【新学部長インタビュー】一人ひとり違う人間が織りなす社会に目を向け、思考を深める

2023.04.03

一人ひとり違う人間が織りなす社会に目を向け、思考を深める

人間社会学部現代社会学科 遠藤知巳教授

社会を多面的に捉え、制度やルールの外にある「意味」を考える

私の研究分野は社会学です。現代社会をつくった巨大な地平である近代を、ヨーロッパの歴史をたどりながら研究し、社会全体のありようを考察しています。近代は、「社会」という考え方が確立した時代。ある時点から「これが社会というまとまりである」という意味づけがされた結果、どこにも存在していなかった「社会」が形づくられてきたのです。

経済学や政治学などを含めた社会科学では、制度を中心に社会を捉えるのが一般的です。経済学であれば商取引や市場にかかわる制度、政治学であれば選挙制度など、各分野に存在するルールを詳しく見ることで社会を知ろうという発想です。

社会学はむしろ、それらの制度の「あいだ」や「隙間」や「外」にある「意味」を考えます。現代における企業も制度によって規定されていますが、社員と取引先、消費者など、さまざまなアクターが複雑に関わって成り立っています。そもそも何を企業と考えるのか、企業のあり方は何に影響を受けて変化してきたかなど、ルール以外のところではたらいている要素に着目して社会を見ていくのが社会学の考え方です。

たとえば近年、「テロ対策」や「家庭ゴミの持ち込み防止」などを理由に駅や街頭からゴミ箱がどんどん撤去されています。理由付けがバラバラなのも含め、不思議なことです。今のところ人々は、おそらく買い控えたりゴミを持ち帰ったりして対処しているようですが、ゴミ箱を撤去してもゴミ自体が消えるわけではありません。いずれその歪みが顕在化するかもしれません。そのときに、特定の誰かに負担がかからないようにするための方策を考えるのが、望ましい社会のあり方です。

このように、社会の事象を狭い部分に限定せず、他との連関のなかで考えるのが社会学。政治学や経済学などの社会科学のちょっと外から、それらをつなぐものにも目を向けます。そうすることで、社会的課題に対して「視点を変えたらこんなつながりが見えてきた」「こんな新しい組み合わせはどうか」という提言も可能です。そこが社会学のおもしろさだと思っています。

4つの特色ある学科で、人間と社会のあり方を学ぶ

本学部は1990年、日本で初めての「人間社会学部」として、旧西生田キャンパスに設置されました。2021年には、教育の充実を図るため目白キャンパスに移転し、新たなスタートを切りました。現代社会の課題をさまざまな視点で考える「現代社会学科」、広い視野から福祉を学ぶ「社会福祉学科」、人間形成についての知識と洞察力を養う「教育学科」、こころの働きをじっくり学んで実践力を身につける「心理学科」で構成されています。

特徴は、4学科それぞれがはっきりした特色を持ちながら、他学科とも盛んに交流して学びを深めていけること。他学科の科目も積極的に受講し、異なる発想を幅広く学ぼうという文化があると感じています。

また、教員と学生の関係が比較的フラットで、コミュニケーションを取りやすい環境にあるのも人間社会学部ならでは。西生田にキャンパスがあった頃から、私たち教員は丁寧にきめ細かく学生を指導することを意識してきましたし、学生も能動的に質問や相談をしに来てくれる。その点は目白にキャンパスが移っても変わりません。

人間社会学部では、卒業論文・卒業研究のいずれかを必修としています。4年間の学びの集大成として、卒論・卒研に取り組むことは、学生のみなさんの成長につながります。

だからこそ、卒論・卒研指導にはとくに熱心に取り組みます。学生の主体性を重んじながら、研究・調査の対象や手法などを細かにアドバイス。方向性をクリアに、立体的にすることで、学生に「やれるだけやった」という思いを持ってもらうことを意識しています。時間が経っても覚えているような卒論・卒研を提出できれば、自身にとって大きな財産になります。

就職先もさまざまです。教員や社会福祉士、公認心理師・臨床心理士など、各学科の専門性を生かした職業はもちろん、マスコミなどメディア系から、公務員、金融系、システムエンジニアなどIT系まで、多様な分野で卒業生が活躍しています。

「自分とは異なる他者がどう考えるか」を探究する4年間

「ものを考える」って、本当におもしろいことです。目の前に何か気になる問題があれば、調べていくとさまざまな事象とのつながりが見えてくる。いろいろな人がいて、この社会ができていることがわかって、さらに調べたいことが生まれてきます。それを繰り返すうちに、もしかしたらちょっと社会を良くできるかもしれません。

若いうちはとかく、家族や友人など、自分の身近な人々との関係にだけ目が行ってしまいがちです。しかし、一旦その枠の外に出てみると、見える世界がぐっと広がります。そうしてさまざまな人への興味・感心を持つことが、学びの最初のステップ。好奇心を持ち、他の人を巻き込みながら学びを深められる方々に、この学部の門を叩いてほしいと思います。

人間社会学部で学べるのは、「社会は自分と他人でできている」ということ。4年間を通して、「自分とは違う他人がどう考えているか」を理解しようとする姿勢が身につきます。そのうえで、自分の知見を生かして調整したり、提案できる人になってほしいですね。卒業後も、そうした感覚はきっと役に立つはずです。

プロフィール
遠藤 知巳教授 えんどう ともみ

人間社会学部長。東京大学文学部社会学科卒、東京大学大学院博士課程(社会学)単位取得退学。2000年4月より本学に着任。主な著書に『情念・感情・顔:「コミュニケーション」のメタヒストリー』 (以文社、2016年)『フラット・カルチャー:現代日本の社会学(編著)』 (せりか書房、2010年)などがある。

研究キーワード

近代社会論、言説分析、メディア論、社会理論

 

主な論文

「言語の何が問題なのか?」
「観相学と近代社会:ラファーターからバルザックへ」
「境界としての「思想」 : 歴史社会学的試論」