子育てサイエンス・カフェ 報告
子育てサイエンス・カフェ 報告
第20回子育てサイエンス・カフェ 報告
その子ども服、大丈夫?
—子どもの安全を守る衣服のかたち—
日時:2024年9月21日(土)10:30~12:00
開催:オンライン
講師:武本歩未
(家政学部 被服学科 講師)
衣生活の充実に伴い、私たちはデザイン性や経済性に優れた衣服を容易に購入できるようになりました。その一方で、衣服のデザインを要因とした子どもの危害やヒヤリ・ハットの事例が複数、報告されています。そこで今回は、子ども服の安全基準の現状を理解するとともに、安全な衣服のかたちやサイズについて考えることとしました。
<こども用衣料品による事故と安全対策の現状>
2015年に東京都が公表した生活用品による乳幼児のヒヤリ・ハット調査によると、生活用品による危害やヒヤリ・ハットの経験があると回答したもののうち,約25%は、衣類、アクセサリー等による事故であったと報告されています。衣服のデザインを要因とした事故例としては、遊具等への衣服のフード、ひもの引っ掛かり、スボンの裾やひもの踏みつけ、ファスナーによる皮膚の挟み込みなどが主なものです。
国内における安全対策として、2015年に「子ども用衣料の安全性—子ども用衣類に附属するひもの要求事項(JIS L 4129)」が制定されました。本規格は、諸外国における子ども服の安全基準を踏まえた内容となっています。しかし、諸外国では法律を引用した強制規格であるのに対し、JIS規格は任意規格であるため、規格の普及が十分でないことが懸念されます。また、衣服のデザイン(フード、上着、スカート、スボン等の設計)に関しては、アパレル関連団体らによるガイドラインやJIS L 4129の附属書にて、安全確保のための設計指針が示されているものの、規格化には至っていません。しかし、衣服は用途により要求される機能が異なり、デザインも多岐に渡るため、統一した規格を設けることは困難です。そのため、衣服の製造業者や消費者は、衣服に潜む危険因子を理解した上で、衣服を設計・選択することが重要です。
<子ども服の安全性に関する調査・研究>
衣服のデザインに潜む危険因子を捉えるために、私たちは子ども服のデザインと安全性に関する調査を行っています。スカートが幼児の階段昇降動作へ与える影響を検討したところ、ギャザー分量の多いスカートでは、階段昇降時にスカートによって足元が見えない時間の割合が増大しました。衣服のゆとり量は、動作性の向上に寄与する一方で、過剰なスカートのゆとりは、足元の視界を悪くするだけでなく、裾を踏みつける可能性も高まるため、幼児の体型、衣服の機能性、危険性を考慮した設計が重要です。
<最後に>
子どもにとって快適で安全な衣服を設計するためには、着用者である子どもの人体寸法や形状に関する情報が必要です。しかし、乳幼児や少年少女を対象とした詳細な人体計測は約30~40年間、実施されていません。このような背景から、2023年度より女児の体格調査を開始しました。本調査には、附属小・中学校の生徒の方々にも多くご協力いただき、心より感謝申し上げます。
子どもの安全は、被服だけでは守ることはできません。心身の発達に伴う行動特徴の理解、生活環境における整備なども重要です。様々な分野の方々と協力して、子ども服の安全性を検討したいと考えています。
(家政学部被服学科 武本歩未)
日本女子大学 家政学部 被服学科
生活環境が著しく変化する現代。そんな時代に即した被服の在り方とは何か?
それを科学・文化的視点で総合的に研究していくのが本学科です。
人間生活の向上に役立つ被服を創造する力を養うことで、繊維・ファッション業界などの多彩な分野で活躍し、社会に貢献できる人材を育成します。