スウェーデンの子育て支援体制に学ぶ

2023.02.28

スウェーデンの子育て支援体制に学ぶ

ウプサラ大学教員をお招きした国際セミナー&卒論発表会

1月25日、本学の協定大学の一つであるスウェーデン ウプサラ大学教育学部より、ベロニク・シモン准教授をお招きし、JWU国際セミナーおよびウプサラ大学へ留学した学生による発表会を開催しました。本学とウプサラ大学は2017年に協定を締結し、これまでに本学より9名が留学しています。 本セミナーでは、スウェーデンで3年半保育士を経験された家政学部児童学科の浅野由子講師が司会を務めました。

Guest Speaker: Dr. Veronique Simon, Associate Professor at Department of Education, Uppsala University

第一部 JWU国際セミナー「多国籍ルーツを持つ子ども達と保護者への支援」

第一部(11:00〜12:30)のJWU国際セミナー「多国籍ルーツを持つ子ども達と保護者への支援」には、約30名が参加しました。シモン先生のご専門は言語教授学、多言語・多文化で、スウェーデンの教育制度における、移民を統合する研究や教育の在り方に焦点を当てています。

スウェーデンではスウェーデン語を含む200の言語が話されていますが、公用語が定められていない代わりに、言語や学校教育に関する法律によって、学校の授業は173言語で受けられます(週に1時間程度のものも含む)。移民の子どもが教育を受ける権利が法的に守られていると同時に、保護者は子どもを就学させる責任についても学びます。シモン先生は、多言語・多文化環境を推進するうえで「政策にかかわる人の関与」が大切であると、繰り返し主張しました。

スウェーデンの先進事例を紹介するシモン先生。ご自身もフランスから移住し、異国の地で子育てを経験した

また、「当事者の関与」も大切で、スウェーデンでは子ども、保護者、就学前学校施設の先生、あらゆる人が気軽に気持ちを話せるような場も設けています。一つの取り組みとして、オープン・プレスクールという、子どもと母親が一緒に行ける場があります。身分証明書や予約が必要なく、誰でも気軽に立ち寄れ、そこでスウェーデン語を学ぶこともできます。スウェーデン国籍の母親たちも活用しており、参加することで自然に出会いの場になっています。「Swedish for Parents(保護者のためのスウェーデン語)」という語学教本も発行されており、親子に特化したフレーズが掲載されています。このような教本は、多国籍化が進む世界において、学習者と日常生活を近づける取り組みとして注目されています。

会場からは熱心な質問やコメントも投げかけられた

第二部 ウプサラ大学への留学生による発表会

第二部(14:00〜15:30)では、ウプサラ大学へ留学した児童学科の学生2名が、留学体験を交えながら卒論を発表しました。その後、シモン先生より講評をいただきました。

【発表1】
児童学科4年 秦千佳さん
卒論テーマ 「ギフテッド教育とインクルーシブ教育の繋げ方」

秦さんは、卒論「ギフテッド教育とインクルーシブ教育の繋げ方」を発表しました。ギフテッドの子どもは、学校で十分な挑戦ができなかったり、対人関係の悩みを持っていたり、スキルのアンバランスに困っていたりする現状があります。一般的な分離型教育・分離型政策への疑問を持った秦さんは、通常教育の中でギフテッド教育ができないかを研究し、スウェーデンと日本の学校の具体的な事例をもとに、個人の特性を「受容」し合うことの重要さは両国共通であると主張しました。

発表する秦さん

スウェーデン留学中、秦さんは北極圏ラップランド地方でオーロラを見る、アイスホテルでの宿泊、犬ぞり、戦争博物館への訪問など、現地で多くのことを体験しました。カフェのケーキ全制覇も試みたそうです。

シモン先生の講評:
ギフテッドの子どもたちが抱える問題に言及されたこと、情緒的・社会的な側面に触れたことは重要です。ハラスメントを受けたり、他の子どもたちとうまくやっていけなかったりすることがあります。さまざまな共同の努力によって問題を乗り越え、コミュニティの中で協調しながらやっていく中で、周囲からのサポートも重要だと思います。

ギフテッドに触れる際に、何を基準にギフテッドと考えるかは大切です。一つの領域に長けている人とも言えますし、アスペルガー症候群の方もギフテッドと言えると思います。何を測定してギフテッドと言えるかは、杓子定規の考え方ではいけないと思います。実際のテストにおいても、いかに優れている点を測定していくか、どのような意見をもっているかを考えることが重要だと思います。

秦さんのコメント:
ギフテッドの定義について、さまざまな先行研究があります。IQ(知能指数)は将来永続的に決定されるものという研究者もいれば、一時的なものという研究者もいます。IQに加えて意欲の高さに言及する研究者もいます。私は、IQ指数に対しては生涯のものと断言できず、一時的であり環境によって変化するものと考えています。

私の研究では、スウェーデンの先行研究の発表に対して、ギフテッドという言葉ではなく「高度な学習者」という言葉を使いました。一方で日本の研究に対しては「ギフテッドの子ども」という言葉を使いました。日本ではギフテッドの意味をより広く考え、「ひとりひとりの特性がギフテッド」と捉えた変化を表していると考えたからです。

講評するシモン先生

【発表2】
児童学科4年 田島永南子さん
卒論テーマ 「未就学児にとっての無の個空間とは」 

田島さんは、移民が多く多文化共生保育を尊重するスウェーデンで、人権教育や民主主義的教育を中心に学び、国際化していく未就学児の支援に貢献したいと留学を決めました。そのため、日常的に英語に触れ、本学の全英語の授業の履修やTOEFL・TOEICの受験をし、入念に準備したそうです。

田島さんの卒論テーマは「未就学児にとっての無の個空間とは」。スウェーデンの保育空間で見られた隠れ家的な無の個空間に着目し、この個空間が保育の質の向上の手法の一つで子どもが主体的に空間を選択できる楽しさと本当の居心地の良さがあると感じたことから、何も規定されていない無の個空間の重要性を研究しました。実習先の園児たちへのインタビューや、絵を描く活動を通して調査しました。

結論として、無の個空間は個人空間のみならず仲間との関係を構築する交流の場として機能しており、子どもたちが寄り道したくなるような密かな隠れ家的空間を提供し、かつ用途を強制せず優しさや寛ぎを伴う空間演出が不可欠である、と見解を述べました。

発表する田島さん

留学中は、世界中の留学生が集まる寮生活やレストランでのボランティアスタッフも体験しました。また、未就学児向けの学校実習では、日本舞踊やお寿司をテーマに日本文化を取り上げ、体験を通じて興味が広がり、異文化に親しみを持てる実践活動をしました。

シモン先生の講評:
活動を通して子どもたちと触れあい、さまざまな人との繋がりをしっかり研究されました。田島さんが指摘したことはあまりにも自然なことなので、スウェーデンの教育施設の先生は意識していないポイントだと思います。園や学校以外にもそれぞれ図書館などにお気に入りの場所があると思いますので、今後深掘りしてみてください。保育園の中でいつ隠れ家的な場所に行くのかを調べるのも、興味深いのではないでしょうか。
またスウェーデンに来て、英語でこのような講義をしていただくことも、ぜひ検討してみてください。

田島さんのコメント:
スウェーデンの図書館で、1人用のキッズエリアに入っていく中学生に、図書館司書が「ここは子ども専用の場所だから入らないように」と注意しているのを見ました。そのように子どもを一番に考え、子どもの居場所を守っているのだと感じました。
いつ隠れ家的な場所に行くかについては、子どもたちを観察していると遊びの中で入りたい空間に入る傾向がありました。さらに調査してみたいと思います。

学生による発表の様子

*本セミナーおよび発表会は、2022年度特別重点化資金(外国人研究者招聘)「多国籍ルーツを持つ子どもと保護者への支援」申請代表者、浅野由子、及びJSPS科研費「保育所を利用する外国にルーツをもつ親への支援プログラムの開発」研究代表者 和田上貴昭、児童学科により開催いたしました。