保育現場における「野草」から学ぶ生物多様性

2023.09.29

【受賞学生インタビュー】こども環境学会2023年大会「優秀ポスター発表賞」受賞 家政学研究科児童学専攻修士2年 齊藤花奈さん

家政学研究科児童学専攻修士2年 齊藤花奈さん

2023年7月7日(金)~ 7月9日(日)に沖縄県で開催された「こども環境学会2023年大会」に参加された、家政学研究科児童学専攻修士2年 齊藤花奈さん。
本学会では「地域に生きるこども」のテーマのもと、今、こども達は、そして大人も、地域に生きていると言えるのか、また、各々の地域の固有の自然や文化に支えられ地域に主体的に関わる暮らしがあるかを、さまざまなプログラムを通して考えたそうです。本学会のポスターセッションで「優秀ポスター発表賞」を受賞された齊藤さんに受賞作品「都市部の保育施設における野草(雑草)活用の現状」の研究と、学生生活についてうかがいました。

不要なものとされがちな「野草」の研究を評価されたことが励みに

私は以前から積極的に学会の発表に参加したいと考えていたところ、児童学科 請川滋大教授が、私の研究内容に合っているのでは?と、こども環境学会のポスター発表応募を勧めてくださり、参加を決めました。

学会のポスターセッションでは、口頭でのプレゼンテーションと質疑応答がありました。想像以上に聴講者の方が多く、距離も近かったので緊張しました。発表後の質疑応答では、研究対象の範囲確認の質問があったり、私と同じような研究をなさっている教授との意見交換もできたりしました。また、研究手段の1つである質問紙の回収率を上げるにはどうしたらよいかについてもディスカッションしました。ここについては、まさに自分も悩んだところでした。

賞をいただけるとは思っていなかったので驚きましたが、不要なものとして除草されがちな野草(雑草)を扱った研究内容を評価していただけたことは素直に嬉しく思いましたし、研究の自信につながりました。両親に受賞を報告したところ、特に父親が研究に興味を持ったようです。ポスターデータを送ると、「確かに雑草も大切だよね」と読んだ感想を返してくれました。
この受賞を励みに、今後も精進していきたいと思います。

ポスターセッションに参加する齊藤さん
ポスターセッションに参加する齊藤さん
授賞式の様子
授賞式の様子

活用余地はもっとある!保育現場における「野草(雑草)」から学ぶ生物多様性

今回の受賞作品「都市部の保育施設における野草(雑草)活用の現状」は、卒業論文で取り上げたテーマの発展版です。卒業論文の際、公立幼稚園での植物の活用について調査したところ、保育者が意図して植えた栽培植物(トマトなど)や園芸植物(チューリップなど)に比べて、自然に生えてくる野草(雑草)は活用意識が低いということが分かりました。その一方で、「雑草をあえて生やしておく区画を作ることで、虫が集まり子どもたちが触れられる」「雑草も虫にとっては大事な環境だと知ることができる」と生物多様性などを感じられる環境として野草(雑草)を認識している保育者もいらっしゃいました。このことから、野草(雑草)を実はもっと広く活用できるのではないか、他の保育施設での活用意識はどの程度なのかということに関心をもち、野草(雑草)に関する先行研究も少なかったので、修士論文の主題としました。

見えてきた野草の利点

本研究を通して、東京都23区内の保育施設では野草(雑草)は園庭環境の一部として残されているものの、園芸植物と比べるとその認識や活用意識は低く、野草(雑草)の活用方法も偏りがある現状が分かりました。でも、多くの園で野草(雑草)は子どもが自由に摘めるようにされており、遊びに十分に利用できる素材であること、また生物同士の関係性を感じるといった点から有用であると考えられていることなど、野草(雑草)の利点がみえてきたことが収穫だと思っています。
学会で交流した方々も野草の大切さに賛同してくださいましたし、保育施設から戻ってきた質問紙に何件か「これまで活用を意識したことがなかったが、これから意識しようと思う」と書いてあったのを見て嬉しく思いました。

実際に保育施設に送った質問紙
実際に保育施設に送った質問紙。
紙以外にもWebフォームから回答できるようにするなど、回収率を上げるために工夫したと話す齊藤さん。

過去の経験や保育の実践を結びつけた議論ができる大学院での学び

日本女子大学の家政学部児童学科を選んだのは、保育士資格と幼稚園教諭免許の両方を取得することができることと、何よりオープンキャンパスの雰囲気が良いところに惹かれたからです。サークル展示で迎えてくださった先輩方の雰囲気や、児童学科の模擬授業にも参加してみて、楽しそうだなと感じました。ピアノやマジックミラーのある観察室など児童学を学ぶ上での環境も充実していましたし、建物も綺麗で、キャンパスの風景も良かったのが印象に残っています。
大学院に進学したのは、卒業論文を執筆する中で、保育に対する考えを深めることができ、徐々に考察がみえてくる過程が楽しいと感じると共に、新たな疑問が浮かび研究を続けたいと思ったからです。
卒業論文と修士論文の内容が繋がっているので、卒業論文と同じ教授のもとで修士論文も書き上げたいと考え、日本女子大学の大学院に進みました。
大学院は学生の年齢層がさまざまで、保育現場での経験がある方もいるため、授業内で過去の経験や保育の実践と結び付けた議論ができることが大きな学びになっていると感じます。

今後は保育における野草(雑草)環境の現状の分析を進めた上で、野草(雑草)の活用方法や活用の意義について考察を深めていきたいです。野草(雑草)の環境が意図的に整備された園では、保育者はどのような意識をもっているのか、園児がどのように関わり、何が育まれているかを調査していきたいと思っています。

齊藤花奈さん

修了後は保育士として現場で経験を積みたいと話す齊藤さん。ご自身の研究をとても楽しそうに話すのが印象的でした。これからの研究も期待しています。