小学4・5年で低下する「自尊感情」に向き合う—心理学研究を生かした特別授業を附属豊明小学校で実施—
2026.05.27
日本の子ども・若者たちは自己肯定感が低い傾向にあることが指摘される中、人間社会学部心理学科塩﨑尚美教授が日本女子大学附属豊明小学校の児童を対象に実施した調査で、「児童の自尊感情が4年生から5年生にかけて大きく低下し、6年生でやや回復する傾向」が示されました。この調査は、日本女子大学が学園の教育理念に沿って掲げる3本柱の1つである「キャリア教育」の一環で行われたものです。
この結果を受けて、塩﨑教授は附属豊明小学校と連携し、小学5年生を対象に実施された「自尊感情を回復させるための特別授業」を実施しました。
「周りの目」を意識し始める時期
塩﨑教授は、この時期の変化について次のように話します。「小学4年生から5年生の時期は、子どもが他者からの評価を意識し始める発達段階にあたり、自尊感情の揺らぎが見られやすい時期と考えられます。一方で、このような時期にこそ、他者の評価に過度に左右されず、『自分にはかけがえのない価値がある』と実感できることが、その後の思春期以降の成長の土台として重要になります」
今回の授業は、その“入り口”に働きかけるものとして位置づけられました。
「自分のいいところ」を見つめる時間
授業は、小学5年生を対象に行われました。児童に配られたのは、「わたしのいいところ」と書かれたワークシートです。そこには、「やさしい」「明るい」「努力家」といった性格面だけでなく、「運動が好き」「音楽が好き」など、さまざまな言葉が並んでいます。児童たちは、自分に当てはまると思う言葉に丸をつけながら、「自分にはどんないいところがあるだろう」と考えていきました。中には、「ここにはないけれど、自分にはこんないいところがある」と、自分自身の言葉を書き加える姿も見られました。
最初は「何を書こう」と戸惑う様子もありましたが、少しずつ手が動き始め、教室には友達同士で言葉を交わしながら考える穏やかな空気が広がっていきました。塩﨑教授は児童たちに、「他の人に言われたことだけではなく、自分自身が“これが自分のいいところだ”と思えることを大切にしてほしい」と語りかけました。
呼吸を整え、「私は私でいい」と思える時間に
「ゆっくり息を吸って、吐いて。肩の力を抜いてみようね」
塩﨑教授の穏やかな声に合わせ、教室は少しずつ静けさに包まれていきます。ワークシート記入後、児童たちは目を閉じ、先ほど書いた“自分のいいところ”を思い浮かべながら、自分自身と向き合いました。塩﨑教授は、「自分のいいところを“心の中の箱”にしまっておいてほしい。元気がなくなったときや、自分に自信が持てなくなったときに、その箱を開けて思い出してほしい。“私は私でいい”と思えることが大切なんです」と児童たちに伝えました。また、肩に力を入れてから一気に抜くリラックス法も紹介され、児童たちは実際に身体を動かしながら、自分の心と身体の変化を感じ取っていました。
頭の中だけで考えるのではなく、呼吸や身体感覚と結びつけながら自分を見つめる時間は、児童たちにとって新鮮な体験になったようです。
児童たちの中に生まれた気づき
授業後、児童たちからはさまざまな感想が寄せられました。
「優しいところや明るいところなど、自分にもいいところがあるんだと思いました」
「自分はマイペースすぎると悩んでいたけれど、周りと比べずに自分らしくやってもいいんだと思いました」
「習い事や勉強で忙しく、自分のことを考える時間がなかったので、今日の時間が楽しかったです」
「瞑想体験をして、自分のいいところをたくさん見つけられてうれしかったです」
日常の中でどう生かしていくか
今回の授業は、一度きりの特別な体験で終わるものではありません。塩﨑教授は、「大切なのは、日常の中でこうした視点を持ち続けること。苦手なことや、うまくいかないことがあっても、“私は私でいい”と思える感覚を持っていてほしい。その感覚は、将来、自分の進路や生き方を考えるときにも、自分自身を支える力になっていきます」と話します。今後は継続的な調査を通して、今回の取り組みが児童たちにどのような変化をもたらしていくのかを検証していく予定です。
日本女子大学では、研究で得られた知見を教育現場へ還元し、その実践をさらに研究へつなげていく取り組みが続けられています。大学と附属校園が連携しながら、児童一人ひとりの成長を支える取り組みを続けています。
人間社会学部心理学科は、2028年度に人間科学部心理学科(仮称・構想中)に改組される予定です。
