恩師に教わった“数学の楽しさ”を伝える教材を開発

2023.05.19

【受賞インタビュー】2023年度 数学教育学会春季年会にて、馬場奨励賞の学生優秀発表論文賞を受賞、舘野真歩さん(理学部数物情報科学科卒)

恩師に教わった“数学の楽しさ”を伝える教材を開発

【受賞インタビュー】2023年度 数学教育学会春季年会にて、馬場奨励賞の学生優秀発表論文賞を受賞、舘野真歩さん(理学部数物情報科学科卒)

2023年3月に本学を卒業され、教育者の道に進まれた理学部数物情報科学科の舘野真歩(たての まほ)さんは、2023年度の数学教育学会春季年会にて、「数学の有用性を伝えるための教材開発 数学が広げる統計ソフトの活用範囲」の論文を発表し、馬場奨励賞の学生優秀発表論文賞を受賞しました。卒業式も終わった3月末、舘野さんに今回の受賞について、そしてこれからについて伺いました。

真の意味でのICT教育を数学の授業で

論文を執筆するきっかけは、教育実習です。実習先では、数学嫌いの生徒さんがとても多く、一方でICT教育が進み、パソコンなどのデジタル機器を使うことは、みんな好きな様子でした。そこで、デジタル機器を使って、数学に取り組める教材を作りたいと考えました。
論文にまとめた教材は、高校3年生で数Ⅲを履修している方を対象にしています。内容を簡単に説明すると、水を満たしたペットボトルの側面に穴を開け、放出した水の描く曲線の方程式について考えるというものです。水の描く放物線をグラフに落とし込み、生徒はエクセル内のオプションの近似値を活用して、2次関数、対数関数、分数関数のどれであるかを考えていきます。ただエクセルを使うのではなく、途中で数学の知識を活用しないと解が導き出せないようになっています。
私が重視したのは、ICTの活用がより推奨されていくなかで、数学を学ぶ有用性を改めて実感してもらうことでした。

恩師と出会い、教材開発を志した

じつは私も中学1年生の頃に勉強でつまずき、数学が大嫌いでした。そんな時、恩師から「あなたは数学が解けるはず」と言われ、その言葉を信じて取り組むうちに、数学の楽しさを知りました。
中学校は女子校だったのですが、周りにも数学嫌いの子が多く、私と同じように数学の楽しさを知ってほしいと、よく問題を自作して友人に渡していました。友人が「解けた!」と喜んでくれた体験が私の原点にあり、教材作りと教師になることを志すようになりました。

緊張の学会当日、嬉しかった愛木先生のガッツポーズ

数学教育学会での発表は、所属していた研究室の愛木先生に声をかけていただき、実現しました。卒業論文とテーマは同じなのですが、卒業論文が20枚なのに対し、馬場奨励賞は4枚にまとめなければならず、大変でした。
学会での発表は初めての経験で、とても緊張したのを今でも覚えています。発表後の質疑応答の際、審査の先生から手厳しいご意見をいただき、すごく落ち込みました。そんな状況だったので、受賞発表でまさか自分の名前が呼ばれるとは思わず、頭が真っ白になりました。愛木先生もガッツポーズをして喜んでくれて、本当に嬉しかったです。
最後まで面倒を見ていただいた愛木先生や、模擬授業に協力してくれたゼミの友人に感謝の気持ちでいっぱいでした。

舘野さんの受賞に小さくガッツポーズをする愛木先生(写真左)

日本女子大学で学び得た「協調性」を持ち、教育の現場へ

私が日本女子大学で、とくに学び得たことは「協調性」です。中学や高校では、文化祭などの行事は協力し合いますが、普段は協調性を発揮する場はほぼなかったように記憶しています。
大学では、2年次からコロナ禍になってしまったことも影響していると思いますが、オンライン授業だと、分からない問題があっても先生に聞くことが難しく、頼りになるのは友人でした。成績は関係なしに、みんなで課題を解いていこうという一致団結がすごく感じられました。
4年生になってからは1人でテーマを研究しつつ、教育実習も並行して行っていたので、苦労をしましたが、愛木先生が丁寧にご指導してくださいました。
4月からは通信制の私立高校で、数学の教師として勤めます。まずは、仕事を覚えることが最優先ではありますが、将来は中学時代の恩師や愛木先生のように、生徒たちの「できないこと」や「打ち明けられないこと」をくみ取れる先生になりたいです。
とくに数学は、できないことを隠したり、そのまま放置しがちな教科なので、「できないことは恥ずかしいことではないんだよ」と、寄り添えるような先生を目指しています。

後輩への2つのメッセージ

現在、日本女子大学で学んでいる後輩や、これから日本女子大学で学ぼうと考えている方は、2つのことを大事にすると良いのかなと考えています。
1つ目は「遠回りは大事」だということ。とくに4年次の卒業研究時に感じたことです。最近は、よく「効率的に」と言われます。効率的にやることもたしかに大事ですが、学生時代は1つのものごとに対して、とことんこだわり、遠回りするのもありなのではないでしょうか。
私の卒論研究がそうで、最初はまったく違うテーマを考えていて、そのための実験もいろいろと行いましたが、どうしてもうまくいきませんでした。
どうしたものかと考える時間は充実していましたし、その時間があったからこそ発見できたこともありました。これ以上は考えられないと思えるぐらい、自分の納得がいくまで考え続ける経験は、学生の頃にしかできない贅沢な時間の使い方です。
もう1つは「何でも経験すること」です。私も元々はあまり積極的な人間ではなかったのですが、何か提案されたり、機会が与えられたら、物怖じせずに絶対に挑戦すべきです。
最終的にどんな結果になっても、自分の価値観や自身を知る機会になります。日本女子大学の先生は、本当に親身になってくれる方ばかりなので、先生を信じていろいろ経験していってほしいです。

価値のある研究だと思い、声をかけました

現在の教育現場、とくに数学の授業ではコンピュータを使う授業のあり方が期待されていますが、数学を使った良い授業・教材が十分に提案されているわけではありません。今回舘野さんが考えたのは、
コンピュータも使うし数学も使うということで、面白い授業のテーマだったので、世の中にお披露目する価値があると思い、数学教育学会での発表に誘いました。
学部4年生で賞をもらえるのは珍しく、受賞発表を聞いたときはとても嬉しかったです。
舘野さんはまじめでコツコツ積み上げていくタイプの学生でした。今回の教材開発もかなり大変で、夏休み明けの9、10月ぐらいまで全然先が見えない状況だったのですが、諦めず実験を繰り返して論文にまとめてくれました。
教師になってからも、舘野さんのことだから丁寧に準備して臨むと思いますが、それでもうまくいかないこともたくさんあると思います。何かあれば気軽に相談に来てほしいです。(理学部数物情報科学科 愛木豊彦教授)

馬場奨励賞とは

数学教育学会が若い研究者を育てる学会になってほしいと故馬場伊美子先生からのご寄付によって2014年に創設された。
数学教育学会誌に掲載された優秀な論文に対する「数学教育学会誌優秀賞」と大学院生等発表会予稿集において掲載・発表された優秀な論文に対する「学生優秀発表論文賞」の2つの賞をおいている。


馬場奨励賞

参考リンク