日本女子大学が2029年4月、「理工学部(仮称)」の開設を構想する理由 ─ 学部長就任予定の永田典子教授に聞く ─

2026.10.21

【教員インタビュー】「理学」の基礎を大切にしながら、社会で役立つ学びへと発展する「理工学部(仮称)」が誕生

日本女子大学には私立女子大学唯一の「理学部」があります。その学びを発展させ、2029年4月に工学領域を含む「理工学部(仮称)」を開設する構想です。なぜ今、「理工学部(仮称)」なのか。その背景と思いについて、学部長に就任予定の永田典子教授(理学部化学生命科学科)に伺いました。

現代社会の課題に向き合う、新しい理工学教育を目指して

科学技術は、私たちの社会や暮らしを大きく発展させてきました。一方で現在は、気候変動やエネルギー問題、食料の安定供給、健康・医療をめぐるさまざまな課題、急速に進展するAIや情報技術への対応など、科学技術によって解決すべき課題がますます複雑になっています。こうした課題に向き合うためには、自然現象や数理の仕組みを深く理解する「理学」の力に加え、その知識を技術や社会の仕組みへとつなげる「工学」の視点が、これまで以上に求められています。

本学は、1948年に「理学部」の前身である「家政学部家政理学科」を設置して以来、数学、物理学、情報、化学、生物学など、自然科学を基盤とした教育研究を積み重ね、長年にわたり理系女性の人材育成を担ってきました。日本女子大学の理系教育では、創立当初から実験や実習を重視してきました。単に知識を学ぶだけではなく、自ら手を動かして確かめ、得られた結果について考える。こうした学びは、現在の理学部にも受け継がれています。

その一方で、現代社会が抱える課題は複雑化しており、学問を深く探究するだけでなく、そこで得られた知見を社会の課題解決に生かしていくことが求められています。そこで本学では、これまで培ってきた「理」の強みを礎に、2029年4月に新たな「理工学部(仮称)」を開設する構想を進めています。これは単なる名称変更ではありません。また、近年広がっている、データサイエンスや文理融合を軸にした学際型の理系学部とも異なります。あくまで数学・物理・情報・化学・生物といった自然科学をしっかりと基盤に据え、それぞれの専門性を深めるところから出発します。その上で、工学的な応用や社会実装へとつなげ、そこから生まれた新たな問いを再び理学に立ち返って考える。理学と工学を往還しながら学びを深めていくことを大切にします。

新学部は、1学部4専攻制

新しく開設を構想する「理工学部(仮称)」は、1学部4専攻制を採用し、「数学・物理学専攻(仮称)」「情報理工学専攻(仮称)」「化学生命専攻(仮称)」「医薬工学専攻(仮称)」を設置します。数学・物理学専攻では「数学コース」「物理学コース」、化学生命専攻では「応用化学コース」「生命科学コース」「環境科学コース」を設け、それぞれの専門性を明確にしながら、多様な学びに対応できる体制を整えます。

数学・物理学専攻では、数学や物理学の基礎理論を深く学び、自然現象や社会のさまざまな事象を数理的・物理的に捉える力を養います。情報理工学専攻では、情報科学の基礎から最先端技術まで体系的に学び、未来の情報社会を切り拓く力を育てます。化学生命専攻では、化学・生物学を基盤として、応用化学、生命科学、環境科学の各分野で専門性を深めます。医薬工学専攻は、新しい理工学部を象徴する専攻の一つです。医療や健康、医薬品、化粧品、ヘルスケアなど、人の暮らしに近い分野へ学びを応用・展開していきます。4つの専攻は、それぞれ異なる専門領域を持ちながら、基礎を大切にし、そこから応用へと学びを広げていく点で共通しています。

女子大学だからこそ実現できる教育環境

私たちは、「理工学部(仮称)」を女子大学に設置することに大きな意味があると考えています。現在、日本ではさまざまな分野で女性の活躍が求められていますが、とりわけ理工系分野では、研究や技術開発を担う女性はまだ十分に多いとは言えません。本学は女子大学ですから、実験や研究、発表、プロジェクト運営まで、女性たちが主体となって取り組みます。「自分でやる」「自分で考える」「自分がリードする」という経験を、日常の学びの中で自然に積み重ねられる環境があり、こうした環境が主体性や当事者意識を育みます。現在の理学部でも、PROGテストでは、1年次から3年次にかけて社会で求められる思考力や実行力が大きく伸びています。(コラム参照)。

【column】理学部で伸びる「思考力」と「実行力」
社会で求められる「思考力(リテラシー)」と「実行力(コンピテンシー)」を測定するPROGテストにおいて、理学部では両方の能力が大きく伸びています。
 「実行力(コンピテンシー)」の成長の内訳では、単なる「知識」の増加ではなく、社会で使える問題解決プロセスそのものが伸びていることが分かります。
女子大学に理工学部を設置するもう一つの意味は、女性自身が研究や技術開発の担い手となり、女性の身体や生活、感覚、ニーズに根ざした課題を見つけ、それを科学や技術の力で解決していくことにあります。医療や健康、製品、サービスなどには、これまで女性の視点が十分に反映されてこなかった領域もあります。女性のための新しい技術や価値を、女性自身が考え、女子大学から社会へ送り出す。そして、そこから生まれた技術や発想が、より多くの人にとって使いやすく、よりよい社会につながっていく。そうした研究や技術開発も、新しい理工学部で目指したいことの1つです。

さらに、本学では理系分野における女性教員の割合が高く、学生にとって人生やキャリアのロールモデルとなる女性研究者と身近に接する機会が多いことも特徴です。そうした存在を日常的に身近に感じられることで、学生は将来の自分の姿をより具体的に描くことができます。また、少人数制の教育により、教員との距離が近く、日常的に対話や相談をしながら学ぶことができます。こうした環境も、本学ならではの強みです。専門性と主体性を備え、新しい価値を生み出せる女性を社会へ送り出したいと考えています。

「自分の学びを社会に役立てたい」人のための教育がここにある

本学は総合大学です。理工学部(仮称)で自らの専門性を深めながら、建築デザイン学部や食科学部、人間科学部(仮称)、ファッションデザイン学部(仮称)など、他学部の学生や教員と協働する機会があります。文系・理系の垣根を越えた出会いを通して、多様な価値観や視点に触れ、自分の専門を社会の中でどう生かすかを考えることができます。  

こうした学びの環境の中で、学生には、自ら考え、社会に働きかける力を身につけてほしいと考えています。確かな科学的基盤を持ち、理学の知を工学へとつなぎ、時代の変化を捉えながら、これから必要とされる技術や新しい価値を自ら生み出す女性人材を育てること。それが、新しい理工学部(仮称)の目標です。
【column】社会で活躍する卒業生が実感した理学と工学を学ぶ重要性
日本女子大学理工学部(仮称・構想中)の特設サイトでは、社会の第一線で活躍する卒業生たちが、社会に出て実感した工学を学ぶことの重要性や、理学と工学が重なり合う学びの魅力について語っています。

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