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2025/01/17

  • 教員リレーエッセイ

【1月】「信じる」ということ

  • 2025年元旦 伊勢神宮・内宮 宇治橋前の鳥居に差し込む初日の出  開運効果があるのだそうです
  • 12月 音楽会《メサイア》より

 新しい年を迎え、皆さんはどんなことを心に決意していますか?この一年への抱負を胸に初詣に出掛けた人も多いことでしょう。おみくじを引いたりお気に入りのお守りを選ぶのも楽しいひと時ですね。初日の出を眺めたり家族や友達と初夢の話をして盛り上がったり…と、特別な時間を過ごすことで、不思議とやる気や希望に満ち足りた気分になったり、自らの心を奮い立たせるきっかけとなる大きな節目の新年。時の流れにある様々な節目とは、気持ちを改める良いきっかけをくれるものだなと思うと共に、焦りも感じてしまうものですが、その都度立ち止まり自己を見つめることで成長のきっかけとなる、そんな有意義な時間として捉えていきたいものです。

 さて、季節柄に初詣のことを書きましたが、皆さんは心の中で何か一つでも確かな「信じるもの」を持っていますか?「信じる」と言うと信仰・宗教と連想することもあるかと思いますが、心の支えになるもの、と広く捉えて頂いた上で、この頃感じた「信じること」について私の教科と関連させて書きたいと思います。
 信仰の自由の国に生きる私たちにとって信仰に対する捉え方はきっと様々。日頃から信仰が日常に根付いている人もいれば、世に一般的に初詣へ行く風潮があるから行こうかなという人もいることでしょうし、厄除けせねばと思い立つと出掛ける人もいる訳です。程度は様々であれ、何処となく心の拠り所であり決意を示したくなる先に「神」があると言うのは面白いことだなと思うのは私だけではないのではないでしょうか。
クラシック音楽が盛んに発展してきたヨーロッパでは、キリスト教の影響を強く受けるが故に宗教曲との関わりも根強いものです。本校が毎年12月の音楽会で大切に受け継いできているヘンデル作曲《メサイア》もそのひとつ。神であるイエス・キリストの誕生を祝い、尊び、感謝するもので、メサイアとは「救世主」と訳されます。日頃、言語を用いて意思の疎通を交わす者にとって、歌詞から内容を感じ取ることは比較的容易ではありますが、私たちが学ぶヴァイオリン、いわば器楽曲は、言葉(歌詞)を持たずとして表現をすべく奥深さがあると共に、言葉を用いずに伝える責任があるものだと、いつも私は考えています。では、宗教曲における器楽曲では、歌詞の力を借りずにどのように神を讃えているのでしょうか。楽曲分析をすると大変興味深いものですが、ここでは簡潔にご紹介しましょう。キリスト教では三位一体であるキリストを尊ぶ折に、「3」という数字に完全で満ちた意味を込めることがあります。神を描くために3拍子で作曲されたり、調号でシャープやフラットが3つ付く調性が選ばれたりするのも特徴のひとつでしょう。また第3曲目が大切に扱われることもあります。全5章から成り立つミサ通常文での第3章「Credo クレド」は、「信じる」という神への信仰宣言であり、最も長く重きを置かれていることも偶然ではないのだと思うと「信じる」ことの重みを感じずにはいられません。また「キリスト」という歌詞を歌う音域がその曲の中での最高音で構成されつつ華やかな器楽伴奏が付くこともありますし、記譜上における音符の配置で十字架を描き神を表す…など、音で描く方法も眠っているのです。
 耳で聴くだけでは計り知れないような緻密な表現が様々に読み取れる器楽曲。そこに込められた作曲家の想いを音にする責任はとても大きくも喜ばしいことであり、「信じる」ことの豊かさを伝えてくれるように感じます。きっとそれは、遠く離れた作曲家が国や時を越えても尚、作品を音として発信する私たち奏者を「信じ」、表現を託して下さっているからなのでしょう。こんなにも深く緻密に作られた傑作であるからこそ、広く永く受け継がれていくのがクラシック音楽なのだと思うと、私たちの音楽会もまた一年また一年と、重みを感じながら大切に引き継いで行きたい気持ちになります。

 信仰豊かなことで愛が深まることもあるでしょうし、これは宗教に限らずとも「この考えに感銘を受けた」「私はこれだけ努力したからきっと大丈夫」「他者を信じたことで育まれた強い絆がある」など…、信じることは幅広く受け入れられるものであり、また、その人を強くし、輝かせてくれるものだと私は思います。私事ではありますが、今年度担任している大好きなクラスの生徒たちの成長を「信じて」、共に過ごす時間がとてもとても幸せです。今や既に3学期に入り今年度のまとめの時期。今の仲間と今の学年で過ごす時間は残り僅かとなっていきますが、皆さんも何か心に信じながら豊かな時間を過ごして下さい。進級・進学とは、新年の次にまた皆が共に新たに迎えることのできる素敵な「節目」です。ぜひこの節目をチャンスとし、しっかりと、伸び伸びと羽ばたいて欲しいと願っています。

音楽科 矢沢