理学部卒業生の羽ばたいた世界
2025.07.25

6月15日(日)、オープンキャンパスを目白キャンパスで開催しました。今回も各学部・学科が趣向を凝らした多彩なプログラムで来場者を迎えましたが、なかでも毎年注目を集めるのが卒業生によるトーク企画です。今回は理学部、文学部、食科学部の3学部が、それぞれの学部から社会に羽ばたき活躍する卒業生を招いたトーク企画を実施しました。
本学は、私立女子大学で唯一理学部を有しており、女性が理系分野で自分らしく学び、成長できる環境を提供しています。理学部の卒業生によるトーク企画では、在学中の学びや研究、進路選択のきっかけ、現在の仕事の内容とやりがいなどを高校生たちに向けて等身大の言葉で語っていただきました。
見えない技術で美しさを届けるプリンター開発の現場から
吉川世玲菜さん(キヤノン株式会社、数物科学科※1 2017年卒)
※1 現:数物情報科学科
吉川さんは現在、キヤノン株式会社で映画のポスターなど大判印刷で使用する業務用や、写真展などで用いられるプロ向けのインクジェットプリンターの設計・開発を担当されています。とくに黒の再現性の追求や、画像の乱れを自動で補正し画質をより向上させる制御技術の開発に取り組まれています。
「大学で学んだ物理や数学の知識は、今の仕事の土台になっています。高校で学習した二次関数や微積分はもちろん、フーリエ変換など授業で習ったことが今の仕事でもそのまま生かされています」
大学時代に身に付けた高度なプログラミング知識やOfficeスキルは、社内ツールの自動化や報告資料の作成において不可欠であり、現在も特許の執筆や実験データの処理、プレゼンテーションなどさまざまな場面で活用していると語りました。
「理学部の卒業研究では、“正解のない問い”に向き合う時間がありました。今も製品開発の現場では、常に答えのない課題に取り組んでいます。大学で鍛えた考える力と探求心が、仕事の原動力になっています」

社会インフラを支える情報技術のプロフェッショナルへ
髙橋美羽さん(株式会社JR東日本情報システム、数物科学科※1 2017年卒、数理・物性構造科学専攻2019年修了)
鉄道をはじめとした交通インフラに欠かせない情報システムの開発を手掛ける髙橋さん。現在は、SuicaなどICカードに関する基本情報を管理するシステムのメンテナンスや改修、新たな付加サービスの開発などを担当されています。
「大学時代に身に付けた論理的思考力と問題解決力は、今のSE(システムエンジニア)としての仕事に直結しています。物事を体系的に整理し、筋道を立てて考える力や、問題を把握して原因を探り、的確な対策を導く力は日々の業務に欠かせません。」
卒業研究では、自ら課題を設定し、研究設計やデータ分析、独自の考察を通して、一連の問題解決のプロセスを経験。この経験が、現在の仕事における思考の基礎になっていると語ります。
「理学部は、自分で課題を見つけ、それに取り組む力を育ててくれる場所でした。技術職でも事務職でも、社会に出てから役立つ、物事を前に進めるための“考える力”を養うことができました」
最後に、残りの高校生活を思い切り楽しんで、素敵なキャンパスライフを過ごしてくださいとメッセージを送りました。

品質を守る仕事で食の安全を支える
別所朋香さん(株式会社 Mizkan、物質生物科学科※2 2020年卒、物質・生物機能科学専攻2023年修了)
※2 現:化学生命科学科
酢やぽん酢、納豆などで知られる食品メーカーの株式会社Mizkan(ミツカン)に勤務する別所さんは、製造現場の品質管理・技術支援を担うポジションで活躍されています。現在は、常温流通の食品(家庭用のレトルト食品、業務用のたれやつゆ等の調味料)の工場で、新製品の製造工程の検討や品質保証業務に携わり、製造トラブル時には品質面の原因調査や再発防止の施策を検討します。
「理学部での学びは、課題を多角的に捉え、論理的に説明する姿勢を育ててくれました。とくに、少人数の授業で先生との距離が近く、活発な意見交換ができたことが、自分の視野を広げる大きなきっかけになりました。品質トラブルの対応でも、感覚に頼らず、さまざまな角度から状況を分析し、データと論理に基づいて判断する力が求められます。こうした力は、大学での学びの中で身についたと感じています」
在学中に所属していた分析化学の研究室には実験設備が整っており、1人ひとりが主体的に実験を進められる環境があったことが、社会に出てからの仕事への自主的な姿勢に大きく影響したと話します。
「日本女子大学の理学部化学生命科学科は、入学時点で科学か生物学かという分野を絞らずに幅広く学ぶことができ、自分の進みたい方向を、時間をかけて見つけられることが一番の魅力だと思います」

紙の可能性を広げる研究者として、新しい時代を切り開く
永堀綾香さん(日本製紙株式会社、物質生物科学科※2 2021年卒、物質・生物機能科学専攻2023年修了)
永堀さんが所属するのは、日本製紙株式会社の研究開発部門です。牛乳パックなどの紙パッケージの研究開発や、樹脂との複合材料の設計を担当され、とくに環境負荷を低減しながらも使いやすさを損なわない、バランスの取れた製品開発を目指しています。
「紙パックは、当たり前のように使われていますが、技術的には複雑でもあり、耐水性や加工性、強度や再生可能性など、多くの性能を両立させなければなりません。試作には大きな金額が動き、責任も重大ですがその分とてもやりがいを感じています」
在学中は、物質生物科学科(現:化学生命科学科)に所属し、幅広い自然科学に触れる中で素材研究に興味を持ち、生物、物理、化学の基礎と応用の両面から研究を深めた経験が、今の仕事に直結しているそうです。
「学生時代は、時間に余裕がある分、学修や研究以外の活動も積極的に取り組めました。旅行や課外活動などを通じて、自分の視野を広げる経験ができたことも、社会に出てからの糧になっています」
講演では、「大学での学びが仕事に生きる瞬間はたくさんあります。とくに、答えが1つではない課題に向き合い、自分で考え抜く経験は貴重」と語っていただきました。

4名の卒業生が語ったそれぞれの経験から、日本女子大学理学部が「自ら考え、行動する力」を育む場であることが改めて感じられました。講演を聴く高校生たちの姿からは、理系の進路や大学生活について何かヒントを得ようとするまなざしがありました。