多文化都市ブリュッセルで建築の可能性を探る——建築デザイン研究科から「トビタテ!留学JAPAN」第17期生に2名が採択
2026.04.17
建築デザイン研究科大学院2年生の武神加奈(たけがみかな)さんと吉田菜乃(よしだなの)さんは、文部科学省が実施する官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN新・日本代表プログラム」(以下、トビタテ)第17期生として合格しました。留学先は、ベルギーのブリュッセル自由大学。合格までの過程では、国際交流課による支援や教員の助言など、大学のサポートが後押しとなりました。
建築という共通分野を学びながらも、それぞれ異なるテーマを掲げ、ヨーロッパの多文化社会に飛び立つ2人が合格までの道のり、大学からのサポートや今後について語ってくれました。
※2025年8月時点の情報です
合格の知らせを受け取ったとき
武神さん:
合格の連絡は、北海道を旅行している最中にメールで届きました。面接官の方との相性は良いと感じていましたが、結果が出るまでは気持ちが張りつめていたため、通知を見た瞬間は率直にほっとしましたし、同時にとても嬉しかったです。
面接では、ひとり親家庭で7年間自炊を続けてきたことや、その経験を生かしてアンバサダー活動※1として日本食を現地で振る舞いたいという話など、かなりパーソナルな話もしました。そうした点が面接官の方の印象に残ったのではないかと感じています。深い話ができたという実感があり、「できることはやり切った」という感覚でした。そのため、もし不合格であっても仕方がないと思えるほどでした。
吉田さん:
私もメールで結果を知りましたが、その時間は国際交流課が閉まっていたため、電話で結果を確認しました。合格と分かった瞬間、思わず飛び上がるほど嬉しかったです。
トビタテは、留学そのものだけでなく、留学を通じてコミュニティが広がったり、新たな挑戦につながったりする点に魅力を感じていました。そのため、合格が決まったことで、これからの留学生活やその先が一気に楽しみになりました。面接官との相性も良く、グループディスカッションも和やかに進んだため、一定の手応えは感じていました。
国際交流課が主催した「トビタテ生の卒業生とのオンライン相談会」が役立った
応募時期は期末試験と重なっており、正直なところ非常に忙しく、提出したことを忘れかけていました。書類審査が通るとはあまり思っていなかったです。準備期間も十分とは言えず、指導教員の先生方に添削をお願いする時間も限られていました。
自由記述書については、自身が所属するゼミの指導教員であり学長でもある篠原先生に目をとおしていただきました。また、国際交流課が主催した「トビタテ生の卒業生とのオンライン相談会」に参加し、OGの方との面談では、文章の構成について一緒に考えていただきました。
私の留学テーマは、都市開発が進む中で集合住宅が均質化していくことへの疑問から出発しています。ただし、均質化によって安全性や清潔さが確保される側面も理解しており、それ自体を否定したいわけではありませんでした。過度に均一化するのではなく、住民が主体的に使いこなせる余地や遊びのある集合住宅があってもよいのではないかと考えていました。
篠原先生からは、どの立場から読んでも批判的な意見だけに見えないよう、自分の伝えたいことがきちんと伝わる構成にするよう助言をいただきました。建築家として多様な立場に立ってきたからこそのアドバイスだったと感じています。自由記述書のタイトルも一緒に考えていただき、前日に急遽変更したのをよく覚えています。
吉田さん:
私は、もともとヨーロッパに留学したいという思いがありました。国際交流課からトビタテへの応募を勧められ、説明会に参加したことがきっかけで本格的に検討を始めました。
説明会では、留学を留学期間だけで終わらせるのではなく、その後の活動や人とのつながりへと発展させていく制度であることを知り、強く惹かれました。応募にあたっては、自分が本当にやりたいことは何かを改めて考える機会になり、自己分析の時間にもなりました。
他の奨学金制度は海外で活躍する人材育成を目的とするものが多い中で、トビタテは「日本の社会課題に貢献する人」を重視している点が、自分のやりたいことと合致していると感じました。
自由記述書は、国際交流課が主催した「トビタテ生の卒業生とのオンライン相談会」に参加し、OGや国際交流課の方々に見ていただきました。特に印象に残っているのは、国際交流課の対応の早さです。午前中に原稿を送ると、1時間ほどでフィードバックをいただくこともあり、とても心強く感じました。審査員の方の目に留まるレイアウトを意識し、デザインは指導教員のキャズ・T・ヨネダ先生に見て頂きました。日頃から建築学科のプレゼンでも使っていたIllustrator やCanvaが資料作成に役立ちました。
留学テーマとSTEAMコース※2を選んだ理由
私のテーマは「脱均質化!住民自ら使いこなす集合住宅を紐解く」です。研究室で行ったワークショップを通じて、東南アジアの集合住宅を調査し、より良くするための提案を行った経験があり、集合住宅に強い関心を持つようになりました。
留学先をヨーロッパに定めたため、ヨーロッパの集合住宅を対象に考えたいと思い、このテーマを設定しました。
STEAM分野を選んだ理由は、建築はテクノロジーとアートの両方を含む分野であり、専門性の高い領域だと考えたからです。
吉田さん:
私のテーマは「『伝統工芸品×建築』〜多文化国家ベルギーの『ものづくり』を探究し、日本の伝統工芸品に新たな価値観を与え再生する〜」です。
日本橋で街づくりに関わる学生団体に所属し、伝統工芸品の老舗や職人の方々から話を伺う中で、伝統工芸品は本来、日常を豊かにしてくれる身近な存在であると実感しました。一方で、後継者不足などにより衰退している現状も目の当たりにしました。
私はインテリアや建築に関心があるため、自分の専門分野を生かして伝統工芸品に新たな光を当てられるのではないかと考え、このテーマを設定しました。
STEAM分野には社会課題解決というキーワードがあり、伝統工芸品というテーマが社会課題と深く結びついていると感じたことも選択理由の一つです。
面接に向けて意識したこと、工夫したこと
面接では一貫性を何よりも大切にしました。これまで自分がどのようなことを考え、どのような経験を積んできたのかを整理し、最終的な目標である「国際的に活躍する建築家」になるために、なぜ留学が必要なのかを論理的に説明しました。
ヨーロッパを留学先に選んだ理由は、多文化的な背景を持つ人々が多く暮らす環境で、多角的な視点から建築のあり方を探ることが、自分のテーマに合致しているからです。ベルギーは地域によって使用言語が異なり、公用語が3つあります。ブリュッセルはEUの中心地であり、国際機関が多数存在します。
ベルギーやブリュッセル、そしてブリュッセル自由大学が、いかに自分の留学テーマに必要な要素を備えているかを、一つずつ丁寧に説明しました。実践活動の内容もすでに具体化していたため、そこで得た知見をインターンシップにつなげ、最終的には日本でも多国籍な住環境を支える設計を担える建築家になりたいと話しました。
また、後輩のトビタテ生や、これから留学を目指す学生への還元も重視されている制度であるため、自分がどのようにその役割を果たせるかについても、書類だけでなく面接でも示しました。
吉田さん:
面接でどのように自分のテーマを印象づけるかを考えたとき、視覚的な要素を取り入れたいと思いました。伝統工芸品は青を基調としたものが多くあります。江戸時代に藍染が広く普及した歴史的背景があるためです。そのため、面接で使用したフリップボードは青で統一しました。
また、トビタテでは留学先での実践活動が重視されるため、何かを実際に行ってきた実績がある方が説得力があると考えました。日本橋で伝統工芸品のプロデュースに関わった経験は、必ず伝えたい内容でした。
本当はアルバイトやサークル活動などもアピールできましたが、「伝統工芸品に取り組む人」という印象を一貫させるため、あえて情報を絞りました。先輩のトビタテ生から「自分だからこそできることを強く打ち出した方が良い」と聞いていたこともあり、建築と伝統工芸品を掛け合わせている点を重点的に伝えました。
将来についても具体的に話しました。工芸品は素材や技術に地域性が強く表れるため、工芸品を通して町全体の魅力を再生できるのではないかと考えています。私は人とコミュニケーションを取ることが好きなので、さまざまな人を巻き込み、分野を横断したコラボレーションができることも自分の強みとして伝えました。
ベルギーを選んだ理由
ベルギーには公用語が3つあること、首都にEUの本部があることから、多文化を受け入れる土壌があると感じました。また、建築の近代化の流れの中で重要な役割を果たしたバウハウスの思想が、芸術や工芸と建築を融合させる教育として根付いています。
建築には機能性が必要である一方で、芸術性も不可欠です。その両者を融合させる考え方に強く共感し、そうした教育方針を持つ国立の美術学校を起源とするブリュッセル自由大学で学びたいと考えました。
実践活動を通じて得た知見を、日本における多文化共生型の住環境設計に生かしていきたいと考えています。
吉田さん:
ベルギーを留学先に選んだ理由の一つに、アール・ヌーヴォー様式があります。アール・ヌーヴォーは、100年ほど前に日本の工芸品がヨーロッパでブームとなった時代の影響を強く受けています。ブリュッセル自由大学の建築学科「Faculty of Architecture La Cambre Horta(ラ・カンブル・オルタ)」は、アール・ヌーヴォーの巨匠と呼ばれる建築家、ヴィクトル・オルタの名に由来しています。
ベルギーはヨーロッパの中心に位置し、伝統を重んじるフランスと、新しいものを生み出す文化を持つオランダやドイツに囲まれています。そのため、伝統と新しい価値観が混在する地域です。そうした場所で、工芸品の保存や支援制度を学び、日本に持ち帰りたいと考えました。
実践活動では、ヨーロッパにおいて日本の工芸品がどのように受け止められているのかを調査したいと考えています。メゾン・エ・オブジェやジャパンエキスポなど、日本の工芸品が紹介される機会は多く、動画配信サービスの影響もあり、日本の昔のものが注目されていると感じています。
ベルギーは他国へのアクセスが良いため、現地で出会った人々や他国のトビタテ生ともつながりながら、自身の活動をアウトプットしていきたいです。現在は、ベルギー日本大使館への相談など、新たな実践活動の受け入れ先を模索しています。
合格までの過程で感じた自身の成長
インターンシップ先を探す過程で、自分から積極的に行動する必要がありました。先輩に話を聞きに行ったり、勝算がなくてもとにかく動いてみたりする中で、うまくいかなければやり直せばよいというトライアンドエラーの姿勢が身につきました。
もともと慎重で心配性な性格でしたが、まずは行動に移すという勇気を持てるようになったことは、大きな変化だと感じています。
吉田さん:
トビタテへの挑戦を通じて、自己分析が深まりました。考えを重ねる中で、自分が何を大切にし、何をやりたいのかが明確になりました。また、工芸品や建築の見え方にも変化があったと感じています。単なる「もの」としてではなく、社会や人との関係性の中で捉える視点が養われました。
留学先で挑戦したいこと、楽しみにしていること
日本は「便利さ」に対する意識が非常に高い社会だと思います。一方、ヨーロッパでは古いものほど価値があるという考え方が根付いています。便利さだけが、人が豊かに生きるための価値ではないと考えているため、現地の価値観を受け入れることで、自分の生活や考え方がどのように変化するのかを見てみたいです。文化や価値観の違いによるカルチャーショックも含めて、楽しみにしています。
吉田さん:
建築やインテリアなど、デザインに携わる人がどのようなところからインスピレーションを得ているのかに関心があります。以前、実際にデザインの仕事をしている方に話を伺った際、学生時代の経験や、多くの良いものを見てきた経験が現在の仕事に生きていると聞きました。建築に限らず、さまざまな分野のものを実際に見て吸収したいと考えています。
高校生・これから留学を考える人へのメッセージ
英語を学びに行くのではなく、「英語で何かを学びに行く」という意識を持つことが大切だと思います。まずは自分のやりたいことや関心のあること、好きなことを突き詰め、そこから行動に移してみてください。
私は英語に自信がありませんでしたが、映画が好きで100本以上観る中で、自然とリスニング力が身につきました。トビタテは英語の成績だけで判断される制度ではありません。英語に自信がないからこそ、挑戦する価値がある制度だと思います。
吉田さん:
高校時代は、ほとんど英語を話せませんでした。大学2年生の頃、英語のニュースを聞くなどの勉強法に挑戦しましたが、続きませんでした。その後、YouTubeでVlogを見るようになり、楽しく学べる方法が自分に合っていると気づきました。
英語に限らず、将来役に立つかどうかを考えすぎず、「好き」を続けることが大切だと思います。興味のあることを続けていると、点と点がつながり、思いがけない形で道が開けることがあります。
振り返ると、迷っていた時間が今の自分を支えてくれていると感じます。迷う時間は決してネガティブなものではありません。迷うからこそ新しい出会いや選択肢が生まれますし、迷うということは真剣に考えている証拠だと思います。
文部科学省は、意欲と能力ある全ての日本の大学生や高校生が、海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、2013年に留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を開始しました。
第1ステージ(2013年度~2022年度)に実施した海外留学支援制度「日本代表プログラム」においては約9,500人の若者が採択され、海外での多様な実践活動の経験等を経て、グローバル人材としての成長を遂げています。
このような成果を踏まえ、引き続き、産学官をあげてグローバル人材育成の取組を強化するため、2023年度から新たなビジョン及びコンセプトを掲げた第2ステージ(2023年度~2027年度)を実施しています。
第2ステージにおいては、新たなビジョン「日本の若者が世界に挑み、“本音と本気”で国内外の人々と協働し、創造と変革を起こす社会」及び、コンセプト「Challenge,Connect,Co-create」を掲げました。事業の3つの柱として返済不要の奨学金を支給する「新・日本代表プログラム(5年間で高校生等4,000人以上、大学生等1,000人以上)」、留学に関する情報の集約とステークホルダーの連携を強化する「留学プラットフォーム事業」、帰国後のトビタテ生が国内外の団体と協働し各方面で活躍する人材を育成する「価値イノベーション人材ネットワーク事業」を実施しています。
(「トビタテ!留学JAPAN」ホームページより)
※1…アンバサダー活動とは留学先で「日本」や「日本文化」、「自身の出身地」の魅力を発信し、日本のファンを増やす活動で、帰国後はエヴァンジェリスト(伝道師)として留学経験を周りに伝える役割も担う
※2…「イノベーターコース」「STEAMコース」「ダイバーシティコース」の3つから留学計画に応じて選んで応募する
