小室淑恵さんが語る、社会を変える「働き方改革」の原点としての大学での学び
2026.05.08
——このたびは、「Women’s Empowerment Award 2026」の個人部門大賞受賞、おめでとうございます。改めて、受賞のご感想をお聞かせください。
ありがとうございます。起業して20年間で3600社にコンサルティングを提供してきましたが、どうしても「女性活躍」と聞くと耳が塞がってしまう、聞きたくないと考える人が多かったことも事実です。そこで私たちは、あえて「女性活躍」という言葉は使わず、ベースとなる働く環境を長時間労働から改善していく働き方改革の重要性を広め、「ワーク・ライフバランス」を社名にも掲げてきました。そうした取り組みが評価され、今回の受賞につながったと思っています。
女性活躍支援というと直接的に女性のキャリアを支援することが中心的な概念だったと思うのですが、私が「働き方」に注目してきたのは、フェアな競争環境さえ整えば、実力で勝っていける女性は大勢いるし、本当はそれを一番望んでいるのではないかと感じていたからです。従来の長時間労働に依存した働く環境の中で、常に不利な立場に置かれること自体が、一番の問題だと考えていました。ただ、その認識が社会に広く理解されるまでに長い時間がかかりました。
ここ最近、女性活躍に長年力を入れてきた企業の多くが、1周2周回った結果、女性活躍を推進するには、やはり役員を含めたベースとなる働き方改革が重要だという意識へと変わってきています。その点が理解された上での受賞だと感じており、非常にありがたく思っています。
——小室さんが「働き方」に注目され会社を興された背景を教えていただけますか?
私は新卒で入社した資生堂で、育児休業をとった女性たちの職場復帰支援の事業を立ち上げました。当時は、女性が育児休業をとることで社会から疎外され、そこでのブランクが大きなマイナスになっていると分析していました。その結果、職場復帰そのものが大きなハードルになってしまっていると考えていたんです。そこで、スムーズな職場復帰を支援することが、女性のキャリア中断の課題解決になり、多くの企業に導入していただいていました。
ところが、現場で直面して非常に衝撃的だったのは、企業によってはせっかく復帰した女性たちがほぼ全員辞めてしまっていたことです。一方で、しっかり定着している企業もある。その大きな違いは、復帰後の職場における労働時間でした。
夜10時くらいまで働くのがデフォルトになっているような長時間労働の企業では、育児のために5時には帰る女性は「半分しか働いていない」かのように扱われてしまうんですね。そうなるとせっかく復帰しても正当に評価されない状態になってしまう。
本人にしてみれば、泣く子を保育園に預けて必死の思いで復帰しているのに、この評価なのかと思うと、とても続けていけない。復帰しても意味がないのだったら、子どもの顔をずっと見ていられる方がいいと、専業主婦になるケースを目の当たりにしました。
そこで私は、真の課題は育休中のブランクではなく、復帰した後の働き方なんだということに辿り着いたわけです。ならば、取り組むべき仕事は、復帰者の支援ではなく、組織の働き方そのものを変えるコンサルティングだと考えるようになりました。それが働き方改革コンサルティングを本業とする㈱ワーク・ライフバランスを起業したきっかけです。
——そんな小室さんですが、大学入学時は専業主婦になるおつもりだったとか?
はい、実は大学3年までは、女性が社会に出て働くことは、周囲にご迷惑をかけるという思い込みがありました。出産や育児によって一定期間社会から離れなければならない女性を、企業が男性と同じように評価・配置することは、経済合理性の観点から難しいのではないかと考えたわけです。そうなると、社会に出て活躍したいと願うこと自体がわがままであり、口にしないほうがいいのではないかと思うようになっていました。将来のことを先回りして考えるタイプだった私は、「じゃあ何のために学ぶのか」、「学ぶこと自体が無駄じゃないか」といった虚しさや悲しみを感じることもありました。ただ同時に、人一倍負けず嫌いな一面もあり、こうやって頑張って頑張って最後に負けるとわかっているなんて悔しいことがあってなるものかという思いも抱えていました。そうした屈折した想いから自分はもともと働きたいと思っていなかったことにしてしまおうという捻じ曲がった自己防衛策が自分の中に生まれ、友人たちには専業主婦希望を周知徹底していました。
——その考え方を揺さぶられるような出会いが、大学時代にあったんですね。
はい、そんな私が衝撃を受けたのが、大学3年次の教養特別講義でした。講演にいらしたのが、国際政治学者で、現在は政治家の猪口邦子先生です。私は自分なりに考え抜き、女性が社会に出て働くのはご迷惑だという結論に至っていたわけですが、猪口先生は「これからの社会は、働きながら子育てをしていく人が多数派になっていく。そうした人たちが商品やサービスを購入するのだから、働いて子育てしている人の視点が入ったものでなければ売れなくなるし、最終的な意思決定層に多様性がなければいけない」といったことをおっしゃっていました。それを聞いて「本当だ!」と雷に打たれるような衝撃を受けました。しかも、その言葉を発しているご本人が、話し方や服装などからも、とても女性的でおしゃれを楽しんでいらっしゃるのが伝わってくる。一方で、社会の中で成し遂げてきたことは圧倒的でした。決して男性のように振る舞わなくても、社会を変える本質的な仕事はできるんだという事実にさらに大きな衝撃を受けました。
そうしたロールモデルに、大学3年というギリギリのタイミングで出会わせてくれた大学には心から感謝しています。猪口先生を招いてくださった担当者の方には、今でも直接お礼をお伝えしたいと思うほどです。気持ちが行き詰まっていた状態だった私が息を吹き返した瞬間でしたし、結果的に何人もの同級生の人生を動かす出来事でもありました。
その体験をきっかけに、私は休学して1年間渡米しました。現地で印象的だったのは、在学中にインターンシップに取り組んでいる学生が多いこと。帰国後、卒業に必要な単位はほとんど取得していたため、すぐにインターネットで検索をして、当時はほぼ日本で唯一だったインターンシップの仲介をしてくれるNPOに連絡をとり、インターネットベンチャー企業でインターンシップを経験したのが、ネットビジネスとの出会いです。
——日本女子大学で学ぶ後輩たちへのメッセージをいただけますか?
私は高校から附属校へ入学し、そこでは当たり前のように女性だけでなんでも物事を動かしてきました。その感覚と、社会に出て初めて直面した現実とのギャップを強く意識できたことが、今振り返るととても重要だったと感じています。なんでも女性だけで仕切って、リーダーシップを発揮してきたからこそ、社会の中では女性がサポート役を求められることに「これはおかしいぞ!」と思うことができた。そういう憤りのマグマというか、社会への違和感を得られたことこそが、女子のみで学ぶ環境、女子校・女子大の価値だと思います。
ぜひ皆さんに知っておいてほしいのは、女性が、出産を機に仕事を辞めて、その後パートで復帰した場合の生涯賃金と、産休・育休をとって復帰して働き続けた場合の生涯賃金では、なんと一人の女性で2億円の差が出ているという現実です。キャリアコースの選択によって2億円も違う。自分には2億円の価値があるんだということをぜひ知っておいてほしいです。
企業は、人手不足の時代に、どうやったら学生に選ばれるのかを真剣に考えています。だからこそ若い世代は自信を持って「長時間労働ではなく、本質的な中身の部分でしっかりとハードワークして、短時間でしっかり成長して貢献したい」という声を発信していく必要があると思います。
学生たちの言葉は、企業に対して非常に刺さります。企業だけでなく政治家もそうです。自分が社会に出る前であっても、自分たちの声で一歩ずつ社会を変えていけるということを知っておいてほしい。ぜひ自分たちの持つ武器を存分に使って、社会に発信していってほしいと思います。
プロフィール
小室 淑恵 こむろ よしえ
3600社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げるコンサルティング手法に定評があり、残業削減した企業では業績と出生率が向上している。安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省・文部科学省・こども家庭庁等の複数の公務を歴任。著書に『プレイングマネージャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)等多数。2児の母。
