トピックス
2024/09/30
- 校長より
大樅の樹の下で思うこと~軽井沢セミナー~
「これから山上の集いを始めます。黙思*。」—— 「三泉寮」を出て暫く歩き到着した大樅の樹が立つ丘に、軽井沢セミナー委員である生徒の声が響き渡ります。9月上旬、2年生と一緒に軽井沢セミナーに参加しました。
*黙思とは、本校で式典や会合、日々の終礼の際に、静かに目を閉じて心を落ち着かせ、自己を見つめ思考するひと時のことです。
1906年、創立者成瀬仁蔵は長野県軽井沢に、「健康の泉・知識の泉・心霊の泉」の三泉を汲む所として「三泉寮」と名付けた夏季寮を開きました。三泉寮の奥、緑豊かな丘には、樹齢千年を超える大樅の樹があり、1916年にはこの樹下で、アジア初のノーベル文学賞受賞者であるインドの詩聖ラビンドラナート・タゴールが瞑想について語り、翌年には創立者成瀬仁蔵による「軽井沢山上の生活」と題する十回講義が行われました。背筋を伸ばして話を聞き入る袴姿の学生達の写真が現在も残っています。彼女達の夢や価値観は、今を生きる我々と異なる部分もあるでしょうが、真面目に物事を捉えようとする姿勢は、後輩である生徒達と変わらぬように思われます。
2年生全員が4クラスずつ前半・後半に分かれて参加する「軽井沢セミナー」は、2泊3日の「宿泊討議セミナー」です。グループ討議やクラス会、全体会など、様々な形態での話し合いを通して、生徒達は自らを見つめて将来へと思いを馳せていきます。いつの時代も、多感な高校生の日常生活は、上手くいくことばかりではありません。時に交友関係のもつれに悩み、時に自分の夢の実現がほど遠く感じられ、不安が襲い、途方に暮れる日々もあることでしょう。何が正しいのか、大切にしなければいけないことは何か —— そう簡単には答えの出ない問いに向き合い、考え抜いていかなければなりません。
高校生活の折り返し地点で、110年以上にわたり脈々と受け継がれてきた三泉寮に身を置き、大樅の樹の下で普段より長い黙思をして、一人ひとりが自分と向き合い、考えを言葉にしていきます。今年も討議の場に同席し、仲間の発言を真摯に聴き取り、また自分の意見を怖じずに発信しながら成長していく生徒の姿を見て、胸が熱くなりました。
私は、軽井沢セミナーで願いを込めて述べていることがあります。「皆さんに幸せになってほしい」「あなたが幸せになれますように」—— これは個人の幸福のみを追求しても叶うものではなく、家族、友人、共同体、社会が幸せになることができるよう働きかけることで自分自身の幸福をかみしめることができる —— 生徒達にはしっかり学び、沢山書物を読んで、自ら考えて厭わずに行動し、真の実力をつけて、平和な世界を築く一翼を担ってほしいと期待しています。今年も大樅の樹の下で「ほがらかに明くる 高原の朝」で始まる『山響』の歌を歌いながら、生徒達の未来に幸多かれと祈りました。
長く続いた猛暑もようやく落ち着き、生田の森に爽やかな風が吹き抜ける季節となりました。9月、全国大会や関東大会に出場したクラブ、10月のもみじ祭に向けて活動に励む研究グループ、前期末試験の勉強のため校務センター(教員室)や各教科の研究室に足繁く通う生徒等、校内は活気に溢れています。さあ、実りの秋はこれからが本番です!