが生まれました。今年の復興デザインコンペのテーマ「孤立する都市」とも重なっていたため、応募に至りました。

樋口さん:田中さんはゼロからアイデアを生み出すのが得意で、私は1つのアイデアを膨らませることが得意です。それぞれの強みを生かしながら、うまく役割分担して取り組めたと思います。

田中さん:ポスター制作では、私が提案の思想や形、構造を考え、ビジュアル面を主に担当しました。一方で樋口さんが全体のレイアウトや文章の構成を担ってくれました。互いの作業にも随時意見を出し合いながら、協力して準備を進めることができました。
田中杏佳さん
——今回の作品「奔流の記憶を編む都市」について、内容を教えてください。

樋口さん:地球温暖化によって環境バランスが崩れつつある中で、私たちが提案したパキスタンに限らず、世界各地で自然災害の発生頻度は今後も増加していくと考えています。その前提のもと、人々が特定の場所にとどまる必要のない、循環型の都市を目指したいという思いが出発点にありました。

田中さん:私たちの提案の特徴は、おもに洪水を想定して災害発生後の対処だけでなく、発生前の日常まで含めて設計に組み込んだ点にあります。具体的には、住居内に災害時に仮設住宅の壁や床として利用できる「ユニット」をあらかじめ備えておき、洪水災害時にはそのユニットが流れ着いた場所に仮設住宅を設置して生活します。復興後には再び元の住居へ戻る、という仕組みです。このユニットは個人所有ではなく都市の共有物であり、漂着したものを誰でも利用できます。提案地としてパキスタンを選んだのは、近年洪水被害が頻発していることに加え、日本など高密度な都市ではこの仕組みが避難の妨げになる可能性があると考えたためです。

樋口さん:私たちの提案では、インフラが遮断されても住居自体が壊れず、戻れる場所があることも重要だと考えました。そのため、パキスタン初の女性建築家であるヤスミン・ラリ氏が洪水対策として設計した竹の高床式住居を提案の中で参照しています。

■「奔流の記憶を編む都市」の提案ポスター

最下位からの大逆転で優秀賞を受賞

—— 今回優秀賞を受賞されたご心境もお伺いできればと思います。

田中さん:今回は、0次審査(ポスターによる書類審査)、1次審査(ポスターセッション)、最終審査(プレゼンテーション)という流れでした。応募42組のうち、最終審査に進んだのは私たちを含めて6組でしたが、講評では1次審査を最下位で通過し、「なんだろう枠(話を聞いてみようか枠)」だったと言われました(笑)。プレゼンを通して提案の意図を理解し、評価していただけたことがとても嬉しかったです。

樋口さん:普段の課題ですと意匠設計の先生から講評を受けることが多いのですが、今回はランドスケープや都市工学、交通など、さまざまな分野の先生方が審査員でした。それぞれの視点からのご指摘やアドバイスは、自分たちの考えが至っていないことに気づかされるものばかりで、とても勉強になり、結果にかかわらず、学外コンペに挑戦する意義を改めて実感しました。また、所属研究室の宮晶子先生に喜んでいただけたことも印象に残っています。

田中さん:審査員の羽藤英二先生から「日本にこの提案をする人がいることに希望を持てた」と言っていただけたことが特に印象的でした。1次審査は最下位通過だったこともあり、今後はポスターだけでも内容がしっかり伝わるよう工夫していきたいと思います。

樋口さん:最終審査と卒業制作の時期が重なり、準備は本当に大変でした……。それでも、2人の強みを掛け合わせた提案が評価されたことは大きな自信になりました。具体的な計画はまだありませんが、今後も2人で学外コンペに挑戦していきたいです。
樋口瑞香さん
—— お二人は日本女子大学の建築デザイン研究科に進学されるとのことですが、今後の研究や将来の展望についても教えてください。

田中さん:大学院でも引き続き宮先生の研究室に所属し、設計を学びます。卒業制作では「人の知覚を拡張し、豊かにすること」をテーマに集合住宅を設計しました。今後はこのテーマをさまざまな場所や状況に応用できるよう、理論的に整理していきたいと考えています。将来的には公共建築にも関心があり、幅広い分野で設計に携われる建築家を目指していきます。

樋口さん:大学院では都市計画に専門を移し、研究に取り組む予定です。研究室配属となる3年生後期の時から、学部時代は設計に力を注ぎ、修士からは研究分野で深めていこうと考えてきました。卒業制作では「車窓風景」をテーマに、自宅から大学までの都市空間を扱いましたが、今後は「通学圏」の定義について改めて考えていきたいと思っています。将来的には、設計者と都市計画者をつなぐ役割を担えるような仕事に就きたいです。
【お二人の卒業制作を紹介】

田中さん「日常に沈む〈環世界〉への没入 — 誌的断片から空間へ —」
都市に暮らす人々が、イヤホンで音を遮断したり、1日中エアコンの風にさらされたりと、自ら感覚や知覚を閉ざしている状況に問題意識を持ちました。そこで、感性をより豊かにするため、1人ひとりを「環世界」に没入させる集合住宅を提案しました。設計にあたっては谷川俊太郎さんの詩を手がかりとし、他者(谷川さん)の環世界に触れることで、自分自身を見つめ直し、感覚を研ぎ澄ませることのできる空間を目指しました。



樋口さん「風景解釈図を用いた主観的感情に基づく設計 — 長距離通学者が求める能動的な風景のある駅をつくる—」
「長距離通学者が日々目にする車窓風景」をテーマとしています。長距離通学者は通学時間の長さに比例して精神的負担が大きくなる傾向があります。一方で通学中に、思わず電車内から目を奪われる風景の存在に着目したことから、こうした「見たくなる」風景は個人的でありながらも同時に多くの人に共有されうる普遍性を持つのではないかという問いを出発点とし、新たな設計手法の提案を行いました。

—— 最後に、卒業を間近に控え住居学科での4年間はいかがでしたか?

田中さん:入学前は、大学は友人など一部の人だけと関わる場所というイメージがありましたが、住居学科では課題前になると学年全体が遅くまで残り、「みんなで頑張ろう」という一体感がありました。大変なことも多かったですが、設計に打ち込んだ充実した4年間でした。

樋口さん:本当に課題漬けの4年間で、いい意味で誘惑がありませんでした(笑)。もともとものづくりは得意ではありませんでしたが、努力を続けて卒業制作を完成させることができました。もし不安に思っている高校生がいたら、「なんとかなるよ」と伝えたいです。

—— ありがとうございました。今後のお二人のさらなるご活躍を楽しみにしています。