人が踏み込めない人工林を、木に触れ、歩き回ることのできる環境に

2023.07.06

【受賞学生インタビュー】埼玉設計コンクール特別審査員賞受賞、家政学研究科住居学専攻修士1年 平原 朱莉さん

住居学科の学部生だった2022年度に、(一社)埼玉建築設計監理協会主催の建築系学生奨励事業「第23回卒業設計コンクール」にて、「生木の風化と循環を体感する–原始の思考と現代の技術で再生する人工林」という作品で特別審査員賞を受賞された、家政学研究科住居学専攻修士1年平原朱莉さんにお話をうかがいました。

- 特別審査員賞の受賞、おめでとうございます!感想をお聞かせください。

ありがとうございます!別の卒業設計コンクールでは、受賞候補作品として選出いただいたことはあったのですが、今回は特別審査員賞という最終的に形ある賞をいただけたことが嬉しかったです。
両親はもちろんですが、模型作りを手伝ってくれた友人もとても喜んでくれました。
- 応募のきっかけと、埼玉県とのつながりを教えていただけますか。 

埼玉を敷地にした作品が応募できると学科から案内があり、自分が長期間かけて考え、たくさんの方々のご協力を得て作り上げた作品がどのような評価を受けるかが知りたくなり、応募しました。
埼玉との縁ですが、秩父で林業のボランティアをしたことがあったんです。シカが樹皮を剥ぐことから木を守るために、ネットを張る作業などをしました。そこから、敷地を秩父の森として、この卒業制作を考えていきました。

人が踏み込めない人工林を、木に触れ、歩き回ることのできる環境に

- 受賞作品を紹介していただけますか。

はい、作品名は「生木の風化と循環を体感する−原始の思考と現代の技術で再生する人工林」です。
これは建築物のデザインではなく、人工林という社会課題に着目した「環境」の堤案です。私は街と人工林がくっきりと分断していることに違和感を抱いていました。川上である森の中で住宅街のような豊かさを作れないかと 考えていった過程で、その解決として切り株を建築基礎として使えないかと。通常、住宅の基礎にはコンクリートを使うのですが、森にコンクリートという人工物を持ちこまず、切り株の持つ強度をいかせないか、と考えました。地盤調査や鉛直・水平方向での押し込み試験(硬さ試験)を通して、切り株を建築基礎に活用できると分かりました。
- そもそも人工林にはどのような問題があるのでしょうか。

日本では戦後に建築資材としてスギが大量に植えられました。それらが放置され、林に日光が入らず暗い空間となり、人が手入れしにくい場所となっています。人工林の放置は、花粉症にも大いに関係しているとされています。
そこで今は入って行こうとも思わない人工林を開くために、人工林に切り株を用いて道を作り、人が木に触れられるような場所に変えていけないかという提案をしました。林に入った人が人工林への意識を変えるきっかけとなる空間である、小さな小屋も設計しています。また、スギの木を伐採した後は、樹種をコントロールしながら、生物多様性に良い針葉樹と広葉樹の混合林にしていくことも考えました。
審査ではSDGsという観点、自然への配慮をしながら新しい居住形態を提案したことを評価してくださったようです。
- 難しいテーマでも良い評価を受けられて、ご自身も自信に繋がったのではないですか。

この作品の意図が伝わりきるかが不安でしたが、審査員の先生には読み解いていただくことができたようです。デザイン力というよりは思想や、社会課題をどう解決するかというのが自分の作品のテーマでした。江尻先生(住居学科 江尻憲泰教授)ともそこが伝わりきらないかもしれないと話していましたが、意図が伝わったということが嬉しかったです。光栄にも埼玉県の大野知事からお褒めの言葉もいただくことができたため、励みになりました。
- 埼玉県知事からどのような激励がありましたか。

埼玉県の施策でも混合林(針葉樹と広葉樹)化を進めているそうなのですが、なかなか難しいよねという共感の言葉と、建築をやっている方が社会的な視点を持っていることは良いことだと思う、そして実現できると思うから頑張ってと激励していただきました。
平原さんが提案した、人が入れる人工林の全景
平原さんが制作した模型。伐採した切り株を用いた道を人が歩けるようにしている
埼玉設計コンクールでは、模型とともにパネルを展示した
- 今回の作品の着想に至った背景を教えていただけますか。

コロナ禍で、家で課題をするだけの日々が続いていた中、大学3年の夏休みに、林業が活発な宮崎県で1か月間生活する機会に恵まれました。そこで、スギの木が全伐採された寂しい風景を目の当たりにして、どうにかできないかという思いが生まれたのが、着想の背景です。

身近なスケールから捉えていくのが本学の良さ。1年から図面や模型の経験が積めることで技術も蓄積できる。

- 平原さんが建築の道に進む中で、譲れないこだわりはありますか。

住居学科の設計の授業では、敷地などのリサーチ、形とプロセスを考える、模型を作る、プレゼンテーションをするという流れがあり、色々なスキルが鍛えられました。当初は形づくりがやりたくて住居学科に入ったのですが、授業や仲間からの評価の中で、自分の強みはリサーチ力だと気づき、徹底的にリサーチをすることを大切にしています。
作品の重要な要素を担う、切り株の調査をした平原さん
 - 住居学科ならではの雰囲気がよく分かりました。平原さんが日本女子大学を選んだ理由はなんでしょうか。

まず建物が好きだったので、建築を学びたい思いがありました。その中で住居学科では、身近な生活の視点から建築を考えられるというのが魅力的でした。工学や美術からだけ ではなく、身近なスケールから捉えていくところが本学の良さだと思います。
オープンキャンパスで先輩方の模型を見て憧れたことも理由の一つです。
木材の性質や構造を学べて自分が好きなテーマに取り組める江尻研究室(住居学科 江尻憲泰教授:構造デザイン、文化財補強、事故調査)を選び、卒業制作に取り組めたことは、自分にとってとても良い選択だったと思います。
- 大学院進学を選ばれた理由はなんでしょうか。

私の研究分野である構造は、専門的な用語や数値計算が多く、学部のみでは理解が足りないと思ったからです。江尻研究室では、企業の専門家の方とお話ししたり、さまざまな土地に赴いて調査をするような貴重な機会も多く、同じ環境のまま学部での研究をさらに深めていきたいと思い、そのまま進学することに決めました。
インタビューに答える平原さん
- 学部、院での学びの魅力や印象的な授業や取り組みを教えてください。

学部1年生の時から図面を書いたり模型を作ったりできます。また、歴史や構造などの建築に特化した知識を得られる授業があったことで、建築がデザインだけではないことを知り、建築への興味が広がりました。学年が上がると、自分の興味に基づいた発表をする授業も多く、やりたいことを先生方に支えていただける環境です。
大学院では、主体性が求められている授業が増え、資料作りやリサーチなどに追われながら、毎日楽しく過ごしています。
とにかく日本女子大学の住居学科に入って良かったとしか思えないです(笑)建築分野に行くと決めている人には、住居学科のカリキュラムは本当におすすめです。
1年から図面や模型などの制作ができると4年間でたくさん経験が蓄積されますね。
 最後に将来目指したい道を教えてください。


学部・修士と深めていく、構造や森林の研究をいかした仕事ができたら嬉しいです。森林や自然が持続していく取り組みに関われたらいいなと思います。

- ぜひ頑張ってください。改めてこのたびはおめでとうございました。
 平原さんがインタビュー出演したビジネス情報番組「賢者の選択 FUSION」YouTubeはこちらからご覧いただけます。
「賢者の選択 FUSION」YouTube(外部サイト)

平原さんは隈研吾建築奨学財団の2023年度奨学生に選ばれました。
隈研吾建築奨学財団(外部サイト)


2024年度から住居学科は建築デザイン学部として独立します。⼈⽂、理⼯、芸術を融合した総合学問として「住まう」⼈の為の「建築デザイン」を学ぶことが特徴です。今後発表していく情報にもご注目ください。