【教員インタビュー】何億光年という距離と時間感覚の中で知る宇宙のドラマ

2019.12.01

何億光年という距離と時間感覚の中で知る宇宙のドラマ

【教員インタビュー】理学部 数物科学科 奥村 幸子教授

宇宙は随分と騒がしい

私の研究分野は電波天文学です。天文学と聞けば、いわゆる天体望遠鏡をイメージされるかもしれませんが、一般的なそれだと目に見える光(可視光)を発している物体しか捉えることができません。宇宙を含む自然界には赤外線や紫外線、X線といった目には見えない光が多数あり、そのひとつである電波を使って天体を調べる分野が電波天文学となります。

電波は文字通り、波のように伝播します。その高さや幅はもちろん、波同士を干渉させることによって遥か彼方の銀河がどんな形をしていて、どのように動いているのか、星がどうやって生まれているのか、そういう事象を観測し、銀河同士がぶつかったり、離れたりする現象を視覚化しています。宇宙には様々なドラマがあり、皆さんが思っているより随分と騒がしいところなんですよ。それを何億光年という距離と時間感覚の中で認識できることにおもしろさを感じています。

国際プロジェクトへの参加を経て

星には小さい頃から興味があり、小学5年生の時に買ってもらった天体望遠鏡が今の道に進むきっかけといえば、きっかけです。とはいえ、中学と高校はスポーツばかりでしたが、大学受験の時は宇宙にこだわって地学優先で志望校を考えていました。中学・高校の過程で素晴らしい先生方との出会いがあり、自分の頭で考え、手を動かし、目で確かめる——そんな研究の面白さの一端を教えていただいたことは大きかったですね。

そういう意味で電波天文学は手で触れることも目で見ることもできない分野ですが、だからこそ、そこに新しい可能性を感じました。その象徴が宇宙の謎を解明するために設置されたアルマ望遠鏡(光学レンズではなく一種のパラボラアンテナ)です。これは南米チリの標高5000mの高地に建設された66基の巨大電波望遠鏡群で、世界中の技術と知識を結集して生まれた地球規模のプロジェクトです。そこに研究者のひとりとして関われたことは、今も私の誇りになっています。

本学に着任したのは、2012年のこと。アルマ望遠鏡の仕事がひと段落し、開発に携わったその心臓部分(=相関器)の本格運用に目途がついたため、次のステージへの移行を考えるようになりました。具体的には次世代の人材を育成したいという思いが強くなり、縁あって教員として採用して頂いたのです。

得意不得意よりも好きかどうか

現在研究しているテーマのひとつが、銀河と銀河の相互作用に関するものです。既述の「宇宙は随分と騒がしい」という言葉通り、あちこちで起こる重力による星やガスの分布の変化、そこから星が成形されるプロセスなどを分析しています。

もちろん、研究者として天文学の道へ進もうという学生がいればとても嬉しいことですが、それ以前に大学は、中でも理学部は論理的な思考力を養う場だと思っています。問題を前にした時に、単に正解だけを出すのではなく「こうしたからこの結果が導かれた」、「この結果が出たということはこういう理屈になっていなくてはならない」というように、その道筋や検証も含めて立体的に考えられるようになってほしいですね。

大学を受験し、どの学部に進むか、それは将来を決定づけるような選択に思えるかもしれません。それゆえ、試験で好成績が望める得意な分野を軸にして考えがちですが、それだけだと研究内容が専門的になればなるほど、行きづまる可能性があります。大切にしてもらいたいのは、今の成績による得意不得意よりも好きかどうか、興味を持てるかどうかです。それがベースになっていれば壁に当たってもがんばれますし、長続きするんですね。結果的にそれがより深い部分へ到達できる力になりますから、成績よりまずは興味を優先してみてください。大学は、その資質を磨く格好の場所になるはずです。

プロフィール
奥村 幸子教授 おくむら さちこ

東京大学理学部天文学科卒。国立天文台・野辺山宇宙電波観測所での研究員や東京大学宇宙地球科学教室の助手を経て、アルマ望遠鏡・相関器開発チームのリーダーに就任。その完成と運用に努めた。2012年から本学に着任。

研究キーワード
電波天文学、デジタル信号処理、活動銀河中心核

主な論文
Enhancement of CO(3-2)/CO(1-0) ratios and star formation efficiencies in supergiant HII regions
Star Formation on Sub-kpc Scale Triggered by Non-linear Processes in Nearby Spiral Galaxies
Giant Molecular Cloud Evolutions in the Nearby Spiral Galaxy M33

学術研究データベース