食科学部特別招聘教授が伝える「キャリアの切り拓き方」と世界へ羽ばたく日本食

2026.02.12

【授業紹介】有馬るね特別招聘教授が食科学部食科学科1年生に向けて特別講義を実施

2025年度に新設された食科学部では、グローバルな視点から食の可能性を学ぶ教育の一環として、家政学部食物学科卒業生であり、現在アメリカの日本食材卸会社ミューチャルトレーディングでVice President(副社長)を務める有馬るね(ありまるね)先生を特別招聘教授として迎えています。
2025年10月から12月にかけて、全3回にわたり、食科学部の学生を対象に有馬先生による特別講義が実施されました。本記事では、有馬先生の豊富な海外経験とともに、学生たちが学んだ「キャリア」と「日本食の可能性」についてご紹介します。

DAY1「世界とつながる、食のプロフェッショナル」

初回の講義は、有馬先生が駐在するアメリカ・ロサンゼルスからのオンライン講義として行われ、ご自身のキャリアを振り返りながらお話しいただきました。
有馬先生は1998年3月に家政学部食物学科(現食科学部食科学科)を卒業後、カルビー株式会社に入社。社会人1年目は広島工場で研究・開発に携わり、初めて手がけた仕事は「広島風お好み焼き味」のポテトチップスの開発だったそうです。その後、東京勤務も含め、4年間で20品目以上の新商品開発に関わりました。
転機が訪れたのは入社5年目。「いつかは海外で働いてみたい」という思いを抱く中で目にしたのが、タイ子会社の研究開発職の社内公募でした。当時は女性社員の海外派遣の前例はなく、言語面への不安もあったそうですが、「これは自分のためのチャンスだ」と感じ、応募を決意。見事選出され、タイでのキャリアがスタートしました。
社員約200名規模のタイ子会社では、日本人は社長と有馬先生の2名のみ。技術的な相談がすべて有馬先生に集まる環境の中で、「専門外のことにも向き合うことで、仕事の幅が大きく広がった」と当時を振り返ります。
4年間のタイでの勤務を通じて多様な業務を経験する中で、「将来は社長を目指したい」という明確な目標が生まれ、研究開発職からセールスやマーケティング、海外事業へとキャリアの幅を広げていかれました。
イギリスでの子会社・工場立ち上げでは非常勤取締役として経営に携わり、「社長がどのように意思決定を行うのかを間近で学べたことは、大きな財産だった」と語ります。
そして2018年、10年越しの目標を実現し、タイ子会社(Calbee Tanawat Co., Ltd.)の社長兼CEOに就任。2023年には「菓子以外の食品カテゴリーにも挑戦したい」との思いから同社を退社し、宝酒造インターナショナルへ転職されました。
有馬先生は自身のリーダーシップを「共感型」と表現します。「強く引っ張るのではなく、周囲の声を聞きながらまとめるスタイル。指示を出さなくても人が動く関係性づくりと、迅速な意思決定を大切にしています」。この共感型リーダーシップは、日本人、特に女性が活かしやすいスタイルではないかと語り、DAY1の講義は締めくくられました。

DAY2「食科学とマーケティング~おいしさを届けるための戦略~」

DAY2は、有馬先生に本学へお越しいただき、グループワークを中心とした対面授業が行われました。
マーケティングをテーマに選んだ理由について、有馬先生は次のように語ります。
「みなさんの多くが就くであろう食品企業の商品開発や品質保証でも、マーケティングの視点は必ず必要になります。お客様に価値を届けるための“考え方”として、ぜひ知っておいてほしい分野です」。
講義の前半では、マーケティングの定義やプロセス、4Pなどの基礎を解説。後半では、日本とアメリカで販売されている同一スナック菓子を題材に、パッケージや味・形状の違いを比較し、「なぜ違うのか」をグループに分かれて議論しました。
さらに、北米でアジア系食品を扱うオンラインショップ「Weee!」の商品レビューを分析し、アメリカの消費者ニーズを読み解く実践的なワークも実施。
最後の課題では、「アメリカで売るとしたらどのような商品を開発するか」をテーマに、「チョコレートコーティングをしたい」「次回使える割引券をつけたプロモーションを考えたい」など、学生たちからは自由なアイデアが発表されました。
マーケティングに関する推薦図書の紹介や有馬先生のアメリカ土産の抽選会もあり、終始活気に満ちたDAY2となりました。

DAY3「日本の食文化を世界へ:食材と価値の伝え方」

最終回は再びオンラインで実施され、有馬先生がVice Presidentを務めるミューチャルトレーディングの事業と、アメリカにおける日本食文化の広がりについて紹介されました。
ミューチャルトレーディングは1926年、アメリカ・ロサンゼルスに設立された海外日本食材卸会社で、刺身、肉、米、日本酒、キッチン用品など1万点以上の商品を取り扱っており、和食や日本酒のスクール運営など、日本食文化の普及にも力を入れています。
講義では、日本ではメジャーではないものの、アメリカでヒットしている日本企業の商品例として、大豆食品シートが紹介されました。海苔が苦手なアメリカ人向けの代替素材として、寿司に広く使われているそうです。
また、2013年の和食のユネスコ無形文化遺産登録を契機に、日本食レストラン数が世界的に増加し、2013年から2023年の10年間で約3.4倍に成長したことも紹介されました。
1960年代の江戸前寿司、1970年代の鉄板焼き、1990年代の日本酒ブーム、2000年代の居酒屋文化、そしてコロナ禍で注目された弁当文化——。
時代背景とともに変化してきた日本食の流行を振り返りながら、「社会や人々のニーズを読む感度が重要」と有馬先生は語ります。
最後のグループワークでは、「アメリカで広めたい日本食」をテーマに、「豚汁」「さつまいも(安納芋)」「納豆などの発酵食品」などが学生から提案されました。
講義の締めくくりには「食品業界は意外と狭いです。将来、思わぬところで再会することもあるかもしれません。その日を楽しみにしています」という温かいメッセージが有馬先生から学生たちに贈られました。

後輩の学生たちにむけて

 講義終了後、有馬先生にお話を伺いました。

—— 特別講義を終えていかがでしたか?
有馬先生:自分が大学生だった頃を思い出しながら授業を組み立てましたが、学生のみなさんが想像以上に主体的で、とても頼もしく感じました。新学部から素晴らしい人材が育っていくのではないでしょうか。コメントシートを読んでも、心に残った点が1人ひとり異なっていて、多様性の芽を感じました。
 
—— 学生たちに期待することは?
有馬先生:恐れず、自分らしくいてほしいですね。「自分らしさ」を見つけるのは簡単ではありませんが、その過程を楽しんでほしいと思います。
 
プロフィール
有馬るね特別招聘教授 ありまるね

食科学部

1998 年日本女子大学家政学部食物学科食物学専攻を卒業後、カルビー株式会社入社。研究開発部門からキャリアをスタートし、欧州での会社および製造工場の立ち上げに従事。その後、タイ現地法人であるカルビータナワット社の President 兼 CEO に就任。現在は、宝酒造インターナショナル株式会社内の海外日本食材卸事業会社の1つであるアメリカのミューチャルトレーディングでVice Presidentとして日本の食材を広くアメリカに発信している。

参考リンク