開催レポート
開催レポート
第27回子育てサイエンス・カフェ開催レポート
こどもを育む環境と格差問題 大切なのは、非認知能力?居場所?体験?それとも…
開催:オンライン開催
講師:荻野 亮吾(人間社会学部教育学科 准教授)
はじめに
今回のカフェでは、こどもを育む環境について、「格差」の視点を入り口に考えてみることにしました。私の専門とする社会教育の分野では、タテの関係だけでなく、ヨコやナナメの関係を重視しながら、地域の中に居場所や学びの機会を生み出していくことを大切にしています。今回は、この観点からこどもの遊びや学びの場をどうつくるかを考えてみました。
教育の格差論はどう展開してきたか
カフェの前半では、こどもを取り巻く格差をめぐる議論の流れを紹介しました。1990年代後半の学力低下論争をきっかけに、学力の格差が教育社会学の中心的な研究テーマとして浮上します。その後、20年以上の研究の蓄積を経て、家庭環境が学力に影響を及ぼすことは広く知られるようになりました。
2000年代に入ると、OECD(経済協力開発機構)のキー・コンピテンシーの議論に代表されるように、非認知能力への関心が高まります。ここでいう非認知能力とは、主体性やグリット(やり抜く力)といった対自己能力と、コミュニケーション力や社会性といった対社会能力で構成され、人生に長期的な影響を与える力と考えられています。
近年では、非認知能力に影響を与える要因として、学校外の「体験」に注目が集まるようになりました。家庭の状況によって生じる「体験格差」は一種の社会問題にもなっていますが、その背景には、能力形成を競争的に捉える社会の論理が存在します。
遊びと学びの環境をどうつくるのか
体験格差の議論では、体験の量を重視しますが、体験の質についても考える必要があります。こどもたちの深い体験が生まれる場の条件を考えると、大人があらかじめ設計した環境でなく、こども自身が成功や失敗を繰り返せる場にこそ意味があります。そこには未知の自分と出会い、意味の世界を広げていける過程が含まれているからです。それでは、そのような場をどのように生み出せるでしょうか。
こどもたちが学び、遊ぶ場では、それぞれのもつ力に応じて、工夫できる余地を調整できることが重要になります。工夫の余地が小さすぎれば、自由に取り組みたいこどもたちの不満がたまり、反対に余地が大きすぎれば、どうしてよいかわからなくて不安や戸惑いが生まれるでしょう。このバランスを整えることで、不満や不安を軽減し、こどもたちの楽しさを引き出すことができます。
私の関わっている小学生を対象としたものづくりワークショップでは、制作の手がかりとなるカードを用意したり、大学生や高校生が話し合いのファシリテーションを担ったりすることで、こどもたちの主体的な学びを支えています。
地域における子どもの時間と場のつくり方
高度経済成長期以降、「三間の喪失」と言われるように、時間・空間・仲間という地域の「余白」が失われ、遊びや学びの場も大人が管理する傾向が強まっています。その結果、こどもたちの主体性を育む場や、試行錯誤の機会は失われつつあります。
これからのこどもの過ごす時間や場を考える上では、各地に広がるプレーパークのように、大人が管理者でなく、伴走者として関わる場づくりが重要となります。また、こどもと大人が、共に考え、楽しむ関係性の中で、地域をつくっていく視点も求められるでしょう。こどもを一方的に支援するのではなく、共に学び、共に創る存在として関わることが、大人の役割として改めて問われていると言えます。
(人間社会学部教育学科 准教授 荻野 亮吾)
人間社会学部 教育学科
教育学科は、生涯にわたる人間の成長を教育学の幅広い基礎知識と深い専門知識に基づいて理解し、教育に関わる実践と諸問題の解決方法を複眼的な視点から探究する学科です。そのうえで、教育コミュニケーションという側面から、多様な他者と協働し教育を核とした既存社会の変革と持続可能な社会の創造を主体的に推進できる人を育てていくことを目指しています。
