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2022/04/21

  • 教員リレーエッセイ

【4月】「生命は」

『贈るうた』(吉野弘)より

 卒業生の訪れは思いがけない喜びをもたらしてくれます。
 少し前のことですが、ある卒業生と話していたことが心に残っています。確か私との面接の時間に「全ての人を平等に好きになれない自分が嫌になる」というようなことを彼女が話していたのだと思います。悩んでいたら「私だって顔も見たくないほど嫌いな人もいるのよ」と私に言われて、びっくり仰天。見ていた世界ががらりと変わった、と言うのでした。
 全くなんという失言!思いがけないことです。あの時の私は彼女の善良さにすっかり感心していたのでした。何はともあれ、今だったら言わないであろう若い頃の未熟な言葉に、優しい彼女が少しでも救われて生きるのが楽になれたのなら、私にとって、それはとてもありがたいことなのです。
 吉野弘の「生命は」という詩があります。この詩の「ゆるやかに世界が構成されている」という言葉に、生きることへの作者の慈愛の眼差しが込められています。夏の花から着想を得た詩ですが、私は春という出会いと変化の季節にこそふさわしいと思います。
 若い頃の変化はまぶしいものです。そして年を取ることへの変化も、また悪いものではありません。生命の息吹を感じるこの季節。世界が皆さん一人ひとりを温かく包みこんでくれますように。
                                                                                                                                                                                          

国語科 谷川