伝統的なクリスマス料理の調理学実習

2023.12.21

食物学科では、毎年、伝統的なクリスマス料理を調理学実習科目で扱っています

本学の食物学科では、毎年、伝統的なクリスマス料理を調理学実習科目で扱っています。創立当時からの伝統を受け継いで本格的な調理を行う本実習は、本学食物学科の特徴の1つでもあります。今回は本年度の実習の様子と、実習を担当されている食物学科飯田文子(いいだふみこ)教授の寄稿(※1)から、本学における調理学実習の伝統をご紹介します。

2023年クリスマス
調理学実習

12月4日(月)、6日(水)に、食物学科食物学専攻にてクリスマス料理の調理学実習を行いました。4日の実習は「調理学実習II」という1年生の必修授業であり、季節に合った日本・西洋・中国料理を学ぶ中でクリスマス料理を扱っています。西洋料理の高度な技術を使用し、正餐の料理の献立作成および配膳ができるようになることを目指しています。
一方、6日の実習は、食物学科管理栄養士専攻の学生も履修可能な選択科目「調理学応用実習II」であり、イタリア・スペイン・ドイツといった西洋調理を学ぶ一環で、イギリスの伝統的なクリスマス料理を扱っています。明治時代から続いている本学の伝統料理や各国料理を学ぶことで、日常の調理では行われていない高度な技術やマナーを習得し、卒業後は食品産業の発展を担う人材を育成しています。調理したメニューはそれぞれ以下の通りです。

〈12月4日(月)食物学専攻によるメニュー〉※太字が伝統料理

12月4日(月)食物学専攻による伝統的なクリスマス料理のメニュー
    Fruits juice cocktail(フルーツジュースカクテル)

    Canapé de éventail(扇形カナッペ)

    Consommé au stelline (コンソメ星形パスタ入り)

    Rouget pôelé sauce beurre blanc(アマダイのバターソース)

    Roast chicken (ローストチキン)

    Brusseles spróuts sautes Navets glacées(芽キャベツのソテー、カブのグラッセ添え)

    Waldorf salad(ウオルドルフサラダ)

    Pineapple fromage(パイナップルフロマージュ)

    Bûche de Noël(ブッシュドノエル)

〈12月6日(水)応用調理学実習によるメニュー〉

12月6日(水)応用調理学実習による伝統的なクリスマス料理のメニュー
     Terrine de saumon(サーモンのテリーヌ)

     Langouste à la parisienne(イセエビのパリジェンヌ風)

    Roast beef with Yorkshire puddingローストビーフのヨークシャープディング添え

    Head lettuce salad (玉レタスのサラダ)

     Plum cake(プラムケーキ)

高度な技術を得た
調理学実習

 クリスマス料理の調理実習を終えた学生に、感想を伺ったので一部ご紹介します。
 
(食物学専攻1年生)ローストチキンの調理が1番難しく感じました。1羽丸ごとの鶏を扱うのは、今回が初めての経験。下処理から始まって、最後は40分ほどじっくり焼き上げる一連の調理工程は、1つひとつが勉強でした。完成したものを試食したところ、チキンが1番美味しく作れていたので、嬉しかったです!
(食物学専攻3年生)日本女子大学に入学したのは、充実した調理学実習があったから。他大学と違って3年生後期まで実習があり、また今回のイセエビのように自宅では扱えない食材を使用した本格的な調理ができることが魅力です。テリーヌもミキサーにかけた後に冷やして、混ぜて、蒸し焼きにするという複雑な調理工程がありましたが、こうした技術を学べるのも面白く感じています。
伝統的なクリスマス料理の調理実習の様子

本学が独自に継承する
クリスマスの献立とは

ここまで本年度の華やかなクリスマスの調理学実習をご紹介しましたが、これは1901年の本学創立時からの伝統を受け継いでいます。創立当初の学生のノートによると、ほぼ全ての学年でクリスマス料理を扱っており、原語で学んでいた様子が窺われます。具体的なメニューとしては、牡蠣のスープやひらめの魚料理、チキンや豚肉の肉料理、カリフラワーの付け合せなど。デザートにはプラムプディングやミンスパイがあり、保存がきくクリスマスらしい材料が使われています。
これらの献立の中には本学が独自に継承するレシピが2つあります。1つ目は扇型カナッペ(写真1)です。本学の2期生であり名誉教授も務めた大岡蔦枝先生の著書に登場しており、大正九年以降のレシピと考えられますが、国内では本学以外での継承が確認されていない貴重な料理です。2つ目は、ローストチキンや伊勢海老のパリジェンヌ風などに付けられる、ソックル(主材料を美しく見せるための台)、アトレー串(写真2)等にみられる華やかな飾りです。これはナポレオン3世の料理番であったアントナン・カレームが活躍した時代のフランス料理の流れを継いでいます。現在日本のフランス料理は、より新しいエスコフィエの料理が基盤となっており、古い時代の料理の原型をとどめている本学のレシピは、他では現存しない大変貴重なものとされています。

左から 扇型カナッペ/ ローストチキンの上、ニンジンとレモンによる串「アトレー串」
左から (写真1)扇型カナッペ/(写真2)ローストチキンの上、ニンジンとレモンによる串を「アトレー串」と呼ぶ

鹿鳴館の伝統を受け継ぐ
本学の調理学実習

本学ではクリスマス料理以外にも、本格的な西洋料理を創立当初から扱ってきました。2期生のノートによると、当時、他の女子教育機関では扱っていなかった西洋料理について、華族会館(鹿鳴館の後進)の料理長である渡辺鎌吉先生が教鞭をとっていました。以来、本学の調理実習には、鹿鳴館からの伝統が受け継がれています。
また調理だけではなく、各国の食文化や礼儀作法の学修も本学では重視してきました。創立者である成瀬仁蔵が、国際的な場で通用する人材の育成を目指したことを背景に、今日のカリキュラムにも継承されています。これらの学びの成果は、公人および皇室関係者が本学を来訪したときに発揮されたという歴史もあります。運動会での宮様の接待、皇后陛下・東宮妃殿下の行啓などでは、学生自らがお迎えし、手作りの料理でおもてなしをしました。
これらの伝統を継承して現在の調理学実習では、懐石料理や正餐の献立作成・調理・配膳まで学ぶカリキュラムとなっています。本学では料理の歴史的発展を踏まえて高度な調理学実習を行うことで、「食」の未来を切り拓くプロフェッショナルを育成しています。

2期生のノート
写真左から 1936年卒業学生、1929年卒業学生の料理ノート
伝統的なクリスマス料理の調理実習。調理後の試食の様子
調理後にそれぞれ取り分けて試食。調理の振り返りや料理の味について、班ごとに楽しく話していたのが印象的。

※家政学部食物学科食物学専攻・管理栄養士専攻は、2025年4月より食科学部食科学科・栄養学科(仮称)を設置構想中です。

(参考文献)
※1飯田文子「国際人教育の原点──伝統の調理実習」(『成瀬記念館2017 No.32』日本女子大学成瀬記念館編集・発刊、2017年7月)