ヨーロッパ服飾文化研修でめぐるファッションの国

2023.11.09

家政学部被服学科2年 遠藤真尋さんによるレポート

19世紀の散歩服

今年9月の4日間にわたり、オンライン・ヨーロッパ服飾文化研修が行われました。この研修はコロナ禍以降、現地派遣型の研修の代わりに、日本とパリをオンラインでつないで実施してきたもので、今年で3回目になりました。家政学部被服学科の内村理奈教授が監修した内容で、パリを中心とするフランス各地の服飾文化に関する施設や美術館、博物館などをビデオツアーでめぐるものです。内村教授とフランス在住のツアースタッフの方の解説を交えながら、ファッションの国フランスの歴史、ファッション産業の現在を知ることができました。

身体とモードのかかわり

1日目の最初に訪れたのは、パリにあるガリエラ・モード美術館です。私たちは身体やスポーツとモードに焦点を当てた特別展を見ることができました。女性の運動着には、女性社会進出の流れが反映されています。まだ慎ましい女性像が求められていた19世紀では、馬に乗る際に足が見えないよう丈が長く設計された乗馬服や、コルセットのついた水着などを着用していました。また、鉄道の発展により旅行服というジャンルが登場するなど、当時の時代背景に関連したファッションについても学ぶことができました。

19世紀の散歩服
19世紀の散歩服

ルーブル宮内にある装飾芸術美術館では、毛髪と体毛についての特別展が開催されていました。18世紀に流行した髪型を再現する様子が動画で紹介されていたのですが、現代では信じられないような髪のセット方法は圧巻でした。

18世紀に流行した髪型を再現

豪華な衣装の世界

2日目に訪れたフランス中部の街ムーランにある国立舞台衣装装置センターでは、フランスに亡命したロシア人バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの特別展が開催されていました。バレエ衣装といえば、大きく広がったチュチュをイメージすることが多いと思いますが、チュチュが使われるようになったのは1830年代以降だそうです。チュチュを作る布や、跳躍を主としたダンスが登場したのがこの時代であり、17、18世紀までは足を出した衣装はあまりありませんでした。

バレエ衣装

また、16世紀から18世紀にかけて、修道女が作成した刺繍やレース、聖職者の衣服が所蔵されているmusée de la visitationにも訪れました。名もなき修道女が制作した美しい作品を見ることができます。注目すべき点は、刺繍に金糸や銀糸が使われていることです。当時は奢侈(しゃし)禁止令によってこれらの使用は制限されていたため、この作品は特権階級である聖職者が使用するものであると考察できることに面白さを感じました。

金糸や銀糸が使われた刺繍

繊細なレースの技術

3日目は、ノルマンディー地方にあるレースの町、アランソンを訪れました。ドレスの装飾や扇子、ハンカチなど、フランスの宮廷衣装になくてはならないレースですが、もとはイタリアで技術が発展していました。フランスでは、ルイ14世の政策により王立の工房が立てられ、国内産業が発展していきました。現在、アランソンのレースはユネスコの世界無形遺産に登録されています。
アランソンでは、ニードルポイントレースという種類のレースが作られています。繊細で絵画的な模様を表現できることが特徴で、羊皮紙にデザイン画を描き、その上に糸を縫い付けていきます。レースを製作する技法はとても高度なもので、1cm四方のレースを作るのに7時間もかかるそうです。アランソン・レース博物館では、非常に多くのレース作品を鑑賞するとともに、レースを製作する様子の動画を視聴しました。
また、カンヌの隣町ル・カネの刺繡工房では、ボビンレースというレースが編まれていく過程も動画で見ることができました。

ニードルポイントレース
ニードルポイントレース
ボビンレース
ボビンレース

民俗衣裳と染織の芸術

最終日は、ストラスブールとミュールーズを訪れました。ストラスブールにあるアルザス美術館では、アルザス地方の暮らしや民俗衣裳などが展示されています。民俗衣裳を通じて、フランスの伝統や慣習について学ぶことができました。特に、18世紀以前はウェディングドレスとして民俗衣裳を着ていたことが興味深かったです。

ミュールーズの染織美術館では、染織の歴史に触れました。フランスの染織技術は、インドから伝わったインド更紗の影響を受けています。木版やローラーの染色機を用いて布が染められます。インド更紗はフランスだけでなく、日本など多くの地域に影響をもたらしました。

大きな染色機で布が染められていく様子
大きな染色機で布が染められていく様子
研修を終えて

今回の研修では、レースの製作や髪型のセット方法など、文章では理解しにくい過程を映像でじっくり見ることができるという、オンラインツアーだからこその良さを感じられたと思います。ファッションを通じてフランスの文化や歴史についても理解を深めることができました。研修後、私はミュールーズで見た染織技術に興味を持ち、インド更紗とその影響を受けた織物が展示されている博物館にも足を運んでみました。研修を通じ、より服飾文化への興味が深まりました。(被服学科2年 遠藤真尋さん)