コンテンツ

2023/10/24

  • 校長より

「十二人の頑張る少女」(2023/10/24)

 西生田の森は、深く碧い空と秋の清々しい空気に包まれています。これから年末にかけては紅葉も深まり、少しずつ彩りを変えていく美しい時間が流れていきます。
 この時期、中学2年生では話し合いが活発に行われ、来年度の生徒会メンバーを決めていく選挙に向けて、準備を重ねます。話し合いを行うにあたっては、「十二人の怒れる男」(原題「 12 Angry Men」)という映画を観て討論することの意味を考えていくのが、本校の伝統です。シドニー・ルメット監督、ヘンリーフォンダ主演のこの映画は1959年に公開された作品であり、このような古い白黒の映画を毎年のように鑑賞する学校は、本校以外にはないのではないでしょうか。

 ニューヨークの、裁判所内の1室で展開される話し合いを描いたこの作品。登場する12人の男たちは、父親を殺した罪で起訴された18歳の少年が、有罪であるか否かを判断するために集められた陪審員です。彼らは全て番号で呼ばれ、冒頭2~3分の裁判の様子と途中に挟まれる洗面所の場面以外は、蒸し暑い部屋の中で議論するだけの地味な映画なのですが、これが本当に面白くて引き込まれてしまうのです。
 話し合いの中で、多数派に流されていつの間にか自分の意見を放棄してしまうことは、よくあること。つい感情的になってしまったり、思い込みで判断したり、保身のために忖度したり。この映画を観ると、話し合いって実はとても難しいのではないかと思ってしまいます。それでも、先に進むためには諦めないで向き合い続けるしかありません。主人公の陪審員8番の男(ヘンリー・フォンダ)が度々口にする言葉「話し合いたい」「話し合おう」はまさに「最後まで自分自身で考え、互いに意見を交わし合うなかで視野を広げ、問題解決に近つく」ことの大切さを教えてくれます。と同時に、「話し合うこと」は意見を言い合うだけではなく「人の意見にしっかりと耳を傾けること」そのものであると思い知らされるのです。

 この映画を鑑賞した後、選挙管理委員を兼ねた全校委員の生徒たち12名は、学年全体で有意義な話し合いを行うべく奮闘します。まだまだ温度差がある同級生をどのようにして本気にさせるか。試行錯誤しながら話し合いを重ねるうちに、彼女たちは「討論する」ことの難しさと楽しさに目覚めていくのです。一生徒である視点を忘れずに、時に諦めそうになるクラスメイトを引っ張り上げながら話し合いの舵取りをし、皆で意識を高め合っていく。この12名の生徒たちの中から、次期を担うリーダーが生まれることも稀ではありません。
 十二名の頑張る少女たちよ、どうぞしっかりと皆を導く役割に励んでください。心から応援しています。

校長 野中 友規子
  • 十二人の怒れる男
    十二人の怒れる男
  • 屋上を歩き、見上げた秋晴れ
    屋上を歩き、見上げた秋晴れ