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2025/12/10
- 校長より
「間奏の美」(2025/12/10)
2学期の後半、中学2年生は「平家物語」を学びました。有名な「那須与一」と「敦盛の最期」の二つのお話です。
「那須与一」は、屋島の戦いの後に海上に逃れた平家から「舟端に立てた竿の先端に取り付けた扇を射落としてみよ」との挑戦を受け、大抜擢された那須与一が見事に射貫く、という物語です。北風が吹き荒れ、波に揺られて上下する舟に取り付けられた小さな扇。どんなに近づいても扇までの距離が80メートルほどあり、成功するのは至難の業と思える状況の中、与一は自分の命を懸けて挑みます。あたりを包む緊迫感と勝負を見守る人々の高揚感が入り交じる場面であり、固唾を飲んで与一を見つめる人々の心が伝わってきます。与一が期待通りに命中させ辺りが歓喜に満ちる様子を、以下のように描写しています。
与一、かぶらを取ってつがひ、よつぴいてひやうど放つ。……弓は強し、浦響くほど長鳴りして、あやまたず扇の要ぎは一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射切つたる。かぶらは海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける。
しばしは虚空にひらめきけるが、春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける。夕日のかかやいたるに、みな紅の扇の日い出だしたるが、白波の上に漂ひ、浮きぬ沈みぬ揺られければ、沖には平家、ふなばたをたたいて感じたり、陸には源氏、えびらをたたいてどよめきけり。
「ひやう」「ひいふつ」などの音の描写、飛んでいく鏑矢や射ち落された扇の動きなどが、目の前に浮かぶようです。白波が立つ青い海に落ちた真っ赤な扇は金の日輪が染め抜かれていて、美しい夕日に照らされてキラキラと輝いている。「北風」と描写されていた強風は「春風」と表現が変わり、歓喜の心で溢れた一瞬です。映像もテロップもない時代、琵琶法師の声だけを頼りに物語の世界に入り込み、想像を膨らませて喜んだり涙したりした当時の人々の豊かな感性に驚くとともに、それを可能にする表現の巧みさにも感動します。
この場面は、源平両軍が栄華を夢見て繰り広げる合戦のさなかに、心を一つにして喜び合った美しい時間です。生徒たちには、タイトルをつけて「那須与一」の物語のまとめを書いてもらいました。本校では普段から、自由に題名をつけてまとめを書く課題が多いのですが、その中で「間奏の美」という素敵な題名をつけた生徒がいて、そのセンスに私は大いに感動しました。心荒むような戦が続く中、束の間の美しい音楽のようなひと時を的確に表す絶妙な表現でした。
校長 野中 友規子
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『源氏物語絵巻』(中央公論社)より -

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