【新学部長インタビュー】境界を越えて文化を読み解き、グローバル社会を生き抜く力を養う

2023.04.03

境界を越えて文化を読み解き、グローバル社会を生き抜く力を養う

国際文化学部国際文化学科 河本真理教授

ふとした日常から驚異の世界が広がる コラージュの魅力

私の専門領域は西洋近現代美術史で、とりわけ「コラージュ」を中心に研究しています。コラージュは「のりで貼りつける」という意味のフランス語の動詞coller(コレ)から派生したもので、異質な要素を引用して組み合わせる技法です。その歴史は古く、日本の平安時代の『西本願寺本三十六人家集』が、最古のコラージュの一つとして知られていますが、西洋では20世紀初頭にパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックらが積極的に取り入れました。今日では美術のみならず、文学、服飾、音楽、演劇、建築などにも用いられています。最も身近な例は、みなさんが毎日スマートフォンでやっているカット&ペースト。写真を切り抜いて合成するフォトモンタージュや、音楽のカットアップやリミックスなども、コラージュの一種と言えます。生活のすみずみに行き渡った多様な分野を探究し、そこにひそむ未知のものをあぶり出すことができるのが、コラージュのおもしろい点です。

ところで、20世紀の美術は戦争とも大きな関わりがありました。たとえば「カモフラージュ」は、第一次世界大戦下のフランスで、キュビスムなどの芸術家が関わってシステム化された軍事技術です。大戦末期には、パリの街を守るために郊外に「偽のパリ」をつくり、そこに敵を誘導するカモフラージュ構想もありました。こうして美術と戦争が結びついた複雑な歴史もありますが、それを学ぶことで、現代に起きている事象に対して批判的・客観的な目を向けられるようになります。

第一次世界大戦では、戦争の只中にある兵士たちが、塹壕の中で「トレンチ・アート」と呼ばれる数々の作品を生み出しました。極限の状況で人間が始めるのは、創作活動なのです。「美術は趣味」だとか、「なくてもいい」と思っている方もいるかもしれませんが、じつは全く逆。太古から根本的な人間活動と関わってきた美術は、私たちにとってなくてはならないものなのです。

キャンパスを飛び出して、「越境力」を磨く

2023年に新設された国際文化学部では、世界の多様な言語や文化を学び、発信することができます。英語のほかに、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語のいずれかを選択して学修。それらの言語圏の文化や思想を学ぶとともに、芸術文化からポップカルチャーに至るまで多彩な表象文化の理解を深めます。さらに、得た学びを社会へ向けて発信することで、「越境力」を培っていきます。

「越境力」とは、物心両面の境界を越えてそこにある現実に触れ、既成概念を打ち破っていく力です。越境の最もわかりやすい例は、国境を越えること。私も留学経験がありますが、海外では日本で当たり前だと思っていたことが通用せず、自分が「井の中の蛙」であることを思い知らされます。その他にも、ジェンダー格差や、心の中で無意識に設定してしまっている限界など、さまざまな境界を越える経験を重ねることで、困難に直面したときにどう対処し、乗り越えていくかを考える力が身につきます。

本学部の特長は、「脱教室・脱キャンパス型」のプログラムです。教室やキャンパスに留まらず、積極的に学外に飛び出して学べる環境を整えています。1年次の夏には、海外短期研修「スタディ・アブロード・プログラム」に全員が参加。入学からあまり時間をおかずに体験する海外での2週間を、4年間の学びの導入にすることを目指しています。

2年次の後期からは、海外・国内での「実践プログラム」がスタートします。事前学修を綿密に行ったうえで、「実践プログラム(海外a)」では国際文化学部独自のプログラムで半期留学、「実践プログラム(海外b)」では協定大学・認定大学に1年間留学。「実践プログラム(国内)」では、国際芸術祭や展覧会、文化遺産などの見学実習、身体を用いたパフォーマンスについてのワークショップなどに参加します。そして、体験的に理解した現地の文化について考えたことをひとつの成果物としてまとめ、複数の言語で発信していきます。

文化を知らずして、社会を知ることはできない

世界には、異なる国や共同体の間での争いや揉めごとがたくさんあります。その背景にある互いの文化を知り、他者を尊重しながら、粘り強く解決策を見出していく必要があります。文化は社会の根本であり、社会を構築していくもの。文化を知らずして、社会を知ることはできないのです。

国際文化学部では「スタディ・アブロード・プログラム」「実践プログラム」の2つの大きなプログラムを核に、海外でも日本でも、国際文化を学べる環境をみなさんに提供します。それらの越境体験は必ずみなさんの糧になりますし、自分を「国際社会に生きる日本人」と捉えられるようになります。

重要なのは、体験をきちんとアウトプットしていくこと。自分になだれこんできた新しい体験を噛み砕いて発表・発信することで、学んだことや浮かんだ疑問などを整理できます。すると、「もっと知りたい」「もっと調べたい」という思いが湧き、新たな学びのサイクルが始まっていくのです。

本学部は、さまざまな領域を横断するとてもチャレンジングな学部です。学生のみなさんを飽きさせることはありません。興味の幅が広く、好奇心旺盛な方にぜひ入っていただきたいですね。4年間の学びを通して、自分の中の「当たり前」を超えていく力を培えば、この不確かな時代をたくましく生き抜いていけるはずです。

プロフィール
河本 真理教授 こうもと まり

国際文化学部長。東京大学文学部卒、同大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。パリ第1大学博士号(美術史学)取得。京都造形芸術大学比較藝術学研究センター准教授、広島大学大学院総合科学研究科准教授を経て、2014年から本学人間社会学部文化学科教授(2023年から国際文化学部国際文化学科教授)。主な著書に『切断の時代-20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007年、サントリー学芸賞、渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン ジャパン特別賞受賞)、『葛藤する形態-第一次世界大戦と美術』(人文書院、2011年)、『現代の起点 第一次世界大戦 第3巻 精神の変容』(岩波書店、2014年、共著)、『ポストモダンを超えて-21世紀の芸術と社会を考える』(平凡社、2016年、共著)、『ピカソのセラミック-モダンに触れる Picasso Ceramics: The Modern Touch』(展覧会カタログ、ヨックモックミュージアム、2022年、編著)など多数。

研究キーワード

西洋近現代美術史、コラージュ、総合芸術作品、第一次世界大戦、第二次世界大戦、カモフラージュ、キュビスム、抽象芸術、ダダ、シュルレアリスム、服飾デザイン、ジェンダー

 

主な論文

Repentirs de Klee. La fonction autocritique du collage dans les œuvres découpées et re-composées
ピカソ/剽窃/コラージュ-〈造形的インターテクスチュアリティ〉の論理
美術史学/フェミニズム/ポストコロニアリズムのインターフェース