茨城県神栖市「かみす防災アリーナ」の避難所機能を住民に周知する10のアイデア

2024.02.09

住居学科3年次授業「建築と社会」で学生が提案

学生たちのアイデアの発表会が行われました

茨城県神栖(かみす)市に2019年にオープンした「かみす防災アリーナ(以下、防災アリーナ)」は、日本で最大級の避難所となるスポーツ施設です。平常時はアリーナ、プール、音楽ホールなどで多くの市民に活用されていますが、同時に最新の防災設備を整え、一時避難で10,000人、中長期避難で2,000人が利用することが想定されており、本学家政学部住居学科の平田京子(ひらたきょうこ)教授が避難所運営面でアドバイスを行っています。
災害時に立ち上がる避難所では、住民同士が助け合って生活再建をめざす住民主体の運営ができるかが大切であり、平田教授の授業「建築と社会」(住居学科3年次対象)では、2016年から防災アリーナにおける避難所の運営方法や住民同士の助け合いの仕組みづくりなど、学生たちがグループワークを通して提案しています。2023年度は12月18日(月)に学生たちが実際に現場で使用されることをめざして企画したアイデアの発表会が行われました。

アンケート結果を紐解き
防災アリーナの課題を解決する企画提案

今年度は、防災アリーナの利用者を対象に実施されたアンケート結果をもとに現状課題を見いだし、解決するための常設企画やイベントを提案することで、災害後、一人でも多くの市民が自発的に行動を起こせるようにすることが授業課題でした。学生たちは10グループに分かれ、市民が平常時と非常時に動き出せるための工夫が設計時に織り込まれていること、市民の手で動かせる特別な家具が用意されていることを、設計者の清水建設重松さんからヒアリングし、施設運営面での課題を理解しながら、約1カ月をかけて討論を繰り返し、企画を準備してきました。途中、住居学科の学生らしく、授業中にPCやタブレットを活用し、図面やロゴ等の制作に没頭する姿が印象的でした。
12月18日の発表当日は、神栖市大野原の地域コミュニティ協議会の樋口会長、アリーナの設計者である重松さんや運営・研究に関わる清水建設の野竹さん、防災アリーナの大河内館長にも出席いただき、神栖市防災安全課の安井さん、清水建設技研の関係者らにもオンラインでそれぞれの発表を聞いていただきました。
学生たちはアンケート結果から避難所機能や可動式家具の周知が十分でないことなどを課題に挙げ、「シーン別のポスター制作」や「クイズラリー」「可動式家具の活用アイデアコンテスト」「『安全のしおり』の制作」など、グループごとに個性豊かな企画の数々を発表しました。建物があれば備えは終わるのではなく、利用者・市民がアクティブに活動することで、初めて避難所が活き活きとしてきます。その礎となる企画を市民・自治体・施設と共に考える貴重な経験となりました。
最後の講評では「すぐに取り入れたいアイデアが多かった」「ぜひ1つでも2つでも実現し、その結果をまた皆さんにフィードバックして、考えを深めていただく機会が作れれば」等のコメントを安井さんや大河内さんらからいただきました。

各グループ持ち時間4分で発表を行いました
各グループ持ち時間4分で発表を行いました
神栖市民である樋口さんや、防災アリーナの大河内館長らにそれぞれの立場から、学生たちの企画に対してコメントをいただきました
神栖市民である樋口さんや、防災アリーナの大河内館長らにそれぞれの立場から、学生たちの企画に対してコメントをいただきました
学生が制作した発表資料の一部(ポスターデザイン)
学生が制作した発表資料の一部(ポスターデザイン)

平田京子教授のコメント

かみす防災アリーナは公共施設としてはめずらしい防災目的型であり、私も避難所運営と平常時の施設の関係でかかわってきました。そのコンセプトは「もしも」のときも「いつも」のところへ、という言葉で表されています。このような特別な思いのこもった設計段階から並行して、授業にて避難所運営時に市民が共助を実現する手立てを学生と共に模索してきました。デザイナーの思い、多彩な配慮、自治体と施設の関係構築などを事前のしかけとすれば、平常時から市民にそれを理解してもらう事後の仕掛け・働きかけが大切です。そして施設に親しみ、日ごろから練習しておくことで、災害後に市民が主体的に動き出すことにつながります。設計者・ユーザー・自治体等それぞれの思いを理解し、効果的につなげることで、学生にとっては生活や行為を包み込む生きた空間を学ぶことになると思っています。