【教員インタビュー】服飾の世界からマリー・アントワネットの人生へ
2020.03.25
【教員インタビュー】家政学部 被服学科 内村 理奈准教授
宮廷文化から広がる視野
わたしの研究者としての出発点は、大学院修士課程で課題とした17世紀、ルイ14世のころのフランス宮廷における礼儀作法書に書かれた服装規範の研究です。礼儀作法書では服飾のTPOだけでなく、宮廷での立ち居振る舞いや話し方についても言及しています。
当時のヴェルサイユの宮廷と服飾について調べるうちに研究の幅が広がり、フランス階級社会の中での階級間の差異、芸術(宮廷バレエ)と服飾の関係、「清潔感」を服飾でどう表現するか、などを研究の対象としてきました。
服飾の世界からマリー・アントワネットの人生へ
2019年10月に『マリー・アントワネットの衣装部屋』(平凡社刊)を出版しました。
マリー・アントワネットについて、いつかは取り組もうと思っていました。なぜならフランスの宮廷における服飾文化を研究する中で避けて通ることはできないからです。ただ、マリー・アントワネットはすでにいろいろな観点で論じられており、自身の研究対象とすることにためらいもありました。
しかし、服飾からマリー・アントワネットを論じる視点は今までなかったことに気づきました。さらには今まで自分が積み重ねていた調査や論文を繋げていけば、アントワネットとその時代を語ることになるのではないかと考え、『マリー・アントワネットの衣装部屋』に取り組むことにしました。
本書ではマリー・アントワネットがフランス王家に嫁ぐところから処刑されるまでの人生を、彼女の膨大な服飾のリストや絵画、書簡集や回想録や当時の新聞などで辿り、レースやリボンやポケットなどの小さなものにも視点をあてて、その時代を考察しました。そして死後、再び「ファッション界の女王」としてもてはやされ、モードをけん引する永遠のアイコンとなったマリー・アントワネットの魅力を検証しました。幸いなことにこの本は広く反響をいただき、複数の新聞や雑誌でも紹介されました。
執筆に際しては、今までの研究活動ですでに集めていた資料や論文が上手く活用でき、とても楽しい仕事でした。でも、これがゴールではありません。もっとマリー・アントワネットに寄り添えたと思いますし、さらに深く追究していきたいと思う分野が見つかりました。18世紀の宮廷における服飾文化、マリー・アントワネットの周辺は今後も取り組んでいきたい課題です。
西洋服飾史を学びたい方へ
わたしのゼミでは西洋の服飾史だけでなく、アート全般への関心を持つ学生が多く集まります。海外の文化に関心があることはもちろん、西洋の文献を扱いますから本を読むことが好きな人、そして語学に抵抗がない方が望ましいです。さらには今の常識から少し外れた「不思議なもの」に対してなぜ「不思議」なのか、それを探究する気持ちが大切です。
昔の西洋の服飾は、今考えるとおかしなものがたくさんあります。例えば18世紀では、大量にものを入れるポケットですとか、メッセージを込めた靴下留め、頭に軍艦を乗せたヘアスタイル・・・ そのような摩訶不思議なものがなぜ生まれたのか、その裏側にある当時の人びとのものの考え方や美意識などを探究したくなる好奇心が大切です。学生の皆さんには、ぜひ柔軟に物ごとを考えられるようになってほしいと思っています。
インタビュー・構成・文 学生記者 勝山友紀子(文学部史学科)
プロフィール
内村理奈准教授 うちむら りな
お茶の水女子大学家政学部被服学科卒業、リュミエール・リヨン第2大学DEA課程留学、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学、博士(人文科学)。2015年4月から本学に着任。
研究キーワード
西洋服飾文化史
主な論文
『モードの身体史—近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化—』悠書館、2013年
『ヨーロッパ服飾物語』北樹出版、2016年
『フランス・モード史への招待』悠書館、2016年(分担執筆)
『ヨーロッパ服飾物語Ⅱ』北樹出版、2019年
『マリー・アントワネットの衣裳部屋』平凡社、2019年