卒業生・修了生に向けたメッセージ
日本女子大学学長 大場昌子から卒業生・修了生に向けたメッセージ
卒業式に代えて

学長の大場です。
学部の卒業生、通信教育課程卒業生、そして大学院修了生の皆さん、晴れの門出を心よりお祝い申し上げます。
おめでとうございます。
新型コロナウィルスの感染拡大のため卒業式・修了式を執り行えなくなり、新たな旅立ちを迎えたみなさんに直接「おめでとう!」と言えないことは、私たち教職員にとりましても本当に辛く苦しい決断でした。心からお詫びいたします。
また、学生の学びをこれまで支えてくださった保護者の皆様には、卒業式をどれほどか楽しみにしておられたことと存じます。大学としての苦渋の決定にご理解を賜りまして、お詫びとともに深く感謝申し上げます。
さて、現代は、よく「予測不可能な時代」と言われます。温暖化が象徴する地球環境の変化や、AIなどのテクノロジーの進化が劇的なレベルで進む中、私たちが10年後・20年後に生きる社会の有様は、誰にも正確には思い描けないでしょう。たとえば今回の新型コロナウイルスによる感染拡大も、つい数か月前にこの急速で広範囲に及ぶ勢いを想像できた人はおそらくいないと思われます。しかし歴史を振り返ってみると、時代が移り変わる過程において、繁栄と衰退を繰り返しながら社会は常に変容し、同じ状態が長く保持されることはありませんでした。ですので、私は「予測不可能」という言葉が多用される風潮はあまり好きではありません。私たちが生きる現代社会だけが予測不可能という不安を抱えているわけではないからです。
成瀬仁蔵が本学を創立した明治時代は、言うまでもなく日本が大変革を遂げた時代でした。本学創立の1901年は、6年前に日清戦争が終わり、3年後には日露戦争が始まるという年ですから、その激動のほどが想像できます。本学創立から10年後、明治最後の年にあたる1911年に発行された『進歩と教育』という書物において、成瀬先生は以下のように述べておられます。
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然し人は各々皆一種の天才を有しておつて、其の種類こそ異れ、大小の差こそあれ、何物か一つの潜伏力を有しておる。一旦此の力が発揮さるるや、あたかも土中に埋もれた種子の春に遇ふて萌芽を発するが如く、暗澹たる室内に瓦斯の光りの輝くが如く一潟千里(いっしゃせんり)の勢[ひとたび流れ出ると一気に千里も流れ去る水の勢い]をもって人格を作り、学識を修め、事業を経営することが出来て、必ず其の希望する彼岸に到着して、完全なる結果を見ることが出来るのである。
この非常なる力は何處に、求むべきか。自然に待つべきものでもなく、他人によるべきものでもない、ただ我が心の奥に求むべきものであって、其の原動力となるものは、実にConcentration (適当な訳語はないけれどしばらく勢力集中と云っておこう)によるのである(※一部現代語訳に修正しています)。
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成瀬先生はここで、一人ひとり必ずその人固有の力をもっていて、勢力を集中することでその力は存分に発揮され、成果を生むのだ、と説いています。成瀬先生が生きられた激動の時代にあっても、先生は、人は「非常なる力」をもつことができ、その力があれば人は希望を叶えられると考えていたのです。このことをみなさんに、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。あなた方が「非常なる力」をそれぞれに発揮するならば、先が見通せない社会でも臆せず前進することができるという成瀬先生の人間への信頼を理解していただきたいのです。
成瀬先生は私たちに三綱領を遺されました—信念徹底、自発創生、共同奉仕。卒業論文や学位論文を完成させるまでの本学での学修を通して、皆さんにはこの三つの精神が育っています。本学の卒業生は三つの教えを支えに、自分で考え自分で行動し、揺らがない信念をもって、多種多様な道を切り拓き社会を変えてきました。
あなた方にも、本学で培った真の自信を糧にして、恐れることなく道を切り拓いていってもらいたいと思います。
この学位記とともに、母校日本女子大学がいつもあなた方の近くにあり、温かく見守っていることをどうか忘れないでください。そしていつでもまた大学にいらしてください。あなた方のホームカミングを私たち教職員は大歓迎いたします。
最後にもう一度
ご卒業、ご修了、誠におめでとうございます。
学部の卒業生、通信教育課程卒業生、そして大学院修了生の皆さん、晴れの門出を心よりお祝い申し上げます。
おめでとうございます。
新型コロナウィルスの感染拡大のため卒業式・修了式を執り行えなくなり、新たな旅立ちを迎えたみなさんに直接「おめでとう!」と言えないことは、私たち教職員にとりましても本当に辛く苦しい決断でした。心からお詫びいたします。
また、学生の学びをこれまで支えてくださった保護者の皆様には、卒業式をどれほどか楽しみにしておられたことと存じます。大学としての苦渋の決定にご理解を賜りまして、お詫びとともに深く感謝申し上げます。
さて、現代は、よく「予測不可能な時代」と言われます。温暖化が象徴する地球環境の変化や、AIなどのテクノロジーの進化が劇的なレベルで進む中、私たちが10年後・20年後に生きる社会の有様は、誰にも正確には思い描けないでしょう。たとえば今回の新型コロナウイルスによる感染拡大も、つい数か月前にこの急速で広範囲に及ぶ勢いを想像できた人はおそらくいないと思われます。しかし歴史を振り返ってみると、時代が移り変わる過程において、繁栄と衰退を繰り返しながら社会は常に変容し、同じ状態が長く保持されることはありませんでした。ですので、私は「予測不可能」という言葉が多用される風潮はあまり好きではありません。私たちが生きる現代社会だけが予測不可能という不安を抱えているわけではないからです。
成瀬仁蔵が本学を創立した明治時代は、言うまでもなく日本が大変革を遂げた時代でした。本学創立の1901年は、6年前に日清戦争が終わり、3年後には日露戦争が始まるという年ですから、その激動のほどが想像できます。本学創立から10年後、明治最後の年にあたる1911年に発行された『進歩と教育』という書物において、成瀬先生は以下のように述べておられます。
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然し人は各々皆一種の天才を有しておつて、其の種類こそ異れ、大小の差こそあれ、何物か一つの潜伏力を有しておる。一旦此の力が発揮さるるや、あたかも土中に埋もれた種子の春に遇ふて萌芽を発するが如く、暗澹たる室内に瓦斯の光りの輝くが如く一潟千里(いっしゃせんり)の勢[ひとたび流れ出ると一気に千里も流れ去る水の勢い]をもって人格を作り、学識を修め、事業を経営することが出来て、必ず其の希望する彼岸に到着して、完全なる結果を見ることが出来るのである。
この非常なる力は何處に、求むべきか。自然に待つべきものでもなく、他人によるべきものでもない、ただ我が心の奥に求むべきものであって、其の原動力となるものは、実にConcentration (適当な訳語はないけれどしばらく勢力集中と云っておこう)によるのである(※一部現代語訳に修正しています)。
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成瀬先生はここで、一人ひとり必ずその人固有の力をもっていて、勢力を集中することでその力は存分に発揮され、成果を生むのだ、と説いています。成瀬先生が生きられた激動の時代にあっても、先生は、人は「非常なる力」をもつことができ、その力があれば人は希望を叶えられると考えていたのです。このことをみなさんに、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。あなた方が「非常なる力」をそれぞれに発揮するならば、先が見通せない社会でも臆せず前進することができるという成瀬先生の人間への信頼を理解していただきたいのです。
成瀬先生は私たちに三綱領を遺されました—信念徹底、自発創生、共同奉仕。卒業論文や学位論文を完成させるまでの本学での学修を通して、皆さんにはこの三つの精神が育っています。本学の卒業生は三つの教えを支えに、自分で考え自分で行動し、揺らがない信念をもって、多種多様な道を切り拓き社会を変えてきました。
あなた方にも、本学で培った真の自信を糧にして、恐れることなく道を切り拓いていってもらいたいと思います。
この学位記とともに、母校日本女子大学がいつもあなた方の近くにあり、温かく見守っていることをどうか忘れないでください。そしていつでもまた大学にいらしてください。あなた方のホームカミングを私たち教職員は大歓迎いたします。
最後にもう一度
ご卒業、ご修了、誠におめでとうございます。