多文化共生を実現するために必要な心理的なサポートを学ぶ——「トビタテ!留学JAPAN」第16期生に合格!
2025.11.06
人間社会学部心理学科4年生の木村美桜乃(きむら みおの)さんは、文部科学省が実施する官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN新・日本代表プログラム」(以下、トビタテ)第16期生として合格し、ニュージーランド・オタゴ大学への留学を経験しました。トビタテにおける留学計画のテーマは「多文化共生を実現するために必要な心理的なサポートを学ぶ」。帰国した今、当時を振り返りながら留学をとおして得た学びや成長を語ってくれました。
トビタテ応募のきっかけ
高校3年生のとき、外国人が日本で母語によるカウンセリングを受けにくい現状をテレビ番組で知り、「心理的なサポートをしたい」という思いを抱いたことが原点でした。当時はトビタテの存在も知らず、前もって応募を考えていたわけではありません。
ただ、附属高校時代にニュージーランドのダニーデンへ語学研修で訪れた経験があり、その穏やかな雰囲気や人との交流が強く心に残っていました。大学に進学してからも「またあの場所で学べたら」と思っていました。
そんな折、国際交流課に留学相談をした際に初めてトビタテの制度を知り、挑戦してみたいと考えるようになりました。
国際交流課と二人三脚でつかんだチャンス
トビタテに応募するにあたり、書類の作成では真っ白な記入欄を前に「何から書き始めればいいのだろう」と戸惑うところからのスタートでした。そこで、国際交流課が主催する添削講座に参加し、2時間×2回にわたって講師より個別に指導を受けました。自分ひとりではとても完成できなかったと思います。
書き進めるうちに「自分は何をしたいのか」が見えなくなってしまうこともありましたが、そのたびに講師と国際交流課の方が一緒に考えを整理してくれました。将来どんな仕事に就きたいのかを軸に、そこから逆算して計画を組み立てられたことは大きな収穫です。
また、留学計画には心理学に関する内容を盛り込んだため、「専門外の人にも分かりやすく」とのアドバイスを受けながら、何度も推敲を重ねました。そうしたサポートを得て、書類は少しずつ形になっていきました。
書類審査を通過したときは、「まさか通るとは思っていなかった」というのが正直な気持ちです。そのため急いで面接練習に取りかかりました。面接はわずか10分間でしたが、そのために12枚ものフリップボードを用意し、万全の準備を整えました。
書類審査通過後、国際交流課が調整し、講師の面接指導を2回受けました。また、自分からお願いして、講師の面接指導後に国際交流課に追加で面接の練習をしてもらいました。プレゼン資料は、自分で先輩トビタテ生の情報を集めながら作成しました。その後、講師や国際交流課の方に相談し、話の組み立て方を工夫するなど改善を重ねました。ロールプレイングを含めて1〜2時間の練習を2〜3回行い、毎回的確なフィードバックをいただきました。特に「具体的な数字を入れると説得力が増す」とのアドバイスは印象に残っています。加えて、トビタテ公式が実施している留学計画書の相談会にも参加し、複数の先輩トビタテ生にアドバイスをもらいました
こうした準備を重ねたことで、限られた時間の中でも自分の思いをしっかりと伝えられる自信につながりました。
本番では、面接官はトビタテのOB・OGと企業の方1名で、とても緊張しました。OGからの質問は厳しく、内心泣きそうになりながら答えていたため、「落ちたかもしれない」と思ったほどです。それでも、国際交流課との練習や自宅で両親と繰り返し練習したことが結果に繋がったのだと思います。
ニュージーランドでの挑戦
留学中は、交換留学や留学生向けの寮「ユニフラット」に滞在しました。大学生5人で暮らすこの寮では、ムービーナイトや誕生日のお祝い、勉強会など、自然と日常に溶け込む交流イベントが盛んに開かれていました。フラットメイトとの距離がぐっと縮まり、語学力の向上はもちろん、精神的な支えにもなりました。
まずは4か月間、オタゴ大学での学部留学への準備としてオタゴ大学附属の語学学校に通いました。クラスメイトとはすぐに打ち解け、とりわけフラットメイトのキウイ(ニュージーランド出身の学生)とは、日々の小さな出来事を寝る前に語り合うほどの仲に。年下ながら姉のような存在に感じるほど深い関係を築けました。また大学が始まる前の2か月間は、フラットメイトの日本人学生と毎晩英語で日本社会やお互いの経験を語り合う時間を過ごし、それが心の支えであると同時に英語力の向上にもつながりました。語学学校時代の友人とは今でも連絡を取り合っています。
語学学校での学修と並行して、ボランティア活動探しをしました。トビタテ合格後のタイミングで、当初トビタテに申請した留学計画書に記載したボランティア活動先より、やはり受入ができないと断られてしまいました。トビタテは留学中に実践活動を行うことが求められているため、新しいボランティア活動先を探すことになりました。留学前から何十件も問い合わせましたが、私が実践活動を希望するカウンセリング分野は、言語の問題や個人情報保護等の観点、また現地警察が行う経歴調査が必要というニュージーランドの国の事情もあり、留学生のボランティア受入れが大変難しい状況でした。ボランティア活動はトビタテの奨学金支給の条件であるため大きなプレッシャーを感じつつも、心理学科の研究棟を一人ひとり訪ね歩き「ボランティアを募集している先生はいませんか」と尋ねて回りました。そこで偶然出会った教授の研究室で絵本の翻訳活動をさせていただけることになり、さらに性犯罪防止を目的とした学生支援団体「Te Whare Tāwharau」にも飛び込みで直談判し、ボランティアの機会を得ることができました。現地で“直接足を運びお願いする”という行動が突破口となり、もともと積極的に動けるタイプではなかった私は「自ら動けば道が開ける」ということを強く実感しました。
また、トビタテで出会った仲間たちは高い志を持ち、それぞれの目標に向かって努力している人ばかりだったので、ともに過ごす中で周囲の努力を間近に感じ、自分も頑張ろうという気持ちが自然と高まりました。トビタテ生同士でSNSを交換し、仲間がそれぞれの地で挑戦を続ける様子を見ることも、大きな刺激になっていたと思います。
留学を通じて得たもの
留学をとおして自身の成長を実感したのは、自分の意見を発言する力です。質問力やコミュニケーション力がつきました。学部期間では、”Introduction to the Scientific Study of Religion”、 “Comparative cognition”、 “Mapping our Interconnected World: An Introduction to Global Studies”の授業を受講しました。一つ目の授業では、欧米におけるキリスト教徒の社会的信頼に関する研究などを通して、宗教を科学的な観点から学びました。Comparative cognitionでは、論文の限界や欠陥について検討していくことで、批判的思考を身につける授業で、心理学を専攻している私にとってとても興味深い授業でした。3つ目では、AIや地球温暖化、移民問題などの世界的な問題について学んでいき、ニュースや論文などを参考にし、レポート作成やプレゼンテーションを行う授業でした。どの授業も必ず自身の意見を話す時間やグループワークがあり、話す力だけでなく、話す勇気も鍛えられる授業でした。特に、“Comparative cognition”では、論文の限界について議論をする時間が設けられ、発言できなければ準備が整っていないと見なされ、退出になってしまうため緊張感がありました。「間違えてもいいから言ってみよう」と挑戦し、積極的に質問や議論に参加できるようになったと思います。
さらに、相手に興味を持って小さな会話を重ねる“スモールトーク”の文化に触れたことで、どんな人とも関心を持って話せるようになったのは大きな変化です。
また、オタゴ大学は国際色がとても豊かで、ヨーロッパやアジアをはじめ世界各地から留学生が集まり、留学先としてとてもおすすめです。インドのお祭りやキリスト教の行事、マオリの文化など、多様な国や地域の伝統を大切にするイベントが学内外で数多く開かれており、私のフラットメイトも国籍や文化背景がさまざまでした。授業でも先生や学生の出身地は様々で、日常的に異なる宗教観や価値観に触れ、自然と交流できることが魅力です。
そうした環境で友人をつくり、互いの文化を尊重し合う経験を重ねるうちに、固定観念や先入観が少しずつほどけ、多文化共生に向けて自分の視野が広がったと感じています。
これからの目標
まずは大学院に進学し、公認心理師の資格を取得したいと考えています。将来的には日本に住む外国人への心理的支援を行うことを目指しています。現在も心療内科でアルバイトをしており、海外の方が英語で心理的サポートを受けにくい現状があることを聞いています。資格を取得して語学力を磨いて少しでも力になりたいです。
受験生へのメッセージ
特別優秀だったわけではない自分でも、一歩を踏み出すことで世界が広がりました。
まずは「やってみる」ことが大事だと思います。挑戦すれば、思ってもみなかった方向に物事が動くことがあります。受験生の皆さんも、怖がらずに行動してみてください!
「トビタテ!留学JAPAN」とは
出す機運を醸成することを目的として、2013年に留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を開始しました。
第1ステージ(2013年度~2022年度)に実施した海外留学支援制度「日本代表プログラム」においては約9,500人の若者が採択され、海外での多様な実践活動の経験等を経て、グローバル人材としての成長を遂げています。
このような成果を踏まえ、引き続き、産学官をあげてグローバル人材育成の取組を強化するため、2023年度から新たなビジョン及びコンセプトを掲げた第2ステージ(2023年度~2027年度)を実施しています。
第2ステージにおいては、新たなビジョン「日本の若者が世界に挑み、“本音と本気”で国内外の人々と協働し、創造と変革を起こす社会」及び、コンセプト「Challenge,Connect,Co-create」を掲げました。事業の3つの柱として返済不要の奨学金を支給する「新・日本代表プログラム(5年間で高校生等4,000人以上、大学生等1,000人以上)」、留学に関する情報の集約とステークホルダーの連携を強化する「留学プラットフォーム事業」、帰国後のトビタテ生が国内外の団体と協働し各方面で活躍する人材を育成する「価値イノベーション人材ネットワーク事業」を実施しています。(「トビタテ!留学JAPAN」ホームページより)
ニュージーランドの5大学との協定締結について
2024年10月にニュージーランドのオタゴ大学への留学を開始した木村さんは、認定大学留学制度を利用しての留学でした。2024年度末に、木村さんの留学先のオタゴ大学を含む、ニュージーランドの5大学と派遣留学に関する大学間協定を締結しました。
今回の協定では、ニュージーランドの 5 大学が持つ多様な専門分野から自分に合ったコースを選択できるようになりました。さらに本学の協定大学留学では初となる語学留学を経て学部留学へ移行できるブリッジ型プログラムを導入することにより、語学に不安のある学生も現地で語学力を強化した後、安心して学部留学へと進み専門分野を学ぶことが可能となり、留学の選択肢が広がっています。
