【新学部長インタビュー】生活を取り巻く事象を広い視野で学び 普遍的な「知」を身につける

2023.04.03

生活を取り巻く事象を広い視野で学び 普遍的な「知」を身につける

家政学部 家政経済学科 伊ヶ崎大理教授

モデル化することで、経済活動の本質を浮かび上がらせる

私の専門である「マクロ経済学」は、経済をマクロな視点でとらえ、国全体の経済活動について考えます。消費者(家計)・生産者(企業)・政府などがどのように影響を及ぼしあっているか、経済全体の動きを特徴づける変数がどのように決定し、どのように変化していくのかについて分析します。

経済の豊かさを表す指標の一つにGDP(国内総生産)があります。1950年代半ばから70年代初めの高度成長期にかけて、我が国のGDPは年率9%を超えるペースで成長していました。いわゆるバブル経済が崩壊した1990年代以降では経済成長率は1%未満です。もちろん高度成長期のような率で成長し続けることは現実的ではありませんが、経済成長率は大幅に低下したわけです。近年では諸外国と比較して日本の賃金が低くなったといった話を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、低成長がこのような事態を招いている大きな要因です。

経済成長が長期にわたって続くために重要なのは、技術の進歩をはじめとしたイノベーション(innovation)です。新しい技術や製品を生み出したり、経営手法や仕事のプロセスを改善したりするなどさまざまな形でイノベーションを生み出すことが、生産性を改善し経済成長を促進します。イノベーションが生じるような制度や環境を整えていくことも大切です。日本の近年の低成長も生産性の停滞が理由の一つだと思います。イノベーションには若い人の発想が大事です。みなさんにはぜひ、社会を改善するようなイノベーションを起こしてほしいですね。

もちろん、経済成長さえすれば、自然環境をひたすら悪化させてもよい、あるいは、余暇もなく働く人をでたらめにこき使ってもよいというわけではありません。国全体のウェルフェア(welfare、厚生)を考慮しながら、望ましい経済成長のあり方を考える必要があります。

難しいのは、世の中には多くのトレードオフ(一方を尊重するともう一方が犠牲になるという関係)があるということです。イノベーションを起こすためにはコストがかかります。経済活動が活性化し所得が上昇することが、環境問題を深刻化させるかもしれません。さまざまなトレードオフを含めてモデル化していくと、現実経済の動きの背後にある本質的なメカニズムをとらえることができます。社会全体でどのようにバランスをとればよいのかを分析する手掛かりとなるわけです。近年ではさまざまなデータ分析も進み、経済学でできる範囲が飛躍的に広がってきました。きっとみなさんがイメージしていることよりも多くのことができると思います。ぜひ自分の興味があるテーマについて経済学を使って分析してみてください。予想とは異なる結果が出て、びっくりするかもしれませんよ。

「身近な疑問を深い思考へ」5学科の個性が輝く学部

家政学部は、1901(明治34)年の本学創立時に設置された歴史ある学部です。子どもに関わるさまざまな課題の解決方法を探る「児童学科」、食生活・栄養・ライフスタイルを考える「食物学科」と、快適な住生活・住空間をデザインする力を養う「住居学科」、時代に即した被服のあり方にアプローチする「被服学科」、そして生活を取り巻く問題を社会・経済の視点で探究する「家政経済学科」の5つの学科から構成されています。衣食住、子ども、経済という、私たちの生活の中にある物事がすべて本学部での学びにつながっているのです。

かつて家政学部で行ったオープンキャンパスで、「身近な疑問を深い思考へ」というキャッチコピーがありました。当時の学生が考えてくれたのですが、学部の特徴をたいへんよく表していると思います。本学部で学問に取り組むことで、身のまわりに存在する疑問に向き合い、社会をより豊かにしていくための方策をじっくり考える力が身につきます。

非常に幅広い領域について学べることも、本学部の魅力です。家政学の総合性・独自性を理解する目的で設置された学部共通科目では、家政学全般について学ぶことができます。各学科の専門科目についても、より広い視野で学修できるカリキュラムを用意しています。例えば家政経済学科では、一般的な経済学部で履修する経済学のほかに、女子大学ならではの科目を置いています。女性労働論や生活経済論など、女性の人生をサポートする科目も揃っているので、卒業後に社会で活躍するための力を養えるはずです。

個性ある5つの学科からなる家政学部は、専門性や興味が異なる多様な学生が集まっています。ここで4年間を過ごすことで、かけがえのない経験ができると思います。私は学部長として、各分野の学生それぞれが輝けるように力を尽くしていきたいですね。

幅広い領域を学び 挑戦を重ねて得られる教養が、生きる力に

家政学部での4年間の学びを通して、学生のみなさんは専門性を深めることができます。その一方で、自らの専門領域以外のことも幅広く学び、いろいろなことを経験して、普遍的な教養を獲得することも重要です。じつはこれこそが、社会人にとって大切な力です。大きな木のように、知識の根を深く張りめぐらせ、幹を太くしていくことで、さまざまな事象に対応できる応用力や、タフな精神力が備わります。それは、どんな業界で働くことになっても役に立つ汎用性を持ちます。

本学部を目指すみなさんにお伝えしたいのは、とにかくいろいろなことに取り組んで、挑戦してほしいということです。たとえ失敗してしまっても恥ずかしいことではありませんし、若いうちの失敗はダメージも少なく、学びや発見につながります。一見無駄に思えることが、人生を豊かにするものです。損得は考えず、思い切って好きなこと、やりたいことにチャレンジする、そんな精神を大切にしてください。私たち教員も、みなさんが将来自分の足で立ち、生き抜ける人になれるようにサポートしていきます。

先に述べたように、家政学部がカバーする領域は本当に幅広いので、日常生活に関わることであれば、どんな分野に興味をもっている方にも学びを提供できます。そんな特徴を持つ本学部で、ぜひ一緒に学びましょう。

プロフィール
伊ヶ崎 大理教授 いかざき だいすけ

家政学部長。九州大学経済学部3年次から九州大学大学院経済学研究科へ進み、博士課程修了。 博士(経済学)。九州大学大学院経済学研究院助手、熊本学園大学経済学部専任講師・助教授・准教授、日本女子大学家政学部家政経済学科専任講師・准教授を経て、2018年から教授。主な著書に『地球環境と内生的経済成長』(九州大学出版会、2004年)『スタートダッシュ 経済学』(共著; 勁草書房、2019年)などがある

研究キーワード

イノベーション、持続的成長、環境

 

主な論文

“R&D, Human Capital, and Environmental Externality in an Endogenous Growth Model”
“Population, Technological Conversion, and Optimal Environmental Policy”
“A Human Capital Based Growth Model with Environment and Corruption”