科学の扉を開く夏!女子高校生へ『理学部サマースクール2024』を開講
2024.09.24
8月7日(水)、8日(木)、9日(金)の3日間にわたって「理学部サマースクール2024」を開催しました。21年に渡り、1,100名を超える女子高校生に科学の面白さを伝えてきた毎年好評のプログラムに、今年は77名が対面またはオンライン形式で参加しました。開催したプログラムは以下の通りです。
・ヒト培養細胞への遺伝子導入(和賀祥教授)
・1888年にタイムスリップ?!ヘルツの実験と宇宙からの電波(奥村幸子教授)
・鳥のことば:音声分析で探ってみよう(藤原宏子准教授)
・モノを数えよう 〜不思議な数と式の話〜(杉山倫講師)
・図形を足したり引いたりねじったり(藤田玄准教授)
・皮膚の働きと化粧品の化学(市川さおり講師)
ヒト培養細胞への遺伝子導入(和賀祥教授・化学生命科学科)
ピペットマン、ボルテックスミキサー、小型遠心機、チャンバースライド……など専門的な器具や装置がずらりと並んだ実験室で、高校生たちが担当の和賀先生のお話に真剣な表情で耳を傾けています。
「今回のプログラムでは、2日間かけてヒト培養細胞に蛍光たんぱく質の遺伝子を持つDNAを導入する実験を行います。成功すれば、2日目に蛍光顕微鏡で細胞が美しい青、緑、赤に光る様子が観察できるはずですよ(和賀先生)」
微量の液体を測り取る器具であるピペットマンの基本的な使い方を学んだ後、実際に4マイクロリットル(0.004ミリリットル)のDNA溶液を測り取り、マイクロチューブに加えたり、小型遠心機で遠心したりと精密な作業が続きます。
試薬を正しくチューブに入れられているか?一度使ったピペットマンの先端(チップ)は必ず交換し、使用したものは容器に捨てるなど、失敗しないための工夫や基本的な進め方について、丁寧なサポートを受けながら1人に1セットずつ用意された材料を使って実験を進めていきました。
「ブーン」と時折響く遠心機の音や、トランスフェクション試薬といった聞き馴染みのない試薬、初めての体験に緊張の面持ちながら、和賀先生の丁寧な説明と親しみやすいお話のおかげでリラックスし、集中して実験に取り組みました。
遠方や海外からの参加者も多く、「母が働く研究機関のイベントなどにも参加してきましたが、ピペットマンを使ってこんな本格的な遺伝子導入の実験をしたのは初めてでした。貴重な体験をさせてもらえて勉強になりました」「今、学校でちょうどマイクロリットルの単位について学んでいたので、実際に測ってみることができ、意外と目で見ることができる量なんだ!と新しい発見をすることができました」といった感想が寄せられました。本学では、実物を観るという自然科学を重視した創立当時からの理念が受け継がれ、1年次から実験実習に積極的に取り組んでいます。大学で行われている最先端の研究の一端を感じていただけたのではないでしょうか。
1888年にタイムスリップ?!ヘルツの実験と宇宙からの電波(奥村幸子教授・数物情報科学科)
このプログラムを担当する奥村幸子教授は、「電波天文学」の研究をしています。「電波天文学」は、宇宙にある星や銀河から出ている「電磁波」の一種である「電波」を使って宇宙について研究する学問です。
ハインリヒ・ルドルフ・ヘルツはドイツの物理学者で、「電磁波」の存在を初めて実験によって実証した人物です。このプログラムでは、ヘルツが1888年に実証した「電磁波」の検出器を実際に制作し、当時どのような実験が行われたのかを体験しながら、「電波」の起源から「電波天文学」の最先端研究に至るまでを対面で学びました。
実験ではグループに分かれて「直線型」、「ループ型」の受信機を5種類作成し、「電磁波」の検出実験を行いました。「電磁波」を発生させるため、影響を受けやすい携帯電話やスマートウォッチの電源を切るように指示があり、いよいよ「電磁波」が放出されます!自分たちで作った検出器の変化に高校生たちも興味津々でした。
形状によって検出の精度が変わることを実際に体験することができ、「今はこうして簡単に再現ができますが、ヘルツは何度もこのような実験を繰り返し、とても苦労して研究を進めたのですね」という奥村先生の説明に、参加した高校生たちも深くうなずいていました。
実験の後には、世界で最も性能が高い電波望遠鏡であるALMA望遠鏡についても学びました。この望遠鏡は、南米チリの標高5000メートルの高地に設置されています。先生が実際に研究のためにこの地を訪れた際、吸入用の酸素ボトルをいつも携帯していたという現地に行かないとわからないような経験談や、惑星がどのように形成されるか?に迫る最新の「電波天文学」の研究結果についても学びました。
高校生からは「内容は専門的で難しかったけれど、全く知らなかった分野に触れることができました。私は高校で化学を学んでいますが、物理にも興味が湧きました。もっと自分でも調べてみたいと思います」といった感想が寄せられました。
鳥のことば:音声分析で探ってみよう(藤原宏子准教授)
セキセイインコをはじめとした動物の「音声コミュニケーション」について研究をしている藤原先生のプログラムでは、音声分析を行えるオープンソースのソフトウェアである「praat(プラート)」を使い、参加者一人ひとりが鳥の鳴き声の分析に取り組みました。
先生から共有された音声データをpraatに取り込むと、縦軸を信号の強度、横軸を周波数としたグラフ「周波数スペクトログラム」として解析されます。授業では、解析したデータから鳥の音声信号にどのような情報が載っているかを調べたり、インコと自分の「おはよう」の音声データを比較してみたりと、鳥のことばを生命科学の視点で調べてみました。
参加した生徒たちは音声解析の体験と先生の講義から「生物多様性」や「保全活動」についても学ぶことができたようです。
今回参加した生徒のなかには犬や鳥などを自宅で飼っており、「ペットの鳴き声の意味を理解したい!」という思いで参加した人も多かったようです。
授業後、生徒たちからは「普段は意識していなかった鳥の鳴き声にいろいろな情報が含まれていると知れて楽しかった」「音声解析の仕方を教わったので、今後他の動物でも応用して調べてみたい」など、感想を話していました。
モノを数えよう~不思議な数と式の話~(杉山倫 講師)
杉山先生の授業では、算数や数学の基礎ともいえる「モノを数える」をテーマに、グラフ(点と辺でできた図形)を数えて多項式を作るワークを行いました。
実際に提示されたグラフから多項式を作り、その式の性質を見ることで、生徒たちは「数える」ことの不思議な性質や数学研究の楽しさに触れられたようです。
講義のあとに杉山先生からは、「高度な数学になっても『数える』は基本的な問題意識です。みなさんの素朴な疑問の近くにも大きな研究に繋がる数学が隠れているかもしれません。『将来、数学を実社会で使う』というイメージはないかもしれませんが、特徴を探したり何かを探求したりするときには必ず数学を学んだことが役に立ちます」と、数学研究の魅力について話がありました。
「もともと、このサマースクールは、本学の附属高校生が自然科学や理学部に親しみを感じてもらえるように、2003年にはじめたものです。『親しみを感じてもらうだけではなく、また、附属高校生に限らず理科に興味をもつ女子高生が自然科学を深く学ぶ場にもしよう』との思いから、2005年に外部の高校にも開放しました。
19年たった本年、外部の生徒の割合は7割に達しました。猛暑の影響か、やや欠席は目立ったものの、77名もの女子高生の皆さんが出席され、怪我や事故もなく無事に終了できたこと、そして、終了後のアンケートに答えてくれた全員が「とてもよかった」「よかった」と満足してくれたことは、本年度の実行責任者として大変うれしく思います。本年のサマースクールの運営を手伝ってくれた学生の中に、かつてサマースクールに参加した学生がいました。サマースクールを通じた縁がこうしてつながっていくのは、とても素晴らしいことではないでしょうか。(理学部化学生命科学科 林久史先生)」
今後も日本女子大学の理学部では、私立女子大学で唯一の理学部を持つ大学として、女子高校生に理系分野の学びの楽しさを伝えていきます。