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授賞対象



石山友美 氏(映画監督)



授賞理由



監督作品、ドキュメンタリー映画「だれも知らない建築のはなし」の試みに対して



 石山友美監督は、日本女子大学の家政学部住居学科を卒業し、磯崎新アトリエを経て、渡米。建築、芸術論、社会理論を学ぶ間に映画製作に興味をもつようになる。2014年に「少女と夏の終わり」で監督デビューを果たし、本作「だれも知らない建築のはなし」は、2014年建築国際博覧会ヴェネチアビエンナーレ日本館コミッショナー、建築史家の中谷礼仁氏に依頼された資料映像を劇場用に再構成したものである。

 1970年から現在に至るまでの中で日本における建築の断片が、日本の建築家、磯崎新、安藤忠雄、伊東豊雄、アメリカの建築家ピーター・アイゼンマン、オランダの建築家レム・クールハース、建築理論家のチャールズ・ジェンクス、に、世界の建築を紹介しはじめた日本の建築雑誌編集者2名を加えた、計8名のインタビュー映像構成によって紹介されていく。2度のオイルショック、戦後の高度経済成長のおわり、不況のはじまり、バブル経済の勃興と破裂、グローバル経済、リーマンショック、2つの大震災などが、その背景には見えてくる。
 それぞれ別な空間、別な時間に行われたインタビューは、8名がそれぞれ、ある者は独白するかのような、ある者はこちらに語りかけるような、その姿が映し出される。それらは編集によって、同じトピックスに対してまるで語りあっているかのようにつながり、時代と建築、が浮かびあがってくる。建築雑誌編集者である植田実氏はその有様を「劇映画からもドキュメンタリー映画からも離れた、架空の現実というべき第三の場をつくりあげている。」と評している。単なるアーカイブでもなく、余韻が仕込まれたドキュメンタリーでもない。経済、政治に対してはどこまでも無力な存在である建築家という個人。その、まぎれもない、ひとりの人間として、いかに建築家たちは、公共空間に関わろうとしてきたか。それが群像劇として、その息づかいが浮かび上がる。
 インタビューの合間に差し挟まれる建築を映す映像も、建築を説明するためにアングルを変えたりはしない。ほとんどスチール写真のように固定化されたアングルによる映像がしばらく流され、そこには、人や車、光などの活動が浮かび上がり、静かに明滅している。石山氏は、「いろんな映画の中にでてくる都市の風景というものは、作家が意図して作り込んでいるものと、作家が意図せず映り込んでしまっているものが両方あって、その組み合わせが躍動感のある時代の表現となっているような気がします。」と語る。建築よりも建築がつくる世界の方を意識している。
 建築という触知できる物、人々の営みである世界をつくるこの職能は、個人として現代社会の中でどう在ることができるのか。そこに明確な答えは示されていない。しかしそれは、建築家だけの問題ではなく、消費社会における都市、震災後の東北、そこに生きる現代の人間を考えるための構図も見え隠れする。
 映画の原題は「Inside Architecture」。建築の内面を見つめることで、世界を見せる「第三のドユメンタリー」を制作したその知性と創造性について高く評価したい。


 以上の理由により家政学部賞を授与する。